583 マイルームと書いて物置と読む
兄貴分というか、システムや設定の多くを共有している『笑顔』とは異なり、『OAW』は大規模多人数同時接続ではない。ある意味プレイヤーごとのワールドそれ自体が個々人の『ホーム』のようなものだと言えるだろうね。
そのため、シュクトウさんのように商売をしたい人や、スミスさんのように物作りをしたい人でもなければ、プレイヤーたちが集まる『異次元都市メイション』に拠点を持つメリットは薄い、かと言えばそうでもない。
「借りた『マイルーム』を物置や倉庫の代わりに使う、ですか」
「そうそう。もちろん、フレンドと落ち着いてゆっくり話す場所が欲しいだとか、部屋を飾り付けて楽しみたいだとかいう真っ当な理由で借りるプレイヤーもいるわよ」
メイションには個室を用意してある飲食店も多いけれど、時間帯によっては満席ということもそれなりにあるからねえ。人の目や耳を気にしないで気兼ねなく会話ができる場所として『マイルーム』が候補に挙がるのも納得できる。
そしてリアルでは重労働になってしまう部屋の模様替えも、こちらであればボタン一つで可能だ。
床や壁を傷つける心配もしなくて済むし、こだわりたい人にとっては夢の空間だろう。
まあ、ボクの場合はそんな真っ当な使用方法にはなりそうもない訳ですが。
「アイテムボックスを備え付けるとなると一気に金額が跳ね上がるから、部屋の中に放り出したままということになっちゃうけどね」
片付けが苦手な人だと、回復薬などの消耗品から装備品まで散らかり放題の散乱し放題になってしまうらしい。
まあ、リアルとは違ってゴミらしいゴミがないから、汚部屋化しない分マシかもしれない。
「あと注意が必要なのは、本編内の時間経過と連動していないから、こちらに置いたままになっていると、野菜の育成はできないし、お肉の熟成とかチーズなどの発酵なんかも進まなくなることかしらね」
えーと……。食べ物関連ばかりが例に挙がっていたのだけれど、分かり易く説明するためであって深い意味はない、よね?
『マイルーム』や『マイホーム』が建ち並ぶのは、メイションの西の大通り、通称『居住区』だ。
売り手と買い手が丁々発止のやり取りをしている様があちこちで見られる中央の『屋台通り』や、そこかしこからいい匂いが漂ってきては、店員さんたちのお客の呼び込みの声や食事をしながら会話をするざわめきが聞こえてくる東の『食道楽』に比べると、格段に静かだった。
行き交っている人の数にそれほど違いはないはずなのにね。良く言えば閑静な雰囲気ということになるのだろうが、悪く言えば寂れた印象と言えそう。
これには個々の『マイルーム』や『マイホーム』と空間が地続きではないため、人の気配が薄くなっていることが原因しているように思う。
要するに、建物と人の数が一致していないので、ゴーストタウンだとか廃墟だとかいうイメージが浮かんでしまうのだろう。
かくいうボクも、しばらく『マイルーム』を借りるつもりではあっても、本格的にそこを拠点にするつもりはない。
今のところはシュクトウさんが言っていたように、物置代わりに使用するだけとなる。
さて、『マイルーム』の借り方ですが、メニュー画面のメイション専用の項目――これはメイションに居る時にのみ追加で表示される――の中から『マイルーム』を選択し、希望の条件に合う部屋を探して、期間を決めて決定するだけという、たいへん簡単お手軽なシステムとなっております。
ボクが選んだのは四畳半一間の最低ランクの部屋だ。
ソース類の大樽さえ置いておければいいからね。
ちなみに、これをアレンジしてショーワ中期の安下宿を再現したプレイヤーがいるとか何とか。あー、うん。楽しみ方は人それぞれなので、特に言うことはないです。
「ええと、期間は最短で一週間、最長で一年ね。うーん……。一週間あれば迷宮をクリアできるとはお思うけど、もうすぐ年末になるからなあ……」
リアルの都合でログインできなくなるということも十分に考えられる。少しもったいない気もするけれど、ここは安全策を取って一カ月借りておくことにしようか。
全くもって余談になるけれど、窓から見える景色も変更可能です。当然その分追加で費用が必要になるけれどね。
さらに課金をすれば、リアルの景色に変更することも可能なのだそうだ。
ボクの部屋?最低家賃の設定なので隣の建物の壁しか見えないという、ある意味面白仕様になっていますぜ。
「これで、よしと」
アイテムボックスから出した大樽を次々に並べていく。これで「何かアイテムを消失してしまうかも?」と心配することなく迷宮の転移を利用することができる。
まあ、その先にはすぐにキメラという強敵が待っているのだけれど。
調査報告によると、エルフたちはキメラがいることを確認はしたものの、戦うことなく調査を終了したらしい。
魔物が溢れ出す心配がなさそうだからとか、特別貴重なレアアイテムが取れる訳でもないからと書かれていたが、結局のところ、キメラと戦ってまで迷宮を攻略することに価値を見出せなかったのだろうね。
メタ的なことを言えば、ボスの攻略情報まで渡すのはやり過ぎになる判断された、というところかな。
という訳で、掲示板等を使って調べてみることにしました。いやはや、先人たちの努力と気合と執念とちょっぴりの自己顕示欲に感謝せずにはいられませんね。
どうやらキメラは中ボス的な立ち位置で登場する機会が多いようで、多くの情報が挙げられていた。
そうした情報によると、キメラの攻撃手段は多く、それらを適宜用いることで隙らしい隙がないということが分かった。
主に前面を担当するのは本体であるライオン頭だ。牙による噛みつきに加えて両前足の爪での引き裂き、屈強な体躯を利用した突進を多用してくるという。
側面へと移動した場合、背中の山羊頭が固くて丈夫な角を用いた頭突きで牽制してくるし、背後まで回り込んでも尻尾の蛇による噛みつきや巻き付きと言った厄介な攻撃が待っている。
それなら、距離を取って弓や魔法でダメージを与えて行けばよいのではないか、と思った人も多いだろう。が、そうは問屋が卸さない。
なんとこのキメラ君、三つそれぞれの頭に遠距離攻撃できる能力を備えているのです!
ライオン頭は咆哮による物理系統の衝撃波を、山羊頭は闇属性のブレスを、尻尾の蛇は毒霧を放ってくるのだ。
あれ?
これ、本気でシャレにならない強さではないですかね?
ぽけー……。……あ、すみませんごめんなさい。春の陽気にぼんやりしてました。営業努力月間です。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




