582 いらないなら売ってしまおう
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昨日は時間も押していたこともあって地下十階から迷宮前集落へと帰還したところでログアウトしていたので、まずは諸々の雑用を終わらせないといけない。
エルーニとは集落へと戻ってきた時点で別れている。彼との協力関係はできる限り秘密にしておきたいからね。
次の迷宮への挑戦の時間については調整済みだし、残った消耗品類も預けてあるので問題なしです。
ちなみに運搬費用は、地下五階より先で取れた魔物の素材を引き渡すことで話がついていた。
これまでの最高到達階層が地下四階なので、冒険者協会の出張所などにそれ以降で取れた素材を出してしまうと、これまた問題になってしまいそうだったからね。ある意味渡りに船の状況だったと言える。
本人は「これやとワイの方が貰い過ぎやで……」等とぼやいていたけれど、地下十階という並の冒険者では到底辿り着くことのできない場所にまで来てもらうのだから、それくらいの役得はあってしかるべきだと思う。
なによりボクたちのアイテムボックスの中には、こちらでは出すことのできない『土卿エリア』の魔物素材なども入っているからね……。
これ以上は本格的に容量を圧迫してしまうことになるので、ぜひとも引き取って欲しかったのだ。
しかし、次は迷宮の入り口側から転移をすることになるので、アイテムボックスに入れたままではそれらの素材も消失してしまうかもしれない。
これは少し対策を考える必要があるね。
そんな訳で、冒険者協会の出張所で地下四階の魔物素材を売り払うことで、ここに集まっている冒険者の中ではトップレベルの実力があることを証明してみせた後、ボクは異次元都市へと向かうために再度ログインし直したのだった。
「グロウアームズが完成したと思えば、今度は迷宮の攻略?『テイマーちゃん』も忙しいわね」
やって来たのはすっかりお馴染みとなったシュクトウさんのお店だ。
「それで、入口からの転移を気兼ねなく使えるように、余っている素材類を売りに出すということで良いのね?」
「あはは……。完全にお見通しでしたか。多分、大したものはないと思うんですけど、どうせ売るならいつもお世話になっているフレンドの人たちにお願いするべきかなと思いまして」
よくよく考えてみれば、『土卿エリア』から『火卿エリア』へと飛ばされたことは『冒険日記』に書いてあるのよね。
だからメイションでプレイヤーを相手に、その頃取れた素材を売っても全然問題がないのだった。
「すっかり自分のワールドの方と混同しちゃってました」
「他のゲームの話だけど、二束三文でしか売れない物をレアアイテムと勘違いして後生大事にずっと持っていたなんていうプレイヤーだっているんから、気にする必要はないわよ。……ただ、『テイマーちゃん』がさっき言ったように特段珍しい素材ではないから、買い取るにしても相場に少し色を付けたくらいにしかならないけれど構わないかしら?」
「え?そんな無理しなくてもいいですよ?」
「売れる当てはあるし、そちらで利益が出るから大丈夫よ」
シュクトウさんは自分のお店を構えることができるくらいの商人なのだし、その言葉を疑うような真似をするのも失礼だろう。
ということで、アイテムボックスの肥やしとなっていた大量の素材を買い取ってもらったのだった。
「残る問題は……、これですかね」
ふと視線を横に向けると、そこには一抱え以上もある巨大な樽が数個並んでいた。
ソイソースにウスターソース、中濃ソースが入った樽でございます。料理を作る機会がある度に、惜しみもせずに使っていたのだけれど、それでもそれぞれがまだ半分近く残っていた。
「大人買いとかいう次元の量じゃないわよ、これ……」
「えへへ……。この時はちょうどブラックドラゴンさんの一件での報奨金があったから、つい」
これを逃せば次はいつ買えるか分からない!?という不安もあったから、思わず大量一括購入をしちゃったのよねえ。
まあ、未だにボクのワールドではクンビーラでしか買うことができない貴重な調味料という扱いのままだから、あながち間違いという訳でもなかったりする。
探してみれば意外な所で売っているのかもしれないけれどね。色々とイベント目白押しの現状では、そんな余裕がないというのが本音だったりする。
そして、食べ物関連のアイテムは、各プレイヤーのワールドからメイションへと持ち込むことはできるけれど、その逆はできないようになっている。
どうして?と問われても運営がそう決めているから、としか答えようがない。謎です。
ともかく、仮に迷宮の転移で消失してしまうと、クンビーラに戻ること以外にはソース類を確実に手に入れる術がないのだ。
しかも、です。ボクの場合は『火卿エリア』は群雄割拠な内戦状態な上に、他国との関係をほぼほぼ遮断している鎖国状態でもある。
よって、クンビーラに帰るためにはこっそりと国境を越えるか、どこかの勢力に協力するなりしてグダグダになっている現状を改善するか、の二つに一つしか方法がないのだった。
「他国どころか、それぞれの領ごとに睨みをきかせ合っているから、別の領地へと移動するだけでも一苦労になると思うわよ」
シュクトウさんが言った状況は、勇者様プレイのようなよほど特殊な設定でゲームを開始していない限り、全プレイヤー共通の環境となる。
そのため、一部プレイヤーからは「戦国時代を題材にしたシミュレーションゲームのような成り上がりが、『火卿エリア』のコンセプトなのではないか?」なんて囁かれたりもしていた。
運営は黙して語らないから、これまた真相のほどは不明です。
「その話を聞くと、ますます消失させることができなくなっちゃいました……」
今やボクだけでなくミルファやネイト、そしてうちの子たちまで各種ソースを用いた味に慣れてしまっている。それが食べられないとなれば暴動が起きる、とまではいかなくてもショックを受けることは間違いない。
迷宮の探索もこれから先は未知の領域へと足を踏み込むことになるので、モチベーションが低下するような事態は避けておきたいのだけれど。
「それなら、物置を借りるのはどう?」
「物置を借りる?」
リアルでならばともかく、ゲーム内ではあまり聞くことのない言葉に、ボクはコテンを首を傾げたのだった。
い、今さらながらに気が付いてしまったのかもしれない……。営業努力月間なのです。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




