581 地下十階で待つもの
迂回路がない厄介な地形に、スケルトンという怯みも恐れもしない面倒な魔物と、地下九階は侵入者の地力を試すと共に消耗を強いるような嫌な造りをしていたのだった。
「こんな感じで普通ならゴリゴリと力押しで進んでいくしかないけど、エルーニ一人だけなら〔気配遮断〕の技能とかで案外何とでもなったりするんじゃないかと思ったりしちゃったり?」
「まあ、他所のスケルトンと同じやったら騙くらかすくらいはできるやろうな」
ゲームだからね。「感覚器どころか思考するための脳すらないスケルトンが騙されるとかどうなっているんだ!?」とか小難しいことは考えてはいけません。
そんな訳で挑戦してみていけそうであれば、地下十階まで来てくれるということになったのだった。
先にも言ったように次の階層に繋がる階段のある場所までは一本道で迂回路がない。そしてそんないかにもな造りの場所に魔物が配置されていないことなどあり得ない。
スケルトンたちの脇や間をスルスルと擦り抜けているエルーニに対して、ボクたちは真っ向から魔物に立ち向かうことになったのだった。
「さすがは上位の魔物だけあって、スケルトンヘッドとスケルトンソルジャーは一筋縄ではいきませんわね……」
特にその二種が同時に出てきた時が厄介だった。片や魔法使い系の遠距離攻撃特化、片や剣を持って鎧を着こんだ重装備の接近戦特化。
ただでさえ狭い通路での戦いということで面倒だというのに、それぞれが連携するような動きをしてくるのだから、うっとうしいことこの上ない。
鉄壁を誇るリーヴや、小さい体を活かして魔物どもの背後を突いて回ったエッ君、百発百中の精度で狙撃を繰り返すトレアと、うちの子たちがいなければ間違いなく突破するのは不可能だっただろう。
「ミルファ、回復させますから動かないでください」
魔法の使い過ぎか、みんなの傷を癒して回すネイトの顔にも疲労の色が濃い。改めてこの階層は何度も挑戦できるものではないと痛感させられることになった。
幸いにもエルーニは気付かれることなく進むことができたようであるし、ぜひとも地下十階まではやって来てもらうことにしよう。
「こればっかりはまあ、仕方があらへんか」
このように本人も納得してくれているようだからねえ。うふふのふ。
うん?地下十階にまでやって来て欲しいもう一つの理由?
もちろんそのことも伝えてあるよ。だからここで改めて記述するのもやぶさかではないのだけれど……。
どのみちもうすぐその地下十階に辿り着けそうだから、実物を見て説明した方が分かり易いかもしれないね。
てくてくと階層を繋ぐ階段を下っていく。やはり階段というものは歩くように作られていて、転がり落ちるものではないね。などと、どうでもいいことを考えている内に地下十階へと到着です。
「扉、だね」
「扉ですわね」
「扉です」
「扉やな」
つい当たり前のことをわざわざ各々で口走ってしまうほど、それはある意味異様で、ある意味納得の光景だった。
十階層へと辿り着いたボクたちを迎えたのは、高さが五メートル、横幅が左右それぞれに三メートルはあろうかという、巨大な観音開きの扉だった。
ちなみに現在いるのは、下りてきたばかりの階段と入口へと繋がっているのだろう魔法陣があるだけの小部屋のような場所だ。
早い話、迷宮を攻略するためにはこの扉の先に進む以外の道はない、ということになる。
「えーと、近付いたら勝手に開くのだったっけ?」
調査報告書によれば、演出なのか自動で開くようになっているらしい。巨大な扉には飾り気どころかドアノブやノッカーのような物すらないため、仮に人力で押し開けるとなるとかなりの労力が必要になりそうだ。
もっとも、それ以前に碌な手入れもされていないのか、金属とおぼしきそのほぼ全面に赤さびが浮いており、まともに開閉するのかどうかすら怪しい風体だったのだが。
「今はまだ不用意に近付くことは避けるべきでしょう。エルフたちが調査した当時とは違って、扉が開くだけでは済まなくなっている可能性もありますから」
ネイトの意見に、進み始めていた足の動きを止める。
慎重が過ぎるように思われるかもしれないが、この先に待っているもののことを考えれば妥当どころか賢明な判断だ。
なにせこの扉の向こう側には、
「地下十階などという浅い階層にキメラだなんて、この迷宮も随分とはりこんだものですわね」
ミルファの言う通りの大物が待っているのだから。
キメラ、キマイラとも呼ばれる魔物で、複数の動物の特徴を持つ合成獣だ。数多の漫画やゲームにも登場する有名どころで、作品によっては合成獣の総称として使用されたり、マッドでダークな研究によって作られた色々とヤバイが危険な生物を示す言葉として用いられたりもしているね。
『OAW』におけるキメラの姿は比較的原典の神話に近いものではあるけれど、ライオンをベースにして首のあたりからは山羊の頭がニョキッと生えているし、背中にはドラゴンを思わせるような皮膜の翼があって、短時間であれば空中移動すらできるらしい。しかも尻尾の蛇君も健在です。
たまに蛇ではなくツチノコになっている個体がいるとかいないとか。
運営、遊び過ぎ。
スホシ村からの道中に遭遇した鵺とは違って、こちらはしっかりと実体がある魔物だ。
公式掲示板での目撃情報によると、モブのポップアップモンスターとしてよりも、今回のように迷宮やダンジョンなどの特定の場所に配置されていることが多いみたい。
もうお分かりのことだとは思うが、地下十階はいわゆるボスのいる階層であり、クリアするためには戦闘が必須となっているのだ。
これが、エルーニにこの階層にまでぜひともやって来てもらいたい理由その二だった。
できることなら、ボスとの戦いには万全の態勢で臨みたいからね。
グロウアームズが想像していた以上に強化されてしまった件もある。
思い返してみれば、迷宮を進むごとに魔物が強くなっていた気がする。当然と言えば当然なのだろうけれど、その強くなっている度合いが想定していた以上であるような気がするのだ。
これから戦うことになるキメラが、予想以上に強化されていないとは限らない。
「まあ、何はともあれ、今日のところはこれで撤収することにしようか」
視界の隅に表示されたリアルの時間を現した時計によると、そろそろ日付が変わる頃合いとなっていた。
そろそろ寝ないと、明日の朝起きるのが辛くなってしまう。
寝不足はお肌と健康の大敵なのです。
あれ?無理に小ネタを入れる必要はない……?営業努力月間継続中。
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作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
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更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




