580 地下九階
後々に大騒ぎの原因となってしまうデザートフォックスとの戦いを切り抜け、背後から迫る魔物たちの群れを引き連れながら、ボクたちは間一髪で地下九階へと繋がる階段へと滑り込んだのだった。
いや、これ本当に比喩でも何でもなかったりするから。
お陰で全員一塊になって階段を転がり落ちることになってしまった。
あまりにもいきなりで唐突な展開に、エルーニですら巻き込まれてしまったくらいだ。
「迷宮で一番の大怪我が階段落ちや言うんは、正直どうかと思うで……」
その事に関してはボクも同感だ。でもね、十数体どころか数十体、下手をすれば三桁に届いたかもしれないだけの数の魔物に追いかけられたりしたら、気が動転して一目散に逃げるしかできなくなっても仕方がないと思う。
いやはや、あの階層にいたのがボクたちだけで本当に良かったよ。
もしも他のNPCたちが居たら、トレインなんて言い方では生ぬるいあの魔物の大暴走に確実に巻き込んでしまっていただろうからねえ……。
それにしてもようやく地下九階だ。当初の探索予定だった地下四階から比べると二倍以上進んだことになるけれど、その分時間もかかっている。
加えて、疲労や物資の消耗も激しかった。やはり魔物とのエンカウントと戦闘がネックかな。
逆に言えば、戦闘を回避することができれば大幅に時間と体力を温存することも可能だろう。
「だから、エルーニ一人でなら半日もかからずに楽勝で九階層までやってこられると思うんだけど、どうかな?」
「この際誤魔化しなしに言うてしまうと、条件さえ揃うんやったら多分もうちょっと短縮できると思うわ」
「要求を聞きましょう」
「なんやえらい素直やな。……まあ、ええわ。条件は自分らがこの迷宮について知っとることをワイに全部教えることや」
「なんだ、そんなことなら問題ないよ」
ここまで来る間に、ボクたちは彼が信頼に足る人物だと判断していた。
そして彼が一階分でも深く安全確実に迷宮の奥の階層まで移動することができれば、ボクたちもその分迷宮攻略がはかどることになる。
つまりは最近はやりの、うぃんうぃんな関係というやつですね。
「答えるまでが早っ!?その上軽っ!?ちょっ、自分ほんまに分かっとるんか?冒険者にとって情報は命の次に大事なもんなんやで!?」
「エルーニならそれに見合う働きをしてくれるでしょう。それにやたらと誰にでもその情報を売りさばいたりはしないだろうからね」
信用しているよとニッコリ笑顔でそう告げたのに、なぜだか彼はブルリとその身を震わせたのだった。
しかも、
「もしかして、ワイ、自分から蜘蛛の巣に飛び込んで行ったんと違うやろか……」
そんな失敬な台詞を口から垂れ流す始末だよ。
ポーター役を担ってくれる大切な人材なのだから大事にするのは当たり前だし、協力してくれる分の分け前というか報酬を渡すのは当然のことだと思うのだけれど。
「それだけワイらみたいな人間を怖がって蔑む連中が多いちゅうことや」
おやおや。内輪で権力争いを繰り返している割にはお粗末なおつむの人たちが多いみたい。
もっとも相手がヘッポコであればあるほど、その分ボクたちが動きやすくなるというものだ。まずはこの迷宮を攻略してしまうためにエルーニに情報提供をいたしましょう。
「地下十階までの調査報告書?ここまで詳細なんはどこの組織のやつらも持ってないで……。しかもそれを作ったんは『聖域』のエルフたちとか、自分、こんなお宝をどうやって手に入れたんや……」
いくら信用できるとはいってもボクたちの来歴まで話す訳にはいかないので、「あはははは……」と適当に笑ってお茶を濁しておく。
「できることなら、この地下九階をクリアして次の階層まで来てもらいたいのよね」
さて、時間は有限だからね、いつまでも呆けてもらっていては困る。
迷宮の情報だけでなくその出所まで教えるという大盤振る舞いを――勝手に――したのだから、その分こちらのお願いも聞いてもらいたいところだ。
「ちょっ!?その理屈は色々とおかしいやろ!?」
「でも、ボクたちの情報が正しいと示すためには必要なことだったと思うけどな。エルーニだってどこからの情報なのかを秘密にしたままだったら、心の底からは信用してくれなかったよね?」
あのリアクションだってソース元が分かったからこそだったことは間違いない。
その証拠に彼も「う……。そ、それはやな……」とはっきり反論することができなかったのだった。
「まあ、これからその理由を説明するから、その調査報告と突き合わせて考えてみてよ」
という訳で有無を言わさぬ勢いのまま説明を開始です。
「ボクたちがエルーニに地下十階にまでやって来て欲しい理由は二つあるんだ」
一つはこの地下九階に関係していることで、もう一つは次の階層に関係していることになる。
この地下九階は三度地下埋没の迷路状の構造となっているのだけれど、これまでとは違って巨大な建造物の中のような見た目となっていた。
「調査報告書の記述を見てもらえれば分かる通り、次の階層に繋がる階段のある場所までの通路は一つしかないみたいなのよね」
迂回路がない、つまり魔物がいた場合には、これまでのように回避することができないのだ。地力が試される造りになっているというか、これまでの迷宮攻略のセオリーである極力戦闘を避けるというやり方が通用しないようになっていた。
加えて、出現する魔物も問題だ。この地下九階に出現する魔物は、動く屍なアンデッドモンスターの代表格の一つ、ホネホネなスケルトンたちだった。
しかも装備も何もなく動きも遅い通常のスケルトンだけではなく、ふよふよと空中を漂うように移動しては、空洞になった眼窩から闇属性の【ダークボール】を放ってくるスケルトンヘッド、そして武器や防具を装備したスケルトンソルジャーと、二種類の上位種まで出現するのだ。
あ、ソルジャーといっても金髪でもなければツンツンヘアーでもありませんので。
スケルトンだからね。
毛根も何もないのでツルツルです。
などと小ネタを挟んでみたが、アンデッドだから痛みによる怯みや恐怖による戦意喪失がないため、実は割とシャレにならない強敵だったりするのよね。
そんな連中に打ち勝ちながら進んで行かなくてはいけない訳でして。
できることなら一回こっきりで終わりにしたいと思ってしまうのだった。
早くもネタが尽きちゃったよ!?営業努力月間です。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




