576 昼と夜
途中でマシンガンカクタスの群生地を大きく迂回したり、ワームストロングとの鬼ごっこで走り回ったりしながらも、ボクたちは何とかオアシスへと辿り着き次の階層へと向かった。
「な、なあ?泉の中になんかおったみたいやけど、放っておいてええんか?」
階段を下りている途中で、おずおずといった調子でエルーニが尋ねてくる。
確かに魚っぽい巨大な何かがびったんびったんしていたが、それがどうしたというのか?
「もしかして、食べたかったの?」
「なんでやねん!明らかにボスっぽい雰囲気やったから無視して先に進んでええもんか気になっただけや!」
エルフたちの攻略内容にあの魚のことは書かれていなかったし、こうして問題なく階段を下ることができている。
クリアのために絶対に討伐が必要な中ボス、もしくは大ボスというよりは、腕試し用だったり、倒すことで特別なご褒美が貰えたりするハイレベルのボーナスモンスター的な存在ではないだろうか。
全く気にならないと言えば嘘になるが、迷宮の外はあの通りの有り様だ。万全な状態で挑戦できない以上、スルー推奨です。
「攻略の邪魔にならない以上、無益な殺生をする必要はないよ」
付け加えるならば、後追いの連中の足を止める役割を担ってくれるのではないか、という思惑もあったりします。
ほら、オアシスの中にいるとか、いかにもレアな魔物っぽいでしょう。そして迷宮前集落に集まっていた自称冒険者たちは、これまた欲に駆られた人たちだった。
うん。ぱっくり食い付く未来しか思い浮かばないわ。
もしもエルーニが迷宮内でのアイテム販売を行うことによって、あの連中が地下五階と六階をクリアしたとしても、屋外型の広大さとも相まって、しばらくはこの七階層に釘付けになるのではないかな。
「ほほう。なかなかに策略家やな」
「ふふん。恐れおののいてもいいよ……、って、寒い!!!?」
ちょうど地下八階に到着したのだけれど、その寒さにボクの方がおののきそうになってしまったよ。
こちらも先ほどの七階層と同様に屋外型な上に地面は歩き難い砂地だったのだが、いくつか大きく異なっている点があった。
一つ目は既にネタバレしてしまった通りで、気温が大幅に低下していた。
その下がり幅は尋常なものではなく、肌寒いどころか本格的に冬用の外套が必要だと感じるくらいだ。数字で表すならば、摂氏一桁代前半というところではないだろうか。
そして二つ目。上の階層では煌々と照り付ける真夏の太陽の下のような明るさだったのに対して、こちらはとっぷりと日が暮れた後、夜の帳に包まれてしまっていた。
つまり砂漠は砂漠でも、夜の砂漠ということであるらしい。
ボクの体感としては「月がなく星明りだけの夜」くらいの暗さとなるだろうか。明かりなしでは、目を凝らしたところで十メートルほど先までしか見えなかった。
「同じ地形ですのに、上層とはまるで違いますわね」
やはり寒いのだろう、腕をさすりながらもミルファが興味深そうに辺りを見回している。
そんな彼女をフォローできるように、ネイトが斜め後ろに位置していたのだけれど……。目は口ほどに物を言う、とはよく言ったもので、その瞳は興味津々だと激しく自己主張するように輝いていた。
この様子だと今の段階で実際の砂漠も同じく夜になると一気に冷え込む、という豆知識は口にしない方が良さそうだね。
そちらにばかり関心が向いてしまい、周囲への注意がおろそかにならないとは言い切れないもの。
地下七階も危険な魔物ばかりだったが、こちらに生息している魔物も危険の度合いでは負けてはいない。
まずはデザートフォックス。足音もなく静かに背後から接近してくるため、〔警戒〕技能なしに発見することすら難しい。
隠密性に優れているためか、戦闘力がそれほど高くはないのが救いかな。
次にカクタスアーミー。地下七階にいたマシンガンカクタスと同じくサボテンの魔物なのだが、あちらがその場からは動かなかったのに対して、こちらは人型のためか好き勝手にフィールド内を走り回っているのだそうだ。
最大でも二メートルに届かないそのサイズは、見つかり難いという利点でもあると同時に、発射する棘の威力が低下するというマイナス面もあわせ持っていた。
そして最後、三階層続けての登場だったワームストロングが出てこなくなった代わり、という訳ではないが、八階層にも巨大な魔物が地面に潜んでいた。
その名も暴食アリジゴク。
落ちてきた物なら魔物でも人でも何でもかんでも食べてしまうという。
しかし、この階層の魔物たちの真の恐ろしさは別なところにある。
なんと、ここの魔物たちは種族を超えて共闘してくるのだ。いや、襲ってくるだけならばまだマシで、エルフたちが攻略していた時には、デザートフォックスとカクタスソルジャーが多数でグラトニーアントライオンの巣へと追い立ててくる、などという高度な連携を披露してみせたのだとか。
「一番の攻略法は上の階と同じく、〔警戒〕を切らさずに一気に階段まで突き進むこと、だってさ」
「逃げるが勝ち、ということですわね」
「せやけど、毎度毎度絶対に逃げられるいう保証はないで。戦闘になってしもうた場合はどうすればええんや?」
「デザートフォックスとカクタスソルジャーは、単体だとその真価を発揮できないそうだから、逃げられないと判断した時点で各個撃破に切り替えるべきだろうね」
集団戦が得意なのであれば、集まってくるより先に倒してしまえ!ということらしいです。
なんとも豪快で暴論ギリギリな答えだけれど、それでも一つの真理ではあるのよねえ。
もっとも、その真理に則った行動をする羽目になるとは、この時は欠片も思ってもいなかったのだけれど……。
歩き始めた直後、ネイトとエルーニの〔警戒〕に複数の魔物の反応が引っ掛かったのだ。
「いやらしいなあ。どいつもこいつもワイらの後ろから近付いてきてるで」
眉をひそめて不機嫌を隠そうともしないで言うエルーニの後を継ぐように、ネイトからの報告が続く。
「前方の魔物はわたしたちの進む先を封じるように移動していますね。よってグラトニーアントライオンではなさそうです」
最悪な展開ではないものの、どうやら戦いは避けられないようだ。
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更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




