575 迷宮の砂漠
ルートが分かっている迷路なんて、順路を確認しながら歩くただの作業にしか過ぎない。地下五階、さらには六階を同様の手順でとっとこクリアしたボクたちなのでした。
しかし出現する魔物はバッドステータスや装備の劣化を与えてきたり、壁や天井もお構いなしにどこからともなく奇襲してきたりと、厄介極まりない相手だ。油断なんてしていられる余裕などなかったのだった。
もっとも、そのくらいしか記憶に残っていないとも言えるのだけれど。
特にボクたちの場合は、エルーニさえ一人で問題なく通り抜けられることが確認できたから、下手をすれば二度とこの階層を訪れることがない可能性すらあった。
「よう考えたら、ワイは通り抜けるだけなんやから、律儀に魔物と戦う必要はないんと違うか?」
「あ、そうかも」
という驚きに新事実にエルーニが気付いてしまったため、戦闘よりも先を急ぐことを優先したのだ。
途中で宝箱の一つでもあれば、アイテムの一つでも拾えていればまた話は違ったのかもしれないけれどね。
とにもかくにも、そうこうしている間に地下七階に到着です。
「暑い!むしろ熱い!?そして広い!?」
第一声から大声で愚痴ってしまったボクは悪くない。
だって、そこは一面の大海原、ただし広がっていたのは水ではなく海水でもなく、さらさらとした粒子の細かい砂だった。つまり、砂漠です。
「これが、砂漠……」
「本当に砂ばかりですのね……」
呆然としながらもどこか感動した面持ちでミルファとネイトが呟いている。まあ、初めてこんな光景を目にしたのだから、そうなっても仕方がないだろうね。
ボク?ボクはリアルの方で某有名な砂丘へと、里っちゃん一家と合同で家族旅行に出かけたことがありましたもので。
あれは確か小学生の低学年の頃だったはず。学校が違っていたので久しぶりに会えたこともあって、二人で大はしゃぎしていたように思う。
ひときわ高くて大きな砂丘に登ろうとしていて、途中で砂に足を取られて転倒。彼女と揃って熱くなった砂に頭を突っ込んだのも、今となってはいい思い出……、と言えなくはないこともないかもしれないと思わないでもないかな。
ちなみに、アンクゥワー大陸には海岸沿いに広い砂浜や、内陸部に石ころばかりで荒涼とした荒れ地はあっても、砂漠自体はないらしい。
「これは……、ちょっとまずいかもしれん。いくらワイでもこんだけ広うて目印も何もない場所を抜けることはできんと思うわ」
いつになく弱気なエルーニだが、その顔には喜色が薄っすらと浮かんでいた。
ああ、そう言ってボクたちと取引をする場所をここにするつもりなのか。実際に道も何もあったものではないから、目印も方角も分からなくなってしまうと遭難するより他なくなってしまう。
この階層そのものが一つの巨大な罠、ということになるのかもしれないね。
ただし、それは何の準備もしていない場合の話だ。
「はい、これ。そんなエルーニにプレゼント」
「は?」
戸惑う彼に押し付けるようにして持たせたのは、手のひら大の方位磁針だ。
こんなこともあろうかと!ではなく、エルフの攻略情報に用意しておく物の一つとして書かれていたのだ。思わず、「遠足か何かのしおりかな?」とか考えてしまったことは秘密です。
「ボクたちが事前に得ていた情報によると、地下七階に到着した場所から真っ直ぐ北に向いて進んで行けば、次の階層に繋がる階段を見つけられるそうだよ」
正確には、そのすぐ脇にあるオアシスを発見できるらしい。
余談だけど、地下七階に下りてきたばかりのボクたちの向いていた方角は南南西。正解のルートが正面でも真後ろでもない辺りに、運営の底意地の悪さを感じてしまうね。
「リュカリュカ、オアシスとは何ですか?」
「ものすごく大雑把に言うと、砂漠の中にある泉だね」
おはよう、ありがとう、失礼します、すみませんの頭文字のことではない。
「このような暑くて砂ばかりの地に泉がありますの?」
「あるらしいよ。不思議だよねえ。世界の神秘だわ」
まあ、ここはゲームの、しかも迷宮の中だからある意味何でもありの世界ではあるのだが。
だけど、実際リアルでもオアシスは存在している訳だからね。嘘は言っていないです。きちんと説明しているとも言い難いけれど。
「と言う訳で、クリアできないかどうか試してみようか」
にっこり微笑んでそう告げると、エルーニは引きつった顔でがっくり肩を落としたのだった。
「ところで、一つ聞いてもええか?」
歩き始めて数分後、リーヴと並んで先頭を歩いていたエルーニが首だけ回して後方のボクたちを振り返って言った。
「なあに?乙女の秘密に抵触するようなことは答えられないよ」
「ワイをなんやと思うとんのや。これでも子どもの頃からデリカシーが溢れて零れまくっとるいうて近所では評判やったんやで」
いや、デリカシーがある人は普通、他所様の秘密を覗き見ることになる密偵なんて職業にはつかないと思う。そもそも近所ってどこの?などと言い返すと際限なく漫才風トークへと発展しそうだから、口には出さないけれど。
「二人とも、早く本題に入って話を終わらせて頂けませんこと。ネイトが〔警戒〕を続けているとはいっても、気を抜ける状況ではありませんわ」
ミルファの言う通りだね。今のは場をわきまえなかったボクたちが悪い。
この砂漠には地下五階から三階層続けての登場となるワームストロングに加え、猛毒を持つサンドスコーピオン、その場から動かない代わりに針をこれでもかというほど飛ばしてくるマシンガンカクタスと、これまで以上に個性的で危険な魔物たちが生息しているのだ。
「エルーニ、聞きたいことって何?」
「ああ、大したことではなかったんやけど……。リュカリュカから貰うたこのコンパスが、えらい立派なもんやったから、どこで買うたんかと思てな」
『異次元都市メイション』で買ったプレイヤーメイド品だからね!
ちょっと落とすどころか戦闘に巻き込まれても壊れない頑丈さと、磁場の乱れた場所でもなんのその!な高性能さを誇る一品、であるらしいです。
それはもはや磁石という名前の別物なのでは?
その上、見た目にもこだわっていて、針こそシンプルだったが内側を始め裏面や側面には細やかな装飾が施されていた。
ボクとしてもそこまでの物は必要なかったのだけれど、それ以外にコンパスなんて売っている人がいなかったのよ。
余計な出費の内、約半分がこれに費やされていたと言えば、どれだけお高い買い物であったのかも理解してもらえると思う。
さて、どう説明を……。
うん。説明のしようがないね。
「ふふふ。内緒、だよ」
結局、適当に微笑んで誤魔化すしかありませんでしたとさ。
早くもここに書くいい感じの一言がなくなりつつありますが、営業努力月間です。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




