574 地下五階、攻略中
翌日、放課後にクラスの皆とカラオケに行ったため、家に帰り着くなり急いで宿題を終わらせる。予習復習を軽めにしたからギリギリで夕食に間に合わせることができたよ。
お風呂にも入って寝る準備を万端整えたら、快適な室温に設定して、いざログインです。
冒険者たちにとっては未知の場所である地下五階も、『聖域』のエルフたちによる攻略情報を持つボクたちにとっては、犯人が分かっている推理ゲームに等しいものだ。
「やすが犯人」
「やすって誰やねん。それ以前に何の犯人や」
エルもエルーニも、カンサイ弁を喋る者の宿命なのか、打てば響くように突っ込みを入れてくれるので、ボケ甲斐があっていけない。
「え?今さらりとワイが悪いことにされたような……?」
「エルーニ、リュカリュカの態度に逐一反応していては身が持ちませんわよ」
ミルファさん、それはちょっと大袈裟というものではないでしょうか?
ネイトさんも「その通り」と言わんばかりに頷いていないで、止めてくれませんかねえ。
さて、地下五階の様子ですが、再び地面の中へと舞い戻っていた。エルフたちの過去の攻略記録によると、地下十階まではこうして二階層ずつ、地下と屋外が交互に展開されるらしい。
「情報の通りならこの地下五階も、そして次の地下六階も特に奇をてらったところはない単なる迷路ということみたいね」
ミニマップも問題なく使用できるようだし、そういう意味では地下一階に似ていると言えるのかもしれない。
ただし一階が坑道を模したものであったのとは違って、こちらは鍾乳洞もしくは風穴といった自然洞窟に似た見た目をしていた。
当然、鉱石等が採掘できるようなポイントはない……、と思われるのだが、誰も試していないだけとも言えそうなのよねえ。
よって真偽のほどは不明です。
採取系の技能を持っていれば見極められたかもしれないが、ボクたちの目的とはズレてしまうのでこの話題は終わりにしておくよ。
「順路さえ覚えてしまえば楽勝ですわね」
「出現する魔物はバッドバットにアシッドジェル、そしてワームストロングの三種類となっていますね」
「なあ、自分らこの迷宮に入るんは初めてのはずやんな?なんでそんなに詳しいんや……?」
「それは秘密です」
エルーニの問い掛けを適当にあしらいながら、魔物がいないか目を凝らす。
ネイトが挙げた三種の内、前二つは一、二階層に登場したケイブバットとボールスラッグの強化版と言った感じなのだが、凶悪さや厄介さは段違いになっているのだとか。
それというのも、バッドバットは攻撃の追加効果に状態異常が発生することがあり、最悪の場合は毒麻痺眠りのオンパレードとなってしまうらしい。
そしてアシッドジェルはその名前からも何となく予想が付く通り、攻撃に装備品の耐久値を大幅に減らす効果が追加されているのだった。
ただし、どちらも魔物も噛みつきや接触と、元になる攻撃の範囲が極端に狭いため、距離を取ることさえできていれば大した脅威にはならないみたい。
むしろ突然奇襲を仕掛けてくるワームストロングの方が危険であるようだ。
特に今回は洞窟内ということで、通常の地面からの奇襲に加えて壁や天井からもいきなり飛び出してくることがあるらしい。
「魔物!?何か来ます!?」
「右手側、って壁の中かい!?あかん!距離は不明や!」
って、説明しているそばから襲ってきた!?
慌ててボクも〔警戒〕の技能を発動させてみたところ、確かに右手側の壁の中に魔物がいることが感じられた。
「全員左側に退避!リーヴ、いける?」
急いで通路の左に寄って隊列を組みなおしながらリーヴに尋ねると、小さいながらも頼もしいボクたちの守護神は、コクリと頷いて盾を構えて一歩前へと進み出たのだった。
「くるで!」
エルーニの警告から一拍の後、壁の一部を吹き飛ばすようにして成人男性の腕三本分くらいの太さの巨大ミミズが飛び出してくる。
うへえ……。外見はコミカルにディフォルメしてあるのだけれど、いかんせん蛍光色に近いどぎついピンク色が生理的嫌悪感をこれでもかと刺激してくる。
個人的にはできることなら戦うより以前に遭遇すらしたくない類の魔物だわ……。
その巨大ミミズさんですが、リーヴの闘技【ハイブロック】によって、突進の勢いを完全に止められてしまっていた。
「ミルファ!」
「ええ!」
そんな隙だらけの状態を見逃すボクたちではない。壁から飛び出して剥き出しになっていた胴体?に向けて左右そして下からと、あらゆる方向から攻撃が加えられる。
気持ち悪いだなんて言ってはいられない。だって、ここで倒しきれなければその気色の悪い魔物にかじりつかれてしまうかもしれないのだから!
そして奇襲を受けてから十数秒後、数の差もあってワームストロングはだらりと地面に横たわることになったのだった。
「……驚いたわ。外におる自称冒険者の連中よりはるかに強いと思とったけど、ここまで見事な連携ができたんやな」
そういえばエルーニと行動してきた地下三階と四階は屋外型の広い空間で、しかも一度に出現する魔物の数も多かったことから、個々に別れて戦うという形になってしまっていたのだったかな。
しかし、今の戦いだって動きを止めたところをみんなでタコ殴りにしただけなのよね。それを連携の取れた戦いと言われると、ちょっと反応に困ってしまう。
「いやいや。下手に突撃を仕掛けたら同士討ちになりかねんからな。複数人で一体と戦うっちゅうのも、これでいて結構難しいもんなんやで」
なるほど。確かにそう言われてみると、慣れの部分もあるのだろうが、お互いの立ち位置などに自然と気を遣っていたようにも思える。
「他の魔物たちも近寄らせないことが大事みたいだし、〔警戒〕を切らさないように慎重に進んで行こう」
みんなが頷いたのを確認してから、さらに言葉を続ける。
「あ、次から何回かはエルーニだけで戦ってね」
「なんでや!?」
「だって、ボクたちと取引をするために、エルーニが一人でも問題なく到達できる階層を調べなくちゃいけないでしょ」
「そうやった!うがー!まさか取引を持ち掛けた相手が悪魔やったとは……」
失礼な。ボクを例えるならば、悪魔は悪魔でも「可愛らしい小悪魔ちゃん」でしょうに。
あ、いや、やっぱりなしで。
そう言われたところできっと、イラッとくることに変わりはないだろうから。
春眠暁を覚えず。ぐう……。はっ!?え、営業努力月間は続きますよ。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




