573 ポーターさん確保!
ボクがエルフの彼に出した条件、それは……。
「迷宮の中にまで売りに来い、ちゅうんかいな?」
と、いうことだった。
「いえす。ほら、ボクたちってあの集落限定だけど有名人でしょう。外だとどこで誰が見ているかも分からないからさ」
目撃されるだけならばまだしも、妨害をされないとも限らない。彼と一まとめにされて、どこかの貴族からの回し者だと難癖をつけてくる、なんて可能性も否定できないのだ。
そうなれば迷宮の攻略どころか迷宮に近寄ることすらできなくなるかもしれない。
そこで発想の逆転です。
いっそのこと誰にも目撃されることのない場所で取引すれば、邪魔のしようもない、という訳だ。
「せやけど、それは迷宮の中でも一緒と違うか?迷宮に出入りしとるんはワイらだけやないんやで」
「それなら大丈夫だよ。取引をする場所はまだ他の冒険者たちが辿り着くことができていない、地下五階よりも先の階層にするつもりだから」
「は?……なんや、ワイ、耳がおかしいんなってしもうたんかいな?」
「正常ですよー。確かに、はっきりと、地下五階より先の階層と言いましたー」
「マジか!いや、さっきの戦いやったら四階までの魔物に苦労するようには見えんかったけどやな」
密偵らしく人を見る目や状況判断に優れているだろう彼からそう言ってもらえると自信が付くというものだ。
そして、さらりと次の階層には行ったことがあると暴露してきたね。もしかすると既にもっと先の階層にまで足を延ばしていることもあり得る?
ふーむ……。
これは予定を少し変更してもいいかもしれない。
「どうかな?なんなら、ボクたちと取引ができない時は他の冒険者を相手に商売をしてもらってもいいよ。迷宮の中にまでやって来てるとなれば、きっと引く手数多になるんじゃないかな。本来なら持ち帰れずに捨てられることになるはずだった素材なんかも買い取ることができるかもしれないよ」
アイテムボックスがあるとはいっても、持てる数に限りがあることに変わりはないのだ。
「嬢ちゃんたちはそれでええんか?」
「恩義を感じてくれるなら、ボクたちを優先してくれればそれでいいよ」
迷宮内で回復薬等の消耗品や、攻略に必要になるかもしれない道具類を確保できるということは、それらアイテムが消失するという危険を冒すことなく入り口側からの転移を使用できるということでもある。
それは時間と労力の節約に直結していて、つまりこちらにも十分以上のメリットがあることだった。
頭が回る人であれば、これくらいのことはすぐに思い付くような気がするのだけれど、NPCは元より、プレイヤーでも迷宮の中で商売をしているという話は聞いたことがないのよね。
もっとも、前者は文化の発展が歪なことと同様に、プレイヤーが活躍する場を残しているのだろう。
後者の場合は運営から公表しないように言われている、という可能性もあるのだが、もしかすると「アイテム類の売買は街などでなければ行えない」といった思い込みに支配されているのかもしれない。
実際にVRがゲームの主流となった初期の頃までは、AIの性能が低かったこととも相まって、自由度が低いものばかりであったらしい。
そうした時分からゲームに触れていた人たちであれば、色々と制限があることが当たり前だと考えてしまっても不思議ではないという訳です。
そんなプレイヤーたちの事情はともかくとして。
はてさて、エルフの彼はボクの提案にどう答えるかな?
「了解や。その話、乗ったるで」
やたっ!限定的ではあるけれど、アイテムの運搬要員ゲットです!
これで入口側からの転移が利用できるようになるよ。
「それじゃあさっそくお兄さんが問題なく一人で行ける階層まで進もうか!」
「は?え?ちょっと待ちい。なんでそんなことになるんや?地下五階で待ち合わせるんやないんか?」
「なにを言ってるんですか。せっかくショートカットができるようになるんだから、できる限り利用するのは当然でしょう。それにボクは「地下五階」だなんて言ってませんからね。「地下五階より先の階層」って言ったんです」
ボクの言葉にさっと顔色を青くさせるエルフ男性です。
「は、謀ったな!?」
「謀るとは失敬な。お兄さんが契約内容をしっかりと確認してこなかっただけのことでしょうに。それとも何ですか?今さら止めるとか言い出すつもりですか?信用が命の商人なのに?まさかそんなことはしませんよね?」
畳みかけるように言うと、「し、従わせて頂きます……」と小さな声で呟いたのだった。
「ところでお兄さん、名前は?」
「名前?」
「うん。これからしばらく一緒に行動するんだから、呼び名くらいはないと不便でしょう」
立場や役割上、本名を教えてもらえるとは思っていない。
逆に教えられた方が扱いに困るから、是非とも秘密でお願いしたいところだ。
「ああ、そういうことかいな。……そうさなあ、ワイのことはエルとでも呼んで――」
「却下。『エル』はもうボクたちの知り合いにいるから、別の名前でお願いします」
男女の違いこそあれど、エルフ種な上にカンサイ弁で話すという、これでもかと言わんばかりの強い特徴が被っているのだ。紛らわしいので絶対に別の名前にしてもらわないと困る。
「そ、そうなんか……。あー、そしたらルフ――」
「はい、アウトー!!」
運営か?運営の仕業なのか!?
危険がヤバいネタを仕込むのは止めて欲しいのですけれどねえ!?
「ちょっ!?今度は何がいかんっちゅうねん!?ワイら一族に伝わる、由緒正しい偽名なんやで!」
偽名に由緒も正しさもあったものではないと思うのだけれど。そこはせめてコードネームくらいにしておこうよ。
結局その後も紆余曲折の末に、エルフのお兄さんの呼び名は『エルーニ』で落ち着いたのだった。
名前の由来が『エルその二』だということは彼には秘密。
「ボクたちのことは知っているかもしれないけれど、一応自己紹介しておくね。ボクがリュカリュカで、そっちがミルファ。こっちのセリアンスロープの彼女がネイトだよ」
「リュカリュカにミルファとネイトやな。ほな、あんじょうよろしゅう頼むで」
こうしてエルーニを加えたボクたちは、三階層だけでなくその次の地下四階、所々に林のような木々の密集地が増えただけで出現する魔物を含めてその他は地下三階と同じだったこともあってあっさりと攻略。
ついに――集落に集まっていた冒険者たちにとっては――前人未到の地下五階へと降り立ったのだった。
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他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




