572 どこでも露店
迷宮地下三階で出会ったエルフのお兄さんから持ち掛けられた取引というのは、法に触れるようないかがわしいものではなく、極々普通の真っ当なものだった。
「表向きは別の領地から来た行商人っちゅうことになっとるんやけど、このご時世やろ。他所者やからいうてほとんど見向きもされてないねん」
スパイ対策なのか、そうした傾向自体は『火卿帝国』内であればどこの領地であっても大なり小なり見受けられるのだが、この迷宮前集落ではあからさまに「余所者だから信用ならない」と声を大にして言われてしまうらしい。
「と、まあ、これも理由の一つなんやろうけど、一番はワイが袖の下を一切渡そうとせんかったからやろうな」
集落に到着した際、冒険者協会へと顔を出した際、そしてこの集落を取り仕切っている代官や役人へと挨拶に赴いた際と、それこそことあるごとに要求をされたのだそうだ。
「こっちを見定めるためにわざと後ろ暗い要求をしてくるお人もおるから、最初はワイもその類かと思っとったんやけど、どうにも様子がおかしいから、のらりくらりとかわしとったら、ぶち切れてしもうたんや」
「役人や冒険者協会の職員たちから睨まれたくはないから、同じ商人連中からも距離を置かれてしまっている、と」
「パンパカパンの大正解や。これまでは領民のお人ら相手に細々とやっとったんやけど、さすがにあの人らから巻き上げるようなことはできんからなあ。ほんまに赤字がかさんでたんやで……」
そんな折、ボクたちが現れた。
「正直、開いた口が塞がらん気分やったわ。まさか真っ正面から喧嘩を吹っ掛けにいくんやからな」
この領地では冒険者や冒険者協会が領主一党の手下になるという悪しき流れが強く反映されている。
つまり、あの若者連中をぶちのめしたということは、領主である貴族に喧嘩を売りつけたに等しいのだ。
「まあ、あまり褒められたやり方じゃないのは理解してるよ」
多少でも頭が回る人材が向こうにいたならば、今頃ボクたちは牢屋の中にいたかもしれない。
そういう意味では、左遷されたと思い込んでやる気がない連中ばかりで助かったと言えるのかもしれないね。商人たちから相手にされない程度の嫌がらせですんでいるのだから。
「つまり、お兄さんはボクたちに不良在庫を売り付けたい、と」
「言い方!?ある意味その通りなんやけど、もうちょい優しい言い方にしてもらえんかな!?」
どう言い繕ったところで事実は変わらないのだから、受け入れてしまった方が楽になるというものだと思うのだけれど。
「本当に不良品なら要りませんからね」
「不良品違うし!ええい!そこまで言うんやったら、しっかり目え開いてよう見てみい!」
そう言うとエルフのお兄さんは懐から布のような物を取り出して、ブワサッと広げた。
すると、何ということでしょう。そこには絨毯のような座り心地の良さそうな布の上に、様々な種類のアイテムが置かれた露店が広がっているではありませんか。
「おお!携帯式の露店セットだね!」
商人になるための最初の一歩がこれを手に入れることなのだとか。布を広げるだけで露店ができるのだから、何とも便利なものだ。
「どうや!さっきの戦闘を見とった限りでは、武器や防具は結構ええもんを揃えとるようやけど、消耗品類はそうもいかんやろ」
あの短時間にボクたちの装備品まで観察していたとは、抜け目ないねえ。
触れてはこないものの、地上では隠れてもらっていたうちの子たち、エッ君やリーヴにトレアのこともしっかりと目撃されてしまったことだし、この人に気を許し過ぎるのは危険かもしれない。
それはともかく、せっかく店開きをしてくれたのだから商品を見てみようか。
……魔物が出てくるはずの迷宮のド真ん中だけれど。
「ふむふむ。大見得を切っただけあって、なかなか良いものを扱っているではございませんこと」
近くにあった商品を手に取ると、ちょっぴり偉そうな口調でそう批評する。悔しいけれどボクが〔調薬〕技能で作り出せる回復系のアイテム類よりも効果が高いものばかりだ。
扇子でも持っていれば口元を隠すことができて、そんな態度でも様になったのだろうけれど、何もないので似非マダム感が半端ないです。
「迷宮の中だということを差し引いても、これだけの品質のものを揃えられるのは驚きですわ」
そして同じような台詞を呟いても、生粋のお嬢様であるミルファであれば似合ってしまうという世の中の不条理。
ちなみに、露天の片隅ではネイト先生による薬品類の効果や使用上の注意といったお勉強会が開かれており、うちの子たちが真剣な様子で聞き入っていました。
「ですが……、どれも今すぐ必要ではありませんわね」
ボクたちの評価に満足げだったエルフさんの表情が、その一言で一変した。
「なんやって!?ここに並べてある商品は全部、名の知られた薬剤師の一門が作った物ばっかりや!それやのに必要ない言うんか?」
「ええ。リュカリュカが調達してきた物の方がより高性能ですもの」
「うん。まあ、これだね」
実物を見せなければ納得できないだろうと思い、一つ取り出して彼に手渡す。
「ほげえっ!?な、なんやこれは!?」
〔鑑定〕でもしてみたのだろう、その結果に驚いて仰け反り過ぎてひっくり返りそうになっている。盛大なリアクションをどうもありがとうございます。
とはいえ、そんな反応になっても仕方がないというものだ。
なにせ今のボクよりも二倍以上のレベルのプレイヤーが本気で製作したものだからね。
シュクトウさんいわく、「『テイマーちゃん』基準のワールドの人たちからすれば、中級貴族の家宝レベルの性能だわよ」とのことらしいので。
「だけど無限にある訳じゃないから、補充する相手がいるのはありがたいかな」
これは別に彼のことを気遣ってということではなく、本心だったりします。
いや、プレイヤーメイドの品は、そのね、性能が高い分お値段の方もお高くなっているものでして……。
このところ装備品関係で出費が続いていたから、懐事情を考えると迷宮に入る度にプレイヤーメイドの消耗品を買い込むことなんて、できそうにもなかったのだ。
「と言う訳で、こちらの出す条件を飲んでくれるというなら、お兄さんと取引をしてもいいですよ」
飽きてきた?いえいえ、まだ頑張ります。今月は営業努力月間ですから。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




