567 迷宮攻略の始まり
シュクトウさんにムーンストーンの確保を依頼していた間や、スミスさんにグロウアームズのレベルアップをお任せしていた間、ボクだってただまんじりと過ごしていた訳ではなかった。
顔見知りになったプレイヤーさんが経営している食堂で迷宮に関する噂話に聞き耳を立ててみたり、迷宮で必要になるだろう消耗品類などを購入して回ったりしていたのだ。
ああ、そうそう、『休肝日』とかいう名前だったかな。食堂兼居酒屋さん。
ゲーム内だけでなくリアルでも料理人をしている人が厨房で腕を振るっているそうで、食べ物関係のお店が建ち並ぶ東の大通り、『食道楽』でも有名らしくて、その評判通りとっても美味しいごはんを頂くことができました。
あと、屋台で売っていた串焼きとかも美味しかったなあ。
……いえいえ!決して食べ歩きばかりしていたのではありませんのことよ!ホントだよ!
回復系アイテムなどの消耗品関係はプレイヤーメイドということで品質は良かったのだが、その分お高く予定外の出費となってしまった。
しかし、本編内の迷宮前集落では先日あれだけの騒ぎを起こしてしまったからねえ……。
迷宮に入るための十分な実力を備えていると証明するためのデモンストレーション的な面があったとはいえ、冒険者協会の出張所の連中が許可を出していた若者たちをコテンパンにのしてしまった。
そのことで面子を潰されたと感じる職員がいてもおかしくはない訳で、出入りしている商人たちに対して、明に暗にボクたちとの取引を禁止するように言い渡している可能性があったのだ。
まあ、普通の冒険者協会であればそんな権限はないのだけれど、この『火卿エリア』ではそれぞれの領地を支配する貴族たちの下部組織に近い状態になり下がっていた。
虎の威を借る狐ではないが、貴族の名前を出すことで半ば無理矢理にでも商人たちを従わせることができたのだ。
残念ながらこの予想は当たっていて、冒険者協会、ひいてはその上位者であるアホ領主からの報復を恐れてか、ほとんど全ての商人たちがボクたちとの取引を行わないと決めていたのだとか。
残る極一部も横暴な権力には従わない気骨のある人たち、ではなくボクたちを騙そうとする気満々な悪徳商人たちだったというのだから笑えない話だ。
もっとも、このことを知ったのはメイションで準備を終えた後のことだったから、一欠片も直接的な被害を受けることはなかったのでした。
そして想像以上のパワーアップを果たした龍爪剣斧と牙龍槌杖を受け取った次の日、ついにボクたちは迷宮へと足を踏み入れようとしていた。
ゲーム内だとイフリート氏や若者たちをやっつけた翌日ということになるのだけれど。
こっそり見送りに来てくれていたスホシ村の男性陣やリシウさんたちに、小さく頭を下げることで「いってきます」と伝える。
迷宮の入り口は、地面が人の背丈ほども盛り上がったところにぽっかり横穴が開いている、といった風情だった。
覗き込んでみると結構な角度で斜め下へと続いている。
ここから一分ほど奥へ向かって歩くと、地下一階へと到達するらしい。
それにしても、集落のすぐ側だというのに見張りの一人すらいないとは驚きだ。いくら迷宮内に出現する魔物が外に比べて弱いとしても、いささか気を抜き過ぎなのではないだろうか。
しかも、弱いと判明しているのは冒険者たちが調査できている地下四階までの話なのだ。それより奥には、実はとんでもない強敵が待ち構えている可能性だって否定はできないというのに。
集落に集まっているのが欲に駆られた冒険者や商人たちだけなら自己責任だからと言えたのだろうが、実際にはアホ領主の命令によって多くの領民たちが集められているのだ。そんな人たちに何かあったら、どう責任を取るつもりなのか。
……どうせ誰もそこまでのことを考えていないのだろうね。
うん。やっぱり早々に迷宮を攻略して、潰してしまうのが一番だわ。
「よし。みんな準備はいいかな?」
振り返ってミルファとネイトに確認を取る。うちの子たちは迷宮の中に入ってから出て来てもらう予定だ。
せっかくここまで秘密にしてきたのだから、人の目がありそうな場所で呼び出すような真似はしません。
「ええ。問題ありませんわ」
「わたしも、いつでも行けます」
二人の言葉に頷くことで応える。
目指せ一発攻略!といきたいところだけれど、まともな迷宮には初挑戦だから、思わぬところで躓くことだってあるだろう。
今日のところは様子見ということで、情報がたくさんある地下四階までを目安にして探索を進めていくつもりだ。もちろん、それ以前で詰まるようであれば無理をせずに引き返す予定です。
それではいよいよ迷宮攻略の始まりだ!
入口から歩くこと一分弱。情報通り迷宮の地下一階へと辿り着いていた。
どうして地下一階との境が分かるのかな?と思っていたのだが、なるほど、これならば間違えようがないね。それまで薄ぼんやりとした明かりに包まれていた通路が、突然光量を減少させていたのだから。
緋晶玉が採掘できる――スホシ村の男性陣から、発掘しているのは緋晶玉だと確認済みです――ためか、地下一階は坑道を模したものになっていた。
剥き出しになった岩の壁や天井を所々で木製っぽい枠が支えており、光源となるランプもそこに取り付けてあるのだった。
「あのランプを持っていけたら便利なのにね」
ガラスのような覆いの中で火が燃えているというものだけれど、ロウソクや油といった燃料となるものがどこにもないのだ。
「他の冒険者や商人たちもリュカリュカと同じことを考えたらしいですね。ただし、誰一人として取り外すことができなかったようですが」
それもそのはず、これは単なるランプでなく迷宮によって生み出された迷宮の付属物であるからだ。ゲーム的に言えば、非破壊オブジェクトという扱いになるのかな。
「二人とも、余りのんびりはしていられませんわよ。特に地下一階は採掘のために集められた人々やその護衛役の冒険者たちも出入りするのですから」
ミルファの言う通りだ。ただでさえボクたちは目立ってしまっているのだ。協会の職員だけでなく、冒険者の中にもそれを憎々しく思っている連中だっているだろう。
遭遇しても碌なことにならないだろうから、さっさと奥へと進むべきだわね。
新章になったということで、少しばかり営業努力をば。
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