564 できちゃった
ムーンストーンが入手できて龍爪剣斧と牙龍槌杖の二つのグロウアームズのレベルアップが終わるまで、メイションでのんびりと迷宮及び『火卿エリア』の情報収集をしたり、下見がてら地下一階あたりをパーティー全員で覗きに行ったりしてみてもいいかも、などというボクの思惑は裏切られることになる。
あ、もちろん良い方向へ、ですともさ。
シュクトウさんはメイションに出店していることで得ていたその幅広い人脈をフルに活用することでわずか一日足らずでムーンストーンの持ち主を発見――彼女いわく「ちょっと本気を出してみた」らしい――して、見事に交渉を成立させていた。
「ミスリルアックスに大規模強力魔法が封じられたマジックアイテムの二つと交換だもの。二つ返事で了承してくれたわね。むしろ「これだけでいいのか?」と驚いていたから、勝手にだけど、この一件の秘密厳守と自分のワールド内でのみ使用することを約束させておいたわ」
ああ、牙龍槌杖を作ってくれた鍛冶師仲間にバレたとかで、今回のグロウアームズのレベルアップにも大勢が参加することになりそうだとかなんとかスミスさんが言っていたから。
また一騒動起きてしまうことは想像に難くなく、そうなると素材の出所を探すような無粋で面倒な人だって現れかねない。
騒ぎに巻き込まれないためにもお口チャックは必要なことだろう。
「でも、だからと言って調子に乗って思わず口走ってしまった後のことまでは面倒を見るつもりはないわよ。その場合、約束を破ったのは向こうなのだからこちらに非はないもの」
「それは仕方がないことでしょうね。いざとなれば運営に報告して、しばらくはメイションに立ち入らないようにするという手もありますから、そのくらいは自分で何とかしてもらうということで問題ないんじゃないでしょうか」
なんて会話をシュクトウさんと行ったのが、リアル日曜日の夕方のことで。
「できちゃった……」
「ごほっ!?」
「全然まったく違う意味だってことは分かっているはずなのに、『テイマーちゃん』みたいな美少女に言われると、変な勘違いをしてしまいそうになるわね……」
「え?何のことですか?」
「い、いや。気にしないでくれ……」
???
二人とも気まずそうな表情で明後日の方向を向いているし、スミスさんに至ってはお顔が真っ赤になっていたのだけれど……?
さて、リアルでは新たな一週間が始まっていて今日は火曜日となります。
「レベルアップに必要な素材を渡してからまだ二日ですよ!?いくらなんでも早過ぎじゃないですか!?」
まさかまさか、目の前には先日預けたばかりだったはずのボクの大切な得物、龍爪剣斧と牙龍槌杖の二振りのグロウアームズが柔らかそうな布の上に並べて置かれていたのだった。
当然ですが、渡した時のままというオチではありません。刀身などは元より柄の部分や細かな装飾などの輝かんばかりの光沢や色つやから、レベルアップが見事に成功したのは一目瞭然だ。
「まあ、鍛冶師仲間の誰かが常に作業をし続けているようなものだったからな。ああ、腕のことなら心配しなくていいぞ。全員俺と同等かほんの少しくらいは上だと認めてやらないでもないくらいの実力の持ち主だからな」
「その点は全く疑っていませんでしたけどね!」
二振りのありようを見れば、携わった人たちがどれだけ高い技量を持っていたのかが垣間見えるってものですよ。
これは別にボクにそういった眼が備わっているということではなく、逆にボクのような一般ぴーぷるですら分かるほどの素晴らしい出来栄えだったということです。
そして素直に褒めることができないなんて、スミスさんも意外と負けず嫌いだったんだねえ。
まあ、足を引っ張り合ったり貶し合ったりといったマイナスの関係ではなさそうだけれど。鍛冶師仲間ではあるけれど、それぞれがそれぞれの刺激になって切磋琢磨できる存在、なのであれば素敵だと思う。
「二十四時間体制……。三交代制の工場かなにかかしら?」
「割と本気でシャレにならんから、妙な例えをするのは止めてくれ……」
喜々としてそうした体制を構築してしまいそうな人たちが居るらしいです。あまり責任とか義務が強くなり過ぎてしまうと「やらなくちゃいけない」という脅迫観念が発生してしまい、純粋にゲームを楽しめなくなってしまうのではないかしらん?
プレイスタイルは自由だけれど、だからこそほどほどを維持することも大切な気がするよ。
そんな訳でスミスさん以外のグロウアームズのレベルアップに携わってくれた鍛冶師の人たちには彼に頼んで経由でお礼を伝えてもらうことにしました。
「それにしても、見ているだけで凄いって理解させられるんですけど……」
製作された直後に見た時も圧倒されたものだが、今は存在感みたいなものがさらに増しているように思う。
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだが、せっかくだから手に取ってみてくれよ」
スミスさんに促されて、龍爪剣斧の方へと手を伸ばす。
「…………」
「変な姿勢で止まってしまったけれど、どうかしたの?」
「えっと……。なんだか妙な圧を感じてしまいまして」
圧力を感じた元、牙龍槌杖の方へと視線を向けるも、特におかしなところは見当たらなかった。
えー……、なんとなくこの後の展開が読めた気もするのだけれど、あえてベタベタにお約束の通りの行動をしてみようと思います。
改めて今度は牙龍槌杖の方へと手を伸ばしてみたところ……。
「ふひゃ!?」
先ほどに負けず劣らず強い圧が龍爪剣斧から飛んでくる。
思わず恨みがましい目でスミスさんを見てしまったボクは悪くないはず。
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!少なくとも、俺たちがレベルアップの作業をしていた時は何も起こらなかったんだぞ!?」
「そりゃあ、いくら自分たちをパワーアップさせてくれているとはいっても、むさ苦しいおじさんたち相手に自己主張はしないでしょう」
「言いたいことは分からんでもないが、身も蓋もねえな、おい!?」
さすがに二度目ともなると、ボクの身に何が起きているのかが分かったらしい。茶化すシュクトウさんの言葉に乗るようにしてスミスさんが叫ぶ。
しかし、それが格好だけのことだということはお見通しなのですよ!
逃避したくなる気持ちはとっても良く理解できてしまうのですが、二人ともしっかりと現実――ゲームだけど――を見ましょうね。




