561 ガチャチャレンジ 一回目
現在、ボクが持っている『ガチャチケット』の数は四枚。
チケット一枚当たり一度の挑戦権があるので、四回チャレンジできるということになる。
「ちょっと待った。リュカ、じゃなかった。『テイマーちゃん』は『ガチャチケット』を使うのは初めてか?」
「そうですけど?」
「それなら初挑戦記念で、一回余分にガチャを回せるわね」
運営からのちょっとしたサプライズプレゼント、ということのようだ。
うがった見方をする人たちからは、「課金の沼に引きずり込むための巧妙で悪辣な罠だ」なんて言われたりもしているらしいけれど。
「実際には外れを引くことの方が多くて、「ガチャは課金してまでやるものじゃない」って冷静になる人が大半らしいわよ」
つまりは、運良くビギナーズラックで良い物を引き当ててしまった人ほどのめり込んでしまう危険が高くなる、と?
……なんとも皮肉が効いた話だね。
「確かに、ガチャならグロウアームズの合成素材に使えるアイテムが貰えるかもしれない。試してみるのもアリだな」
「ただし、変に期待してはダメよ。取れたらラッキー、くらいの気楽な調子でやるべきだわ」
「ああ。一番の大敵は物欲センサーだからな」
うん。言いたいことはよく分かるのだが、二人ともお顔が真剣過ぎてちょっと怖いです……。
ちょっとした運試しくらいのつもりでやればいいかな。イベントクリアのボーナス報酬だったけれど、そのイベント自体が必要に駆られて発生させたようなものだ。つまりは『ガチャチケット』を狙ったものではなく、本当に偶然手に入った代物だと言っても良かった。
そう考えたら気持ちが楽になってきたね。いつの間にやら二人の緊張とか凄みに感化されていたみたい。元々なかったものなのだから、何が当たっても問題なし!
「でわでわ、さっそく一枚目をビリリっと」
「ああっ!?」
イベント会場入り口のもぎりの係員よろしくチケットびりびり破ると、ポンッとコミカルな演出と効果音を伴ってガチャ、カプセルトイの自販機が現れる。
「ちょっ!『テイマーちゃん』!?破る必要はなかったのよ!?」
「あ、そうなんですか」
「というか、あんなやり方でも使用したという扱いになるものなんだな……。チケットが無駄になったかと一瞬ひやりとしたぞ」
なんでも、普通はガチャチケットを使用すると宣言するだけでいいのだとか。
叫ぶ必要はなく小声でオーケーだそうです。
「ただ、当たっても外れてもいいネタになるというか話題にはなるからな。南北にある広場で露店を出していると、目立ちたがりの連中が大声で叫んでからガチャを回しているのを結構な頻度で見かけるぞ」
当然のように、そうした人たちの九割方は大外れらしい。が、極々たまに大当たりを引き当ててしまい、集まっていた知り合いや野次馬から過激な「お祝い」を受ける羽目になるのだとか……。
しかも運営が悪乗りしているようで、手荒い祝福を受けた人は絆創膏が身体のいたるところ――服とか鎧の上から貼られている――に貼り付けてあったり、頭にギャグ漫画かギャグアニメのような大きなたんこぶができていたりと、面白姿へと見た目が変化させられてしまうのだそうだ。
「本人なら任意ですぐに元の姿に戻せるし、放っておいてもほんの二、三分で元通りになるんだけどな」
「本気でお遊びなオマケ要素なんですね……」
技術と容量の無駄遣いのようにも見えるのだけれど、そういう余興的な部分が思わぬ方面で役に立ったりすることもあるものだ。特にクリエイティブなお仕事の場合は、柔軟な発想力というのはそれだけで武器となり得るものだから。
まあ、今回のことはやっぱり悪乗りし過ぎていると思うけれどね。
さて、思わぬところで時間を食ってしまうことになったが、いよいよガチャに挑戦です。
「ドキドキ!」
「こっちまで緊張してきちゃうから止めてー!」
「あはははは」
わざとらしいボクの煽りの擬音に、これまたわざとらしい調子でシュクトウさんが悲鳴を上げるという和やかな雰囲気の元でレバーをガチャコンと回す。
コロコロと転がり出てきたカプセルを開けると、テッテレー♪という微妙に気の抜けるファンファーレが鳴り響いた。
「ふぁっ!?」
「はあっ!?」
何だろうと思っていると、横合いからシュクトウさんとスミスさんの二人が発したらしいおかしな音が聞こえてきたので振り向いてみると、……ちょっと言葉にするには憚られるようなお顔とポーズで硬直していた二人がいたのだった。
百歩譲ってスミスさんはいいとしても、女性としての尊厳とか色々なものが崩壊してしまいかねないのでシュクトウさんの方は絶対にダメだわ。
そんな訳で「しばらくお待ちください」。
あ、背景はうちの子たちのほんわか画像を脳内で補完してくださいね。
「二人とも落ち着きました?」
「あ、ああ。一応、問題なく頭は働いているはずだ」
「まだ心臓が変な調子で脈打っている気がするけど、とりあえずは平気よ」
そこはかとなく不安になる返答だわね……。まあ、本人たちが大丈夫だというのだから信用しましょうか。
「それで、二人ともどうしてそんなに驚いていたんですか?」
「そこからなのか!?……ああ、そういえば『テイマーちゃん』はガチャを回すのもガチャを回しているのを見るのも初めてだったか」
「ガチャ報告の掲示板なら、ちょっとだけ覗いてみたことはありますけど」
「あそこは自慢合戦の場所になっているから情報を拾うのには向いていないわね」
「それなら知らなくても仕方はないか」
どうやら常識とまではいかなくても、大半の人が知っていることみたいです。
「『テイマーちゃん』、あのね。ファンファーレ、というにはしょぼいけど、あれが鳴るのはレアアイテムが当たった時だけなのよ」
「へ?……え、あれで大当たりとかマジですか?」
「マジよ」
あんなに微妙でとってつけたような効果音なのに!?
うわー……。大当たりのありがたみが一気に薄れた気がするよ……。
「まあ、『テイマーちゃん』だから五回もチャンスがあれば一回くらい大当たりを出すような気はしていたんだが……。まさか一発目からくるとは予想外だった」
そしてスミスさん……。まさかそんな風に思われていたとは。
運も実力の内とは言うけれど、運の要素しかないところで期待されても困るのですが……。
〇補足
ガチャの獲得アイテムの大枠は、本当にサイコロを振って決めました。
そして一発目から大当たりが。……リュカリュカちゃん、すげえ。
詳しくは後ほどのあとがきに記載します。




