560 レベルアップの条件
馴染みになりつつあるシュクトウさんのお店で、龍爪剣斧と牙龍槌杖の状態を確認していたスミスさんが「このままでは力不足だ」と呟く。
鍛冶師プレイヤーは店舗を構えていないことも多く、彼もその例に漏れずに南北どちらかの広場で露店を出しているのが常だった。本当はボクの方から訪ねていくのが筋なのだけれど、なんだかんだで有名になってしまったために、こうしてわざわざ足を運んでくれているのだった。
「見た目にこだわらない無骨な職人といった風情丸出しのスミスがうちの店にいると、違和感が半端ないわね」
シュクトウさん!それは言っちゃいけないやつです!
……まあ、ボクも心の中ではそう思っていたのだけれど、口には出していないのでセーフなはず。
一方のスミスさんはというと、特に不快に感じた様子もなく「ほっとけ」と軽い調子で返すだけだった。あー、実用性一辺倒で洒落っ気の一つもない作業着だからねえ。方々で似たようなことを言われ慣れていたのかもしれない。
それでも気持ちの良いものではないだろうから、さっさと話題を変換いたしますですよ。
ボクは気遣いのできる子なのです。
「力不足とはいっても、グロウアームズをレベルアップさせるためには条件をクリアしないといけないんですよね?」
「ああ、その通りだ。簡単に言ってしまうと、武器の経験と合成する素材、そして鍛冶師の腕前の三点だな。そのうちの武器の経験と鍛冶師の腕前の二つは要求値に到達しているぞ」
凄まじくざっくりだったので、もう少し詳しく説明をしておこうか。
武器の経験はそのままの意味で、グロウアームズを使用しての戦闘の回数ということになるかな。クンビーラを出発して以降、『土卿王国』から『火卿帝国』に至るまで使い続けてきたから、十分な量の経験値が蓄積されていたのだろう。
ちなみに、内部ではどのように扱われていたかが細かく記録されており、レベルアップした際に反映されるようになるのだとか。
粗雑に扱っていると思っていたのと違う成長をする、なんてこともあるらしい。とんでもない進化をしないか、ちょっとばかり不安になってしまう……。
次に素材だけど、これには大きく分けて二つの役割がある。
一つはグロウアームズ本体の強化で、これはキャラクターでいうところの能力値の上昇に当たる部分だと思ってもらえれば分かり易いだろう。レベルアップの基本となるところだね。
二つ目は追加機能の付与だ。例えば、火属性の攻撃ができるようになったり毒の状態異常を与えられるようになったり、といった具合です。こちらはキャラの技能や闘技の習得に当てはまるものかな。
そしてどちら用途で使用する場合でも、素材には一定以上の希少性《レア度》が求められることになる。
まあ、グロウアームズ自体が珍しい代物だから、これは当然の措置だろうね。
付け加えると、レア度が高いほど性能の上昇幅も大きくなるとのこと。『笑顔』でもグロウアームズのレベルアップ回数に制限があるのかどうかは未だに分かっていないのだが、他のゲームだと回数制限があるものも少なくないらしいので、後悔したくないならその時点で手に入れられる最高峰の素材を使用することが推奨されているみたいです。
最後に鍛冶師の腕前だけれど、これも読んで字のごとくでレベルアップを請け負ってくれるプレイヤーもしくはNPCの〔鍛冶〕技能の熟練度のことだ。
スミスさんいわく、「初期の〔鍛冶〕技能をマスターすることで条件を満たすことができた」らしい。
余談ですが、〔鍛冶〕はマスターすることで〔中級鍛冶〕だけでなく、〔武器鍛冶〕や〔防具鍛冶〕、それに〔道具鍛冶〕といった専門系が派生するそうだ。スミスさんはもちろん〔武器鍛冶〕へと進化させたかと思いきや、〔中級鍛冶〕にしたのだとか。
「俺も最初は〔武器鍛冶〕にするつもりだったんだけどな。いろんなやつとフレンドになったことで、あれやこれやと頼まれるようになったんだよ」
今では生産職プレイヤーの仕事道具だとか、商人プレイヤーの開いたお店に並べる商品などまで手掛けているそうで。
「効率を追い求めるのも面白いけれど、それだけだと息苦しくなるものよ。ゲームなんだから、あちこちと手を出してみるのも良いものよ」
「いや、それ俺の台詞だからな。というか妙な依頼ばっかりしてくるお前が言うな」
えーと、まあ、本人たちが納得しているみたいなので、ボクからは特に言うことはないです、はい。
「結局、ネックになるのは合成するための素材ってことですかね。ワールドの方でも手元にあった素材は全部格が足りないと言われちゃいましたから」
迷宮内で採れるアイテムに期待したいところなのだが、このままの龍爪剣斧と牙龍槌杖では、そこに潜む魔物たちと渡り合うには力不足になってしまう可能性が高いときている。
「最近は初期エリアから外へ出ることができるようになったプレイヤーが増えてきて、ようやくワンランク上の素材を露店で売りに出しているやつも増えてはきたんだが……」
「でも、まだまだ数が少ないから、足元を見て強気の値段設定がされているわね。メイションで素材を揃えるつもりなら、相応の出費を覚悟することになるわ」
ブラックドラゴンさんを大人しくさせたご褒美としてもらったお金がまだ残ってはいるけれど、これまでの旅でかなり使ってしまったからなあ……。
迷宮を攻略した後のこともある。武力衝突こそ起きていないが、『火卿エリア』の混乱っぷりは想像以上だったからね。分かり易い価値のあるお金はある程度持っておきたいのだ。
しかし、このままでは迷宮を攻略できずに詰んでしまうかもしれない。それだけならまだしも、準備を怠ったために全滅してしまった、なんてことになったら後悔するどころの話ではなくなる。「お金は大事だけれど、使い時を見誤らないように」とは誰の言葉だっただろうか?ともかく、今が使い時であることは間違いないはずだ。
「あ、そう言えばこんな物もあったっけ」
と、腹を括ろうとしたその時、アイテムボックスの中にとある物が入れっ放しになっていたことを思い出した。
「ああ、『ガチャチケット』ね……」
取り出したそれを見た瞬間、二人が遠い目をし始める。ああ、これはチケットを獲得するまでは良かったのだけれど、見事に外れちゃった経験があるのだろうね。




