559 迷宮入りはしません
さて、その後のことを少々早足で振り返ってみましょうか。
まずボクたちだけれど、無事に冒険者協会の職員たちに認めさせて迷宮への挑戦権を手に入れることができた。
やっぱりイフリートという目に見えて強大な魔物――前にも述べたけれど、『OAW』では精霊も魔物の一種という扱いです――を退けたことが大きかったようだ。
まあ、職員の中には倒してはいないことを理由に難癖をつけてごねようとしていた人もいたのだが、
「へえ。イフリートを相手に一人で囮とけん制もしながら油断を誘って、本命の召喚主に向かって必殺の一撃を放つのが簡単なことだとは恐れいったよ。さすがは冒険者協会の職員をやっているだけのことはあるよね!」
と賞賛の言葉を贈ってあげると、バツの悪そうな顔でそそくさと逃げ出していった。
それでもまだ文句を言おうとしていそうな人がいたので、あちらが口を開くより先に、
「あと、弱点を突くのは戦いでは当然のことだと思っていたのだけれど、ボクの間違いだったのかな?」
小首を傾げながら可愛らしく問いかけてみると、何も言わずに黙ってしまったのだった。
ふふん!『OAW』の世界でもやはりカワイイは正義ですね!
次に子どもたちですが、あの冒険者の若者たちに対してはまだ色々と思うところはあったようだけれど、ボクたちがコテンパンにのしたことでひとまずは留飲を下げてくれたようだ。
どうやら、現状では保護者代理となっているリシウさんたちが言い聞かせてくれた部分もあったらしいのだけれど、詳しい話は聞いてはいない。
立ち入ったことを教えてもらったところで、今さらボクたちがあの子たちにしてあげられることなどないからね。幸いにもリシウさんの部下の人たちは頼りになりそうだし、彼らが雇っているベテラン冒険者たち――『おやっさん』を始めとした御者を務めていた人たちのことね――も帝都ではそこそこに名の知られた存在であったようだ。
なので、彼らに任せておけばそれなりに上手くいくのではないかと思っている。
そのリシウさんたちだけれど、子どもたちやボクたちと知り合ったいきさつなどについて根掘り葉掘り聞かれることになったらしい。
「偶然出会っただけで、子どもたちの身元を引き受けることにしたのは義憤に駆られたためだ」と、正直にというか本当にそうとしか言いようがなかったため率直に話したそうなのだが、そこはまあ、案の定というか信じてもらえなかったみたいね。
ボクたちの方にまで調査員と称した迷宮前集落を取りまとめているお役人――アホ領主の家臣に当たるっぽいです――が事情の聞き取りに訪れたのだった。
もっとも、事実であると再確認するだけに終わった訳ですが。
ちなみに、リシウさんたちとボクたちの間で既に話がついていて、揃って虚偽の報告をしているのではないかとも疑われたのだけれど、
「それに何の意味があるんですか?仮にこの場所を奪うのが目的だとすれば、とうの昔に終わっているはずですよ。……え?まさかイフリートを退けられるのがボクだけだとでも思いましたか?」
少しばかり含みを持った台詞で脅してあげると、あら不思議!あっという間に前言を撤回してこちらの言い分を信用してくれたのでした。
リシウさんたちの話を続けよう。出会いのことは正直に話したものの、役人たちが最も知りたかっただろう素性については、のらりくらりとした受け答えで追及の手から逃れていたそうだ。
まあ、一応は『火卿帝国』の中枢もしくはその付近にいた人たちのようだからねえ。腹芸などはお茶の子さいさいで、話術で向こうの思惑を煙に巻くなんて日常茶飯事のことだっただろう。
そして対する役人たちはというと……。まあ、ほら、大勢の領民を投入している重要な場所に派遣されているだけのことはあるんじゃないかなと思わないでもないだけの能力は持ち合わせているのではないかしらん。
……が、言い繕っても仕方がないので率直に述べてしまうと、本人たちは領都から左遷されたくらいにしか考えてはいないようだった。
多分、権力争いか何かがあって、そこで敗北した人たちがこの地へと移動してくることになったのではないかな。だから、やる気というか意欲というか気迫というか、とにかくそういったものが今一つ彼らからは感じられなかったのだった。
ボクたちの迷宮への立ち入り許可だって、冒険者協会の方からの要請をそのまま通したような形だったくらいだ。
能力に加えて気持ちの面でも劣っている連中が、海千山千――かもしれない――のリシウさんたちに敵うはずがないのは道理というものだよね。
結局、滞在許可に加えて子どもたちの所有権の移譲までもを許してしまうことになってしましたとさ。前半はともかく、後半は大失態だと思うのだけれど、彼らがその事に気が付くのはいつの日になることやら。
余談だけど、これらについても詳しい話は一切聞いてはいない。いや、少年たちの扱いとか気にならないと言えば嘘になるけれど、下手に聞いてしまうとがっつりと彼らの問題事に巻き込まれてしまいそうで、ね……。
え?時既に遅し?
……いやいやいや。そんな、まさか。ほら、名前を教えてもらっているのもリシウさんだけだし、まだきっと大丈夫なはずですよ。……たぶん。
えー、とにかくそんな調子で万事まるっと上手くいったと言っても良いだろう展開となった訳です。
そしてボクたちはさっそく迷宮へと突撃したかというと、実はそうではなく。
昼食を終えた土曜日の昼下がり、年の瀬が近くなったことですっかりと空気が冷え込むようになってきたが、お家の中は暖房が聞いていてぽかぽかです。
ほどよくお腹が満たされていたこともあって眠るようにしてログインしたボクが向かったのは、プレイヤーたちが集まる憩いと商戦の場、『異次元都市メイション』だった。
対戦相手に向かってぶん投げたり火の大精霊の拳に叩き付けたりと、豪快な扱いをしてしまったボクの武器たちのメンテナンスのためだ。
ついでに、迷宮についての情報が拾えたら、なんて下心もあったり。
「耐久値の消耗自体は大したことないんだが、いかんせん作ってから未だにレベルアップできていないせいで力不足になっちまってるな……」
フレンドでもあり牙龍槌杖の製作者の一人でもあるスミスさんの言葉に、これは本格的にグロウアームズのレベルアップを図る必要がありそう、と思いを強めることになったのだった。




