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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十七章 迷宮と迷宮前集落

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558 三試合目 後編

 召喚主の彼を守らなくてはいけないため、その場から移動できないイフリート氏に向けて次々と水属性の魔法を撃ち込んでいく。


「あっはっは!どうしたの?反撃したいなら動いてもいいんだよ?」


 気分はとっても悪者です。

 ちらりと周囲を見回してみると、案の定野次馬たちは顔をしかめているし、子どもたちも予想外の展開に唖然としていた。

 さすがにリシウさんたち一行はボクの行動に何かしらの意味があると考えたらしく落ち着いていたけれどね。


 やれやれ。あの人たちの裏をかいて意表を突くのは難しそうだ。

 絶対に敵対関係にならないように気を付けよう。


「お、おい!絶対に動くなよ!俺を守れ!」

「うるさい!わめかなくても分かってる!」


 嫌がらせのようなちまちました攻撃にむこうはイライラが溜まってきているもようです。

 ふむふむ。まずは敵の集中力を削ぐ作戦は上手くいっていると言えそうだ。


 え?イフリート氏に守られると、召喚主を倒し難くなるのではないか?

 その通りだね。でも、仕込みの真っ最中である今ならば問題なし。むしろしっかりと守ってもらうことで、ボクの狙いが「召喚主の彼を人質にして身動きが取れなくなったイフリート氏を倒すこと」だと、この場にいる全員に思い込んでもらいたいのだ。


 そんな企みを持っていることは表に出さず、目論見がはまって調子に乗っているように魔法による攻撃を繰り返していく。

 しかし、敵もさるもので徐々に対処が早く的確になってくる。そして、


「【アクアボール】!」

「そう何度も同じ手でやられるか!」


 かざした掌から飛び出した火の弾によって、ついにボクの魔法が消し飛ばされてしまう。


 うっそ、まぢで!?

 いくら連発最優先で威力が下がっているとはいえ、火属性攻撃で相性の悪い水属性の魔法を消し飛ばしてしまうだなんて。

 お調子者で中二病っぽい言動ばかりが目についていたとはいえ、火の大精霊であることに変わりはないということか。


「やるわね!ではこれならばどう?アクアド――」

「やらせるか!」


 低威力では(らち)があかないため高威力の魔法に切り替えようとした、と考えたのだろう。発動までのわずかな間をぬうようにしてイフリート氏が距離を詰めてくる。

 自分が狙いである以上、近寄ってしまえば背後にいる召喚主へは手が出せなくなると考えたのかもしれない。ちまちました嫌がらせ攻撃にストレスが増して冷静でいられなくなっていたこともあるだろう。


「でも、予想通りなのよね。【スラッシュ】!」


 移動の運動エネルギーまでもが加わった、大振りながらも高威力の拳の側面に龍爪剣斧の斧刃部分を叩きつける。

「ぐおっ!?」

「つうっ!」


 ガツン!とまるで岩か何かを叩いたような衝撃が腕に伝わってくる。精霊ってもっと半物質的な存在ではないんですかねえ!?

 拳を逸らせることには成功したけれど、反動でボクの体ごと立ち位置が横へとズレてしまったいた。


「まさか我が一撃を迎撃してみせるとはな。だが、これからどうするつもりだ?接近戦ならば俺様の方に分があるようだぞ。もちろん、魔法を使う暇なんて与えてやらねえからな」


 だから喋る時にはキャラを統一しておきなさいよ。

 と、そんなツッコミはともかくとして。確かに先ほどは闘技まで繰り出してようやく拳の軌道を逸らすことに成功した。

 が、イフリート氏のあれは、移動してきた勢いをそのまま載せただけの単なる大振りのパンチでしかない。格闘や体術といった技能を用いられてしまえばなす術なくやられてしまうだろう。


「残念。こちらはもうチェックメイトが終わっているの」


 ただしそれはイフリート氏と戦う場合の話だ。

 先ほども言ったけれど、あの攻防でボクの立ち位置は少しばかり横にずれることになった。それはボク、イフリート氏、召喚主と一直線に並んでいたラインがなくなっていることを意味していた。


 つまりですね、今のボクからは召喚主の彼が丸見えとなっている訳です。


 体を捻りながらアイテムボックスから出現させたもう一つの得物を片手に持つ。


「え?あ、なにを?」

「どっせい!」


 とぼけた声を発するイフリート氏を無視して、身体のねじれを戻す力でもって牙龍槌杖をサイドスロー気味に放り投げた。

 技能や闘技がなくても、ゲーム内(こちら)の優れた身体能力を用いればわずか十メートル前後の距離などないに等しい。


「たわば!?」


 未だMPの大量消費の疲労から回復しきれていなかった召喚主にそれを避ける体力はなく。

 ぶおんぶおんと風切り音を上げながら飛んできたマイウェポンに巻き込まれて、ぶっ飛んで行ったのだった。


 結局、それが決め手となった。意識が刈り取られてしまったことで召喚主との繋がり、すなわち〔召喚〕に用いられていたMPの供給が途絶えてしまったのだ。


「しまっ――」

「バーイ。次は別の立場で会えるといいねー」


 驚愕の顔つきのまま薄れていくイフリート氏を、ひらひらと手を振りながら笑顔で見送ってあげる。

 あれだけ濃いキャラだったからね。まあ、十中八九何かの形で再会することになるだろうさ。

 できることなら平和的にというか友好的なものであって欲しいところだけれど、果たしてどうなりますことやら。


「お疲れさまでした」


 いつの間にか近付いてきていたネイトが【ヒール】の魔法をかけてくれる。

 実はイフリート氏、火の大精霊だからか近くに寄ってきただけでダメージ判定があったのだ。


「装備品や道具、建物の類には影響がないだけマシだったね」


 迷宮前集落の建物は大半が掘っ立て小屋というか木製なので、燃え広がるような事があれば大惨事になっていたかもしれない。

 今さらながらにそのことを思い付き、ボクは大きなため息を吐く羽目になったのだった。


「武器を投げるだなんて、思い切ったことをしましたわね」


 わざわざ回収してきてくれたのだろう、ミルファから差し出された牙龍槌杖を受け取って、龍爪剣斧共々アイテムボックスへと仕舞い込む。

 無茶な扱いをしたから、後で点検をしておかないと。


 ちなみに、仮に外れてしまった時には「今のは警告だよ。今度は魔法を撃ち込むから」とか何とか言って、召喚主の彼に敗北を宣言するように仕向けるつもりでした。


「とにかく、これでボクたちの三連勝だし、イフリートを退けるなんて大金星も挙げてみせたんだから、迷宮に入るのを邪魔だてされるようなことはないでしょう」


実は結構ギリギリで綱渡りな勝利でした。

長引けば負けていたのはリュカリュカちゃんの方だったかもしれません。



ちなみに、イフリート氏が仲間になる予定は今のところありませんのであしからず。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後武器をしまう所で誤字ってますよ?
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