557 三試合目 前編
一体ごとにパーティーの枠を一つ消費するとはいえ、テイムやサモンした魔物と一緒に戦う、または戦わせる<テイマー>や<サモナー>は難敵だと言える。
しかしながら、そんな彼ら――ボクも含めてね――にも弱点はある。本人が戦闘不能になると、テイムモンスターやサモンモンスターたちもまた戦闘不能となってしまうのだ。
一応ゲーム内ではそれ相応の理由が付けられておりまして。
テイムモンスターは、プレイヤーの場合はいわゆる死に戻りに引っ張られる形で戦線を離脱させられてしまい、NPCの場合だと〔調教〕技能の束縛が解けて野生が強化されてどこへともなく去って行く、という扱いとなっている。
サモンモンスターの方はもっと単純で、〔召喚〕が途切れて元居た場所へと強制送還なのだとか。
おっと、補足です。
戦闘不能というのは基本的にはプレイヤーであれば死に戻り、NPCであればこの世界からの退場を意味するのだけれど、<サモナー>だけは例外的に〔召喚〕が維持できなくなる意識を失った状態もこれに含むことになる。
つまり、律儀にイフリート氏を張り倒さなくても、対戦相手である召喚主の彼にガツンと一発ぶち当てて気絶させてしまえばボクの勝ち、ということになるのだ。
ちなみに、召喚中にMP枯渇状態になることでも〔召喚〕を維持できなくなるという設定らしい。
ただし、召喚した際の戦闘中はよほど特別な命令をしたり無理をさせたりしない限りは追加のMPを消費しない。そのためMP枯渇に陥らせるためには他の魔法や闘技を使用させてMPを減少させなくてはいけない。
なので〔召喚〕以外のあちらの手札が分からない以上、あまり意味のない情報だったりします。
さて、召喚主を気絶させるという基本戦略が決まったのはいいが、当然ながら向こうもその事には気が付いていることだろう。
いや、勘付いていなければ色々と問題があるレベルだからね。だって、致命的とも言える弱点について教えてくれる人が誰一人としていなかったということだ。
極端なことを言えば未来のある若者を育てたり守ったりする気がない、つまりは次代を担う人材がいないということで、組織としてはもう存続の意義すら失くしてしまっていることになる。
あの通りの性格だから、彼ら自身が嫌われていたという線も無きにしも非ずなのですが、やっぱりそれとこれとは別問題として考えるべきだろうね。
おっと、相手のことを心配してどうこう考えている場合ではないのでした。
うーん……。いくら何でも露骨に召喚主の方を攻撃しようとしても、イフリート氏が邪魔をするよねえ。しかしながら火の大精霊というだけあってレベルは三十七と、ボクたちの倍近い数値だからまともにやり合うのは自殺行為となる。
だとすれば隙を突いての攻撃?主従揃ってお調子者っぽいところがあるようだし、狙ってみる価値はあるかも。
現に既に試合は始まっているというのに、イフリート氏は野次馬たちの「すげえ……」とか「初めて見た」といった称賛の声にご満悦となっているし、召喚主の方も荒い息を吐いて地面に蹲りそうになりながらもドヤ顔をするという器用な真似をしていた。
ふむふむ。そういうことであれば、その性格を存分に利用させてもらうことにしましょうか。
「ふっふっふ。まさかイフリートを呼び出すとは恐れ入ったよ。それでこそボクも力を見せつけられるというものさ!」
「ほほう……。我を前にしてそれだけの大口を叩くことができるとは、なかなか肝が据わっているではないか。よかろう。思う存分にその力をぶつけてくるがいい!」
またキャラがぶれていますよ、イフリート氏。
しかも召喚主に確認もしないで勝手に先手を譲ることを宣言している。まあ、当の本人はMPが尽きかけていてそれどころではない様子だけれど。
「それなら遠慮なく。【アクアボール】!いっけえ!」
瞬時に水の球を作り上げてイフリート氏に向けて放り投げる。
「弱点属性とはいえ、その程度の水魔法では俺様の燃える心を消せはしないぜ!」
何やら中二病めいた台詞が聞こえてきたような気がするけれども、華麗に聞こえなかったことにいたしまして。
「あれ一つで終わりだなんて言ったつもりはないよ。【ウィンドドリル】!」
即座に次の一手を最速で撃ちだした。
各属性の強弱に加えて、ボール、ニードル、ドリルの系統が三すくみになっていることからも分かる通り、『OAW』の魔法は発動後にも干渉し合うことができる仕組みとなっている。
背後から貫かれた【アクアボール】は形状を保つことができなくなって飛散し、さらには風のドリルが水をまといながら燃え盛る巨人へと直撃する。
「なんだと!?うひゃあ!?」
「ぐわあっ!?」
今回ボクがやったのは【アクアボール】の後ろから【ウィンドドリル】をぶつけることで、意図的に水の球を破裂させてイフリート氏だけでなく召喚主の彼にもまとめてダメージを与えるというものだった。
もっとも、MPの消費量や二つの魔法を連続して発動する手間、そしてダメージ量を考えれば、素直に【アクアニードル】を使用した方が費用対効果は高かったりするのだけれど。
それでは、どうしてこんな面倒なことをやらかしたのかというと、
「な、なにをやっているんだ!しっかりと俺を守らないか!」
「う、うるさい!言われなくたってちゃんと分かってるんだよ!お前こそびびって離れたりするんじゃないぞ!」
「だ、誰が怖がったりするか!」
二人をひとまとめにさせておくためだった。数で劣るボクにとって前後で挟み撃ちにされたり十字砲火を受けたりするのが一番危険だからね。
あ、喧嘩をしそうになっているのは予期せぬ幸運というやつだ。そのまま仲違いしてくれれば手間が少なくてすむのだが、そう思うようにはいかないか。
「高レベルの火の大精霊様は余裕だね。それなら続けてこちらからいくよー!」
「う、ぐう!」
あえて召喚主がイフリート氏の陰になるような位置へと回り込みながら、【アクアニードル】や【アクアボール】を連続して放っていく。
もっとも、発動速度優先で威力を下げてあるからダメージ量自体は微々たるもの、雀の涙だったのだが。HPゲージを見ても減少幅が分からないくらいだったからね。
明日は後編!




