556 燃える巨人?
閉ざされた視界の向こう側、あちらこちらから野次馬たちの怒声や悲鳴っぽい言葉が聞こえていたが、一番の大声がリシウさんだったというのはいかがなものか?
あれが『火卿帝国』の中でもトップに近い身分と立場の人だと思うと、心の底からこの国の先行きに不安を覚えてしまうわ……。
え?そんなことを考えていられるだなんて、案外余裕があるって?
……あー、まあ、眩しくて目を開けていられないのは厳しいけれど、実はそれだけだったのよね。光の色合いから連想するような高温に晒されている訳でもなく、あの台詞から想像するような炎に巻かれるでもなく。
なので、内心ではこっそり拍子抜けしていたところだったのだ。
だが、落ち着いていられたのもそこまでだった。
「求めに応じて俺様、来臨!」
まき散らされるようにあたり一面を染めていた深紅の光が収束したかと思えば、そこには大きな人型の何かが立っていた。
少なくとも人ではない。ハーフパンツ一丁という半裸だし、身体のあちこちから吹き出すようにして炎が上がっているし、半裸だし。
「みぎゃー!変態が出てきたー!?」
と叫んでしまったボクは悪くないと思います。
「へ、変態などではないぞ!我は由緒正しき火の大精霊イフリートであるぞ!」
そう言った途端、半裸の頭上に「自称・イフリート」の文字が浮かぶ。どうやらゲームのサポート的な機能が使用されているみたいね。
ただ、これだと運営の遊び心なのか、それとも本当に自称しているだけなのかの判別がつけられないよ……。
そんな気持ちが表情に出てしまっていたらしい。
「あー!その顔は信じていないな!?それなら〔鑑定〕でも何でもしてみればいいじゃないか!」
指をさして叫ぶ自称・イフリート氏。こらこら、人を指さしちゃいけませんってば。
でも、せっかく本人が許可を出してくれたのだから乗っかっておこう。
「それじゃあ、遠慮なく〔鑑定〕っと」
「え?本当にやるの?」
今さらながらに驚いていたが、やれと言ったのはそっちの方なのだから聞く耳持ちません。
何より、既に技能を使用した後だったからね。そして鑑定の結果、彼の頭上名称から自称の二文字が消えることになったのだった。
「ほ、本物だ。本当にイフリートだぞ……!」
おいコラ、そこの野次馬さん。ボクの台詞を取らないでもらえます!?
イフリート氏の言葉に反応して〔鑑定〕を使用した人はボク以外にもいたようで、そこここで周囲の人へと真実が告げられていた。
「ふふん!どうだ、俺様は偉いのだぞ!」
鼻息を荒くしながらふんぞり返るイフリート氏。いやいや。偉い偉くないの話しではなく、有名だったというだけのことだと思うよ。
というか、さっきからキャラがぶれまくっているような気がするのはボクだけなのでせうか?
それにしてもイフリートとはねえ……。数多の作品で火や炎を司る上位や高位の精霊として登場する有名な存在だ。ものによっては火の精霊たちの王であったり神であったりもするみたいだね。
ちなみに『OAW』では基本的にはまだ未登場となっている。
世界設定を同じくする『笑顔』の場合だと、本人?が言っていた通りに火の大精霊であるのだけれど、その精霊自体がとある場所では普通に敵として登場する、特別な魔物の一種として扱われている。
まあ、だからこそこうして〔召喚〕された存在として登場することができるのだけれど。
<テイマー>とは違って、<サモナー>は最初期の段階からゲーム内に登場することになっているほぼ全ての魔物を〔召喚〕することができる。
より正確に言えば、召喚できる可能性がある、というところだろうか。強い魔物ほど出現する確率は低く設定されているそうで、低レベルではまずお目にかかれることはないくらいだとか。
それでも世の中には強運の持ち主がいるようで、レベル一の最初の〔召喚〕でレアモンスターを引き当てたという人が何人も掲示板へと報告を行っていたりするのよね。
もっとも、その内の九割方が召喚契約には失敗して、その場限りの邂逅に終わってしまっているそうです。
そうそう、〔召喚〕と召喚契約はセットになっており、気に入った魔物が現れるまで何度も〔召喚〕だけを繰り返す、ということはできない仕様となっているので、チャレンジしてみようという人はご注意を!
そう考えると、召喚主の彼はとてつもない豪運なのだろうねえ。
こうして再度〔召喚〕を行えているということは、召喚契約を無事に結ぶことができたということに他ならないのだから。つくづく彼が<サモナー>である可能性を失念していたのは大失敗だったと痛感する。
まさか<デスティニーテイマー>が影響している?
……いや、直接的にはないと思う。が、少年たちと会った時には鵺、夢幻夜鳥に遭遇しているし、その後にはリシウさんたち一行とも既知の間柄となってしまったくらいだ。
相手として特殊な人が登場することになる、といった調子で間接的にならば影響していたのかもしれないね。
あ、イフリート氏が妙な性格になっていることにも関係がありそうな気がするわ。
しかしこれで、どうして十三という低いレベルの三人組が迷宮攻略の許可を受けられたのか?という疑問が氷解することになった。
イフリートなんていう強力な戦力を有しているならば迷宮内でも、少なくとも冒険者たちの最高到達回想である地下四階までであれば問題ないと判断されたのだろう。
……でも、本当に大丈夫なのかな?〔召喚〕された側のイフリート氏は元気いっぱいで、しかも今は周りから畏怖の目で見られてすっかりご満悦となっているのだが、召喚主の彼の方はというと、青い顔で立っているのもやっとという様子だった。
もしかして、MP枯渇の状態異常になっているの?〔召喚〕にはMPが必要だというし、イフリートほどの強い魔物となればそのコストは少なくはないはずだ。ほとんど全てのMPを持っていかれていたとしても不思議じゃない。
想像以上の強さの隠し玉だったので、ボク一人の力で勝つのは厳しいかもしれないと思われたけれど、これならやりようによってはまだ十分にこちらにも勝ちの目はありそうだ。
エッ君たちを衆目に晒したくはなかったし、『ファーム』を持っていることも秘密にしておきたかったから都合がいい。
さてさて、どうやってやっつけましょうかねえ。




