553 怒ってないとは言ってない
「ところで、これから迷宮の攻略に行くって聞こえたのだけど、本当なの?」
「あ、ああ!?その通りだ。そこの冒険者協会の人にも許可を貰っているぜ」
話題の変換と共に圧迫感がなくなったことに気を大きくしたのか、男たちの一人が饒舌に聞いてもいないことまで口にする。
「へえ……。それならあなたたちに勝てる実力があるなら、迷宮攻略に乗り出すのに十分な力があるって証明できるって訳だね」
にんまりと頬が緩むのを止められない。だって、ちゃんとした理由でもってこの連中を叩きのめすことができるのだから。
「あの様子ですと、わたくしたちが思っていた以上に頭にきていたようですわね」
「なんだかんだ言ってリュカリュカは甘いし優しいですからね」
「二人とも、何か言った?」
振り返って尋ねてみたが、ミルファもネイトも笑顔で首を横に振るだけだった。
「それよりも、そちらの冒険者を騙る不届き者の成敗に、わたくしたちは参加させて頂けませんの?」
「うーん、どうかなあ……?ほら、この人たちって子どもを魔物の囮にして逃げだすような卑怯でズルい人たちでしょう。三人ずつで戦うとなったら、負けを認めないんじゃないかしら」
ミルファの言葉に乗るようにして、若者たちの所業を大っぴらにするのと同時に煽り立ててやる。言ったでしょう、逃げ道の一つすら見つけさせないってね。
男たちの方はといえば後半の煽られたことにばかり気を取られていて、前半の逃げ道封鎖については理解できていないようだったが。
それでも、先ほどの子どもたちとのやり取りと重ねて、この連中のやり口や失態が事実であることを周囲の野次馬に知らしめることになったからね。
この先は護衛などの依頼は受けにくくなることだろう。ざまみろ。
「てめえ……。女の分際で俺たちに一対一で勝てると思っているのか!」
うわー……。密かに三対三での戦いから、一対一を三回に変更してくるとか、小狡いなあ。安易に挑発に乗ったと見せかけて、自分たちに有利な方向へと誘導したつもりになっているらしい。
そういうところにだけは頭が回る連中みたいだね。
まあ、問題ないのだけれど。
「え?むしろ一人で三人を相手にしても勝てるけど。でも、さすがにそれだとあなたたちの立つ瀬がないだろうからね。一対一で戦ってあげるよ」
怖気付かせて場の流れを自分たちの方へ引き寄せようとしていたのだろうが、そうはいかせない。追加で挑発して、さらには向こうから挑まざるを得なくなるように仕向けます。
この対応は予想外だったのか、一瞬虚を突かれたように呆けていた若者たちだったが、すぐに我に返ると怒りに顔を真っ赤に染めたのだった。
「いいぜ。俺たちをコケにしたことを後悔させてやる……!」
独創性のない捨て台詞なことで。
まあ、様式美ということでここは一応乗ってあげましょうかね。
「後悔するのはそちらの方だと思うけどね。すぐに力の差っていうものを思い知らせてあげるよ」
はい!
という訳でやって参りましたNPCとのイベントバトル!元々プレイヤーはボク一人しかいないけれど!
勝負方法はメンバーを入れ替えての一対一で、二勝した方が勝ちとなるただし、どちらかが二連勝して勝敗が決定した場合でも三戦目は行われるよ。
ボクたちにとっては迷宮へ入ることができるだけの実力を持っていることを証明してみせるための場だからね。出番がないとかあり得ないです。
一試合目はネイト。対する相手はスピード重視の<ファイター>かな?魔物の革製都思われる部分鎧と短剣といういでたちだ。
ただ、その短剣の柄の先にはこれ見よがしに宝石っぽいものが取り付けられていたけれど。
ああ、これは魔法も使えるタイプだね。将来的には<マジックファイター>狙いなのかもしれない。
開始直後の行動は奇しくも一致した。【アタックアップ】によって攻撃力を上げてから両者が接近戦へとなだれ込んだのだ。
「【スウィング】!」
先手を取ったのはネイトの方だ。杖のリーチの長さを活かして相手の間合いに入るよりも先に攻撃を仕掛けたのだった。
「ぐわっ!?」
まさかまさか生粋の後衛職に見える――見えるも何も本当に後衛職なのだけれどね――彼女から接近戦闘を仕掛けられるとは想像もしていなかったのだろう。軽戦士の若者は慌てて止まろうとするが、走ってきた自身の勢いを制御しきれずに強かに左肩を打ち据えられていた。
「あらあら。そこはそのまま速度を上げて、駆け抜けるべきでしたわね」
「そしてすれ違いざまに攻撃、くらいはできないと魔物とはやりあえないよね」
いやはや。よくもまあ、あんな体たらくでこれまで冒険者を続けてこられた……、いや、生き延びてこられたものだわ。
その後もネイトの一方的な攻撃が続く。
肉薄し続けることでスピードという向こうの得意分野を見事につぶしていた。
「えーい!」
「ぐえっ!」
お、おおう……。足払い掛けられて転んだところで腹部への杖での強打とは……。そりゃあ潰されたカエルのような変な声も出ちゃうってものです。
多分、リアルでなら出してはいけないものまで出ていたように思う。つくづく『OAW』のゲームの世界で良かったよ。
これが決め手となり対戦相手は失神。ネイトの勝利が確定したのだった。
「あらら……。結局接近戦で倒しちゃったよ」
「もしかして、わたくしも不得意な魔法で戦うべきなのかしら?」
それはどうだろう?そもそも今の彼女は<プリースト>なので、攻撃全般が不得手といえないこともないのよね。
「まあ、油断をしなければ問題なく勝てる相手のはずだから頑張って」
と、どうとでも取れるような言い方で激励して、悩むミルファを送り出したのだった。
そしてそのミルファの出番となる二試合目なのですが……。
まさかネイト以上に一方的な展開になるとは思わなかったわ。実は一試合目の時には、ごく一部の空気の読めない連中が冷やかしの言葉を投げ入れたりしていたのだが、今回はそんなヤジを飛ばす余裕すらなかった。
「ミルファがクンビーラ公主様の従姉妹だって言ったら、どれくらいの人が信じるかな?」
「誰もいないのではありませんか。……と、言いたいところですが、この状況で冗談を言うことはないと思われるかもしれませんね。案外一周回って全員が信じるかもしれませんよ」
ボクたちですら、こんなすっとぼけた会話をするより他なかったくらいでしたともさ!




