551 迷宮の情報交換
スホシ村から旅立った後、少年たちを助けてリシウさんたちに合流して、この迷宮前集落へとやってきた経緯を語って聞かせると、スホシ村男性陣はようやく納得したらしくホッと安心したように息を吐いていた。
「そうか。あの子どもたちは無事だったのか……」
「帝都の冒険者に会えたというのは運が良かったな」
「なんと言っても皇帝陛下のおひざ元だからな。ここのような地方に比べるとまだまともな冒険者も多いんだろうよ」
「しかし、その雇い主が問題じゃねえか?遊び惚けていた商家のボンボンなんだろう?金と権力に弱いとなると、アホ領主たちに尻尾を振りかねないぞ」
「あー、えっと、親御さんの信頼が厚い部下の人たちも周りにいますから、そうそう好き勝手はできないみたいですよ」
リシウさんの株が大暴落しているが、素性がバレて警戒されるよりは侮られている方が動きやすい、はず。多分。
相対的に配下の人たちが優秀だということになったけれど、これは本当のことなので問題ナッシング。
恐らく全員が二次上位職にクラスチェンジ済みなのではないかしらん。単純な戦力として見るならば、おやっさんたち冒険者組よりも上のような気もする。
クンビーラの人たちと比較するならば、おじいちゃんたちには及ばないにしても、ボクの槍の師匠である四等級のサイティーさん以上、同じくボクの魔法の師匠である三等級のゾイさん以下といったところか。
あれ?『泣く鬼も張り倒す』のおじいちゃんとクンビーラ支部長の二人組はともかくとして、ゾイさんとサイティーさんが常駐しているだけでもスタート地点の街としては戦力過剰ではないでしょうかね?
……ああ、でも、いきなりブラックドラゴンが襲来してくることもあるようだし、それほど変でもないのかもしれない?
と、リシウさんたちのことはこのくらいにして。彼らとは縁があればまたどこかで会うこともあるかもしれないが、今はともかくこの迷宮のことだ。
体験したことや噂話程度のことまで男性陣から諸々の情報を聞き出しますです。
その結果分かったことは、階層の様子から出現する魔物まで含めて、その昔エルフたちが探索した時から何の変化もないということだった。
と言ってもそもそもの話、連行されてきた領民たちが働かされている緋晶玉らしき物体の掘削ポイントは地下一階にあるそうで、当然のことながらスホシ村の男性たちもそこから先へと進んだことはなかった。
つまり地下二階以降のことは全て噂や冒険者たちの自慢話じみた、なんとも信憑性の怪しいものばかりとなってしまうのだった。
「その点は仕方がないとしまして……」
「まあ、最高到達階層が地下四階だからなあ……」
という何とも情けなく呆れ果てるばかりの状況がボクたちの前に立ち塞がっていたのだった。
これが領民たちの掘削の護衛の傍らに行われているものであれば、一万歩ほど譲れば納得できなくもなかったかもしれないのだが、『攻略班』だなんて御大層な名前の冒険者たちが専任で行っているというのだから恐れ入る――もちろん皮肉以外の何物でもありませんともさ!――ってもんです。
「この迷宮の攻略が始まってから何カ月になるっていうのよ。ちゃんと仕事しろと言いたい」
エルフたちですら十階層までは調べていたというのに……。
ちなみに、有用そうなものが見つからなかった反面、特に危険で凶悪な魔物もいそうにないということでそれより先の調査は打ち切りになったらしい。
基本森の奥で引きこもりな生活を送っているはずのエルフたちがうろうろしていたら、どうしても目立ってしまっただろうからね。下手に諍いなどが起きてしまわない内に手を引いたのは、それはそれで懸命だったと言えなくはないのだろう。
それを頼りにすることになってしまった身としては、もっと頑張っておいてよ!という気持ちになってしまったけれど。
「適当に攻略をしている風を装っていれば、食う物も住む所にも困らないからな。十中八九、手を抜いているんだろうぜ」
「そんなだから、攻略を進めるために迷宮の奥に入りたいというのは、なかなか難しいかもしれないぞ。あれでいてあの連中はプライドだけは高いからな。いきなりやってきた嬢ちゃんたちのような余所者が、自分たちの成果を超えるとなれば絶対に邪魔してくるはずだ」
「一応、スホシ村の冒険者協会からは推薦状をもぎ取ってきたんですけど、それでもダメですか?」
「……あー、それだと協会のやつらは引くかもしれないが、冒険者どもはかえって躍起になって妨害してくるかもしれねえな」
監督役の協会関係者が見て見ぬふりをする、知らぬ存ぜぬを押し通すので、むしろ危険度が増すかもしれないとのことだった。
やれやれ。迷宮の中では魔物だけではなく、人間にも注意を払っておかないといけないようだ。
「ところで、この迷宮の情報なんだが……」
「皆さんが信用できると思える人なら教えてあげてください」
「すまねえ。助かる。どうしようもなくなった時に逃げ込むにしても、全く何も分からないままじゃあ命を捨てるだけだからなあ……」
そんなことを考えておかなくてはいけないくらいには、連行されてきた男性たちは追い詰められてしまっているようだ。
迷宮なんてものは本当ならば腰を据えてじっくりと攻略をするべきなのだろうけれど、一気に最深部まで駆け抜ける覚悟が必要かもしれない。
いけない。これだけは注意しておかないと。
「ただし、情報の出所だけはくれぐれも秘密でお願いします」
エルフたちが関わっていることがバレてしまうと、アホ領主たちが「森を焼いてしまえ!」と短絡的な行動に出ないとも限らない。
外からは手出しができない絶対的な安全地帯として機能してもらうためにも、あの場所は『聖域』として残り続けてもらわなくては。
「ああ。間違いなくそれは徹底させて貰う」
スホシ村の男性たちにとってはシジューゴ君たち森の中に住む人々は、取引相手であると同時に大切な隣人でもある。彼らを巻き込んでしまうのは本意ではないのだろう。
ひとまず必要なことは話し合えたと思う。そろそろ――嗅覚的にも限界が近いので――この場からお暇させて貰おうかと思っていると、何やらざわついた気配が広がっていくのを感じた。
どうしてでしょうね?
なぜだかとっても知り合いが原因のような気がしてならないです……。




