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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十七章 迷宮と迷宮前集落

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550/933

550 ああなってこうなってそうなった

 長屋のような――といっても外見だけで、中は間仕切りもない一つの大きな部屋になっていた――いくつも並んだ同じ形の建物の内の一つに、押し込められるような形でスホシ村出身の男性たちがいた。

 どうやら村の一つあたりに長屋一軒が当てがわれているらしい。ちらりと見えた限りでも十件を下回ることはなさそうだったので、本当に領内の男性の大半を動員しているみたいだ。


 この事業が失敗した場合のこととか全く考えていないよね。それ以前に比較的規模が大きかったスホシ村でも農作物の手入れなど塀の外のことに関しては手が届かなくなっていたので、小さな村などは既に本格的に立ちいかなくなってしまっている可能性すらありそうだ。


 そうなると当然その分の税収は減ってしまう上に、荒れた農地を再び利用できるようにするための時間と資金と人手も余計にかかってしまう訳でして……。

 アホ領主たちがお花畑な頭の中で思い描いている通りに上手く事が進んだとしても、結局のところは良くてトントン、悪ければ赤字になってしまうのではないだろうか。


 そして、一つが崩壊することで辛うじて保っていたバランスが崩れ去ってしまう、なんて展開もないとは言えない。

 特に『火卿エリア』は群雄割拠な内乱状態だから、これを機に一気に侵略を進めようと考えるやからが掃いて捨てるほどいそうだ。


 うわー……。『空を征く船』を求めていた『土卿王国』も大陸の平和が危険でヤバくてピンチだったけれど、こちらもそれに劣らないくらいの危機的状況よね。


 これはさっさと迷宮を攻略して活動を停止させないと色々な意味で危なすぎる。

 アホ領主はもう手の施しようがないというかむしろ排除されてしまった方が後々のためになりそうだけれどそれは一旦置いておきまして、脳内お花畑の人たちがこれ以上増殖しないように、きっちりと目を覚まさせてあげないとね。


 そう気持ちを新たにしたところで、スホシ村の男性陣への報告と、迷宮についての情報共有です。

 幸いにも、先手必勝とばかりに差し出したおばば様からの手紙の効果で、怪しまれることもなく建物の中へと入れてもらうことができていた。


「すまんな。若い娘さんたちを入れるような所じゃないというのは分かっているんだが……」

「気にしないでください。あまり大っぴらに話せる内容じゃありませんからね」


 と返事をしたものの……。

 控えめに言ってあまり清潔ではない状態のまま生活をさせられていたのだろう。

 その……ね、匂いがとんでもないことになっていたのだ。狼の獣人であるネイトに至っては断りを入れてから鼻をつまんでいるほどだ。

 正直ボクとしても窓を全開にして回りたい気持ちでいっぱいです。

 内緒のお話があるのでしないけど。


「スホシ村の状況はおばば様からの手紙に書いてあった通りです。ボクたちで近くにいた畑を荒らす魔物の多くをやっつけたので、今期の収穫は何とかなりそうとのことでした。……あと、これは村の人たちには言わなかったんですけど、実は森の中にある集落から、いざという時に備えて受け入れの準備を始めています」


 森に出かけていたのは男性ばかりだったようだし、村に残されていた人たちではエルフお兄さんたちとの面識がないどころか、詳しいことは何も知らされていないという可能性もあった。

 それに何より冒険者協会の目や耳がどこにあるのか分からなかったからね。


「森の中?……まさか『聖域』のエルフや獣人たちのことか!?」

「ええ。詳しい説明は省きますけど、のっぴきならない事情で『聖域』に入ることになったんです。そこで森に住む人たちに出会いまして、外まで連れ出してもらう代わりに、スホシ村の状況を調べてくれと頼まれたんです」

「そうだったのか……。しかし、彼らが手を差し伸べてくれるとはな……」


 少々驚いた風でもあったが、皆一様にほっとした表情になっていた。もしもの時への備えや逃げる先があるというだけで、心にも余裕ができるというものだ。

 が、その表情もすぐに引き締められることになった。


「ありがたい話だが、だからこそ俺たちだけが逃げ出すわけにはいかないだろう」

「ああ。俺たちが居なくなったら、その分他の誰かの負担が増えることになっちまう」


 同じ境遇の人たちばかりということもあって、ある種の連帯感が生まれ、それが枷になって逃げるという選択肢が失われてしまっているようだ。

 まあ、アホ領主たちはそうなることなんて欠片も考えていなかったのだろうけれど。


 それ以前に、反乱を起こされるかもしれないという予想すらしていないのではないだろうか。

 彼らだって帝国に反旗を翻しているのだから、自分たちもまたそうされるかもしれないと思ってもおかしくはないのだけれどねえ。

 なぜだかああいう類いの人たちというのは、「自分だけは悪いことにならない!」という謎の自信を持っていたりするから。


「そう、だな……。指定された数の男を揃えられなくて、子どもまで連行されることになった村だってあるからな」


 おや?どこかで聞いたことがある話のような?


「その子どもたちは途中で逃げ出したんじゃなかったか?」

「いや。そのことを言い出したのは若い冒険者どもらしいぞ。自分たちの失敗を子どもたちにでもなすり付けようとしているのかもしれないぞ」

「あのー、その子たちってもしかして……」

「大方、その冒険者たちが逃げる時に囮にでもしたんじゃないか」

「逃げたのは子どもの方じゃなく、あの連中の方だったってことか!?」

「もしもーし。だからですね、知っている子たちのことではないかなと……」

「だとすれば、その子どもたちは……」

「残念だが、死んじまっている――」

「いやいや!勝手に殺さないでね!多分その子たちは生きているから!なんなら信頼がおける、かもしれないと思わないでもない人たちと一緒にいますから!」


 わざとではないにしても何度も無視されるような展開となってしまい、思わず大きな声を張り上げてしまった。

 見ず知らずの子どもたちの安否が心配で怒ることができるのは、それだけ人の良い証しだと言えなくもないだろうが、ヒートアップし過ぎて周りからの声が聞こえなくなってしまうのはいただけないです。


 そして今度は、スホシ村を出てから後のことを話して聞かせることになるのだった。


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