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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十六章 スホシ村と次の行き先

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542 鵺の本体

 異形で巨躯の幻覚が消え去ったかと思えば、龍爪剣斧が突き立った地面のすぐ向こうの草むらがザワザワとうごめき始める。


「ヒョ!?ヒョー、ヒョー!?」


 悲鳴じみた鳴き声を発しながらその陰から飛びたったのは、一抱えほどもある鳥だった。

 バサバサと羽音を立てながら逃げる動きに合わせて、視界の端にあるミニマップ内の、魔物示す赤い光点の一つがボクたちから遠ざかりつつあった。

 どうやら街道脇すぐの場所に隠れていた〔鑑定〕が通用しなかった件の魔物こそが、鵺の正体だったということであるようだ。


 ……ふむ。あれだけ慌てて逃げている今なら、〔鑑定〕が通用するかもしれない。名前だけでも判明すれば、詳しいことは後々冒険者協会や異次元都市メイションで調べることもできるはずだ。

 そんな訳で去り行く鳥の後姿に向けて〔鑑定〕びーむ!みみみ!

 ……いや、ビームでもなければ音も出ないのだけれどさ。


「ヒョッ!?」


 と、突然奇怪な声を上げて空中で硬直したかと思えば、鳥の魔物がひゅるひゅると落下していく。

 あらら、HPゲージが全損してしまっているよ。

 一体何事が起きたかと思って振り返ってみれば、トレアが矢を放った残心の姿勢のまま立っていた。ボクが魔物の正体を知ることに躍起になっている間に、きっちりと手痛い反撃を与えてくれたみたい。


 え、えーと……。〔鑑定〕の効果というより倒したことで判明した魔物の名前は、夢幻夜鳥(むげんやちょう)というカッチョイイものだった。

 トレアの放った一矢で倒しきれてしまったことからも分かるように、正面からまともに戦えばまず負けることはないという、かーなーり弱い部類の魔物だ。


 ただし、やつらによって生み出された存在は幻であるにもかかわらず、見る者にまるで実体を持っているかのように感じさせる精巧さを誇っている。

 それこそ、攻撃をされれば怪我をしてしまうほどに。

 実は先ほどの一瞬の交差の際、ボクは気付かない間に多少のダメージを負っていた。鵺が幻だと確信していてなおそれなのだから、その恐ろしさや危険度合いのほどが良く分かってもらえると思う。


 対して、こちらからの攻撃は幻なのでいくら当てようが効果はない。運悪く遭遇した人の末路は、一方的な展開に絶望しながら敗北するか、それとも尻尾をまいて逃げ出すかの二つに一つだったことだろう。


 余談ですが、鵺とは先述した通り不気味で恐ろしいモンスターの名前であると同時に、夜に鳴く鳥を意味するそうだ。さらに、現在ではトラツグミだとする説が有力らしいのだが、元々は実体がないとか正体不明の存在だともされていたのだとか。

 つまり、それらの伝承や言い伝えなどをごちゃ混ぜにしたのが『OAW』の鵺という存在だった、と言えるのかもしれないね。


「ですが、リュカリュカはどうやってあの魔物が幻であると見抜いたんですの?」

「ああ、それね。簡単だよ。草むらから一歩踏み出して来たでしょう。前足の甲の部分から、草の葉っぱが飛び出していたんだ。最初は見間違いか勘違いだと思ったんだけどね。何にせよじっくりと観察する機会があって助かったよ。もしも積極的に攻撃仕掛けられていれば、間違いなく負けていただろうね……」


 派手に動かすことで幻だとバレることを避けようとしたのかもしれない。

 いずれにしても、ボクたちを驚愕に陥れたその一歩が鵺の本性を暴くことに繋がるとは、何とも皮肉な話だと思う。


「多分おじいちゃんたちなら、気配がないだとか匂いが感じられないだとか、動きに合わせて発生するはずの空気の動きがないとか、諸々を察知して幻だってことを勘付いたんじゃないかな」

「そう、ですね……。お師匠様たちのレベルであれば、魔物の虚実だけでなく、あの鳥が本体だということまで見抜けてしまうような気がします」

「上位職へのクラスチェンジを終えて、わたくしたちも強くなったつもりでいましたけれど、……まだまだですわね」


 ディラン(おじいちゃん)クシア高司祭(おばあちゃん)は、ある意味最強クラスの人たちだから、強過ぎて参考にするには不向きかもしれないけれどね。

 まあ、目指す目標が高いことは悪いことではない、はず……。だよね?


 おっと。いつまでものんびりとはしていられない。

 先ほどの騒ぎを聞きつけたのか、それともあの鳥の魔物を倒したことを察知されたのか。付近の魔物たちに不審な動きが見受けられる。


「とにかく、この場を離れよう。ネイトは〔警戒〕を最大にして、近寄ってくる魔物がいないかを確認して。ミルファはリーヴと少し先まで偵察をお願い。エッ君とトレアは待機。何かあったらネイトに従うようにね」


 仲間たちに指示を出して動いてもらう一方で、ボクは少年たちに近付いていく。と言っても、ほんの数歩分しか離れていなかったのだけれど。


「さて、ボクたちはそろそろ出発するけれど、君たちはどうする?」


 努めて平坦な声で尋ねてみる。うん、まあね。彼らに責任を押し付けるのはお門違いだとは分かっているのだが、「ボクたちの言うことを聞いてさっさと動いてくれていれば」とか、「こんな場所にいたせいで」とか、ついつい考えてしまう訳ですよ。


 しかも、助けてもらえるのが当たり前のように考えていた節が見受けられたからね。

 少年たちへの印象は最底辺をさ迷っており、気を抜くと苛立った声になってしまいそうだったのだ。


「お、俺たちは……」


 そう言ったところで一号君の口も止まってしまう。ついさっき会ったばかりの人に問われて、すぐに答えられるはずはないか……。


「付いてきたいのなら付いてくればいいよ。ただし、自分の身は自分で守るつもりでいて」


 冷ややかな声音で言い切ると、先ほども足手まといにしかなっていなかったことを自覚しているのか、子どもたちはビクリと肩を震わせていた。いやん。ボクってばいぢめっこ。

 これには「別に助けてやる義理はないから」という意味合いもあったのだが、それ以上に「助けに回る余裕すらないかもしれない」ということを伝えておきたかったのだが、果たして伝わっただろうか?


 つまりですね、少々情けない話ではあるのだけれど、ボクたちと一緒にいることで安全が確保されると思ってもらっては困るのだ。

 夢幻夜鳥だって鵺が幻だと見抜けなければ勝つことはできなかったしねえ……。


 もちろん無理矢理戦わせるようなことはしないけれど、いざという時には戦っているボクたちを囮にしてでも逃げる、くらいの気概は持っておいて欲しいところだ。


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