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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十六章 スホシ村と次の行き先

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540 決断はお早めに

 戦うべきか逃げるべきか、それが問題だ。

 ……なんて、どこかの悲劇の有名フレーズ調に言ってみたところで状況が良くなるわけもなく。むしろ無駄に時間が過ぎてしまい悪化しているかもしれないくらいだ。

 だけど五人もの子どもを保護するというのは正直に言って荷が重い。単に行動を共にするだけだ、なんて思うなかれ。それは彼らの命に責任を持つということと同義なのだから。


「って、重苦しく考えればいいってものでもないよねー」


 深刻になることで状況が良くなるならば、いくらでも深刻になってあげよう。でも、現実はそうじゃない。いくら頭の中でシミュレーションを行ったとしても、その通りに上手く進むことなんてそうはあるものじゃないのだ。

 さらに言えば、考え込んでいる間にも刻一刻と自体は少しずつ変化しているものであり、どんなに妙案奇策であってもタイミングを逸してしまえば何の役にも立たないことだってあり得る。


 要するに、どこかで折り合いをつけるなり切り替えるなりして行動を起こさなければ、結局は身動きが取れなくなって沈没するしかなくなってしまうのだ。


 なので、これは決して思考放棄という訳ではないのです。

 そこのところよろしく。


「君たち、走ることはできそう?」

「え?」

「な、なんだよ突然!意味わかんねえ!?」

「そこの草むらに潜んでいるのは正体不明の謎の魔物なの。戦って勝てるというという保証はない。だから逃げる。走る。おーけー?」


 こうしている間にも襲い掛かってくるかもしれないという恐怖を抑え込みながら、必要事項を端的(たんてき)に伝える。端的過ぎて片言っぽくなったのはご愛嬌ということで。

 本当は「いいから言うことを聞け!」なんて言いたいところだったのだけれど、そんなことをすれば見た目年齢的に反抗期真っ盛りの男の子たちだから、余計に反発を招いてしまったことだろう。


 そうそう、その謎の魔物ですが〔鑑定〕技能を用いてみても、その正体はようとして知ることはできなかった。その事から初見の相手であることは間違いなさそうです。

 まあ、〔鑑定〕を受け付けないアンチ技能か何かを持っているだとか、イベントの特殊なフィルターが作動しているといった可能性もなくはないのだけれど。

 いずれにしても、通常の魔物とは異なるちょいとばかり厄介な能力を持つ存在だと言えそうよね。


 こうした理由から、戦うよりも逃げることを選択したという訳。

 ほら、昔から三十六計逃げるに如かずとか、逃げるが勝ちとも言うからね。そう、これは敗走ではなく勝利のための逃亡なのです!


「はあ!?逃げるなんて情けないことができるかよ!」


 が、少年たちにはそんなボクの海よりも深い考えはお気に召さなかったらしい。反対の声を上げたのは一号君だけだったが、残る四人も彼の意見に同意するように首を縦に振っていた。

 それにしても逃げるイコール情けないこととは浅はかだねえ。まあ、思春期、いや子どもらしい単純で潔癖な考え方だと言えなくもないかな。


「あら、そう。それならボクたちは逃げるから、後はお好きなように」

「は?え?」


 戸惑う子どもたちを尻目に、ボクは目で仲間たちに合図を送ると、そろりそろりとその場から移動を始める。

 交渉は決裂して、進むべき道が異なっているのだから無理に一緒にいる必要はないのです。

 彼らが戦いたいというのであればそうすればいい。ただし、ボクたちは先ほどの理由から付き合うつもりはない。

 初めて顔を合わせた相手のために命を懸けてやれるほど、できた人間でもなければお人よしでもないのだから。


「お、おい……」

「逃げないと決めたのはあなたたちですわよ。ならばその責任を果たすのもあなたたち自身ですわね」

「そしてわたしたちは逃げるという選択をしており、その理由は彼女が告げた通りです」


 ミルファとネイトも冷ややかな声で応じている。

 本当はその必要すらないのだけれどね。これで考えを撤回してくれれば、なんて想いがどこかにあったのだろう。

 まあ、ある意味未練みたいなものです。顔を突き合わせた相手に悲惨な結末が訪れるというのは控えめに言っても気分が良いものではないから。


 この行動自体を悔いるつもりはない。

 が、これがきっかけとなって危険を招き寄せてしまったことは大いに反省する必要があると思う。


 何が言いたいのかと言いますと……、早い話が時間切れだった。優柔不断にも見えるボクたちの動きに業を煮やしたのか、ついに魔物が動き出してしまったのだ。


 それは唐突に姿を見せた。四つ足の獣のように見えるその体躯は大きく、背中までの高さだけでもボクの背丈を超えるほどはありそうだ。全長ともなればその三倍くらいにはなるのではないだろうか。

 しかしながらこれでもボクたちはマーダーグリズリーやブラックリンクス、果てはブラックドラゴンさんまで大きくて凶暴な魔物とは何度も出くわしているのだ。怖くないと言えば嘘になるけれど、それだけで身動きができなくなるほどの不覚を取ることはない。


 だが、そんなボクたちでさえその異形には身をすくみあがらせることになってしまった。

 そう、異形だ。何の前触れもなく現れたそれは、いくつかの獣のパーツを組み合わせたような姿をしていたのだった。


(ぬえ)……」


 その名を示す単語が、自分の口から零れ落ちたことに気が付いたのは少し経ってからのことだった。


 『鵺』。和製版キメラとでもいうべきモンスターで、顔は猿、胴は狸、四肢は虎で蛇になった尻尾まで付いているという、なんとも不気味で恐ろしい風貌をしている。

 もっとも、伝説上の生物なんて大なり小なりそういう部分はあるみたいだけれど。


 ちなみに、どうしてボクが鵺のことを知っていたのかというと、古文の授業で先生が皆の関心を引こうと様々な作品で登場するモンスターたちを紹介してくれた、なんてことがあったからだった。

 ただ、大百足とかまで事細かく解説するのは勘弁して欲しかったけれど……。


 まあ、継ぎ合わせたりだとか張り付け合わせたりしたものでなかっただけマシだったかな。驚き過ぎて逆に頭は冷えてしまったのか、心の片隅でボクはそんなことを考えていた。

 だけど、それはあくまでボクたちのこれまでの経験があってこそのことだ。

 碌に魔物と鉢合わせることなどなかったのだろう少年たちは、身動(みじろ)ぎをすることもできずに目を見開いたままガタガタと震えていたのだった。


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