537 スホシ村からの旅立ち
ランダムイベント『宝石の子どもたち』の正式始動、または終了が最後の条件だったのか、それとも単に重なっただけだったのか。『森の外の村の様子を探れ』の方もようやっと完了のインフォメーションが流れることになった。
ご褒美は畑の魔物退治の時と同じくガチャチケット。村の人たちとも仲良くなっていたことから、クリア報酬と合わせて二枚獲得です!
ただ、一点気になることが。
インフォメーションでは冒険者協会にも言及されていたのだけれど、『放置』と表示されてボーナスが出なかったのだ。
ボクとは違って運営的には冒険者協会を追い出すか潰すことが最良だと考えていたのかもしれないね。
まあ、この辺りの判断は考え方の違いだけでなく、設定や裏設定なども含めた情報をどれだけ持っているのかにも左右されることだろうから、深刻に悩んでも仕方のないことではなるのだけれど。
ただ、冒険者協会を残してしまったことによって、スホシ村に悪影響が出るかもしれないので、気を配っておかないといけないかもしれない。
後顧の憂いは全てなくして出発、といかなかったのはちょっぴり残念だ。
いつまでも落ち込んでいても仕方がないので話題を変えようか。
カワセミ君ですが、実はカワセミではないことが判明しました。『翡翠ひよこ』、これがあの子の本当の種族名であるらしい。
確かにあの真ん丸な体型は、ひよこだからと言われれば納得できるようにも思える。ひよこなのにどうして飛べるのか?とか、ひよこということは大きくなったら鶏になるかもしれないということでやっぱり飛べないのでは?ということについては考えてはいけないことなのです。
ちなみに、呼び方はこれまで通りカワセミ君でいくことになった。ずっとそれで通してきたし、森でもカワセミだとだと思われていたらしく本人的にも違和感はないみたい。
そんな小鳥さんだが、分類的には相変わらずアイテム扱いとなっている。ただしイベントが正式に始まりボクたちとお友達になった事によって、自由に動き回るようになっていたけれど。
あと、戦闘には参加できない代わりに巻き込まれたりすることもないようです。
リアルのもので例えるなら、自立型AI搭載のペットロボットが一番近い存在かな。とりあえず勝手にアイテムボックスに出入りするのは止めて欲しい。ビックリしちゃうから。
そしてついにスホシ村から出発する時が来た。
「どうも長々とお世話になりました」
代表として見送りに来てくれていた女将さんにおばば様、そして熊おじさんに向かってぺこりと頭を下げるボクたち。
「あんたたちが居なくなると、寂しくなるねえ……」
そうこぼしたのは宿屋の女将さんだ。最初はお客と思われていないのではないかという態度だったのにね。変われば変わるものだ。もちろんボクたちにとって好ましい方向への変化だったから、文句などあろうはずがない。
「お前たちのお陰で干上がらずにすんだ。感謝している」
聞きようによっては上から目線な台詞を口にしたのは熊おじさんだ。が、これは単に照れているだけなのだろう。案の定、女将さんから「相変わらずあんたは口下手だねえ」とバシバシ背中を叩かれて顔をしかめている。
ちょっぴり痛そう。まあ、止めない、というか止められないのだけれど。
そうそう、同年代の男性の中でどうして熊おじさんだけが村に残っていたのかというと、昔は冒険者――『火卿エリア』では珍しい真っ当な部類の方ね――をしていたそうで、その時に大怪我をしてしまい、力仕事ができない体になってしまったのだとか。
思わず「鍛冶は力仕事じゃないんかい」と突っ込んでしまったのだけれど、真顔で「素手で岩を破壊するって訳でもあるまいし、このくらい大した力は要らないだろう」と返されてしまった。どれだけの怪力の持ち主だったのやら。
「悪いけど、男どものことをよろしく頼むよ」
「絶対とは言えませんけど、できるだけ期待に沿えるように頑張りますね」
「まずは自分たちの命を一番に行動しておくれ。それで十分なんだからね」
「はい」
おばば様の言葉に深く頷く。プレイヤーのボクだけならばともかく、この世界で生きているうちの子たちやミルファとネイトもいるからね。いのちだいじに、これ基本です。
『土卿エリア』の最後では感情の暴走で無茶をやらかしてしまったし、改めて肝に銘じておかなければ。
最後にもう一度挨拶をしてからスホシ村をいざ出発。件の迷宮までおよそ三日の行程だが、情勢の悪化もあってか『風卿エリア』や『土卿エリア』などでは整備されていた休憩所のような施設は、朽ちたり廃棄されたりしてなくなってしまっているらしい。
最悪今日は夜通し歩いて明日の昼間に休憩、という展開も考えておく必要がありそう。
ちなみにその迷宮ですが、一応名前はあるらしいのだけれどこの辺りで迷宮と言えばそこしかないため、スホシ村の人たちは誰一人覚えていなかった。
まあ、一年ほど前に緋晶玉らしきものが採取できると判明するまでは見向きもされなかったという話だったし、冒険者でもない地元の人たちからしてみればそんなものなのかもしれないね。
そして時折散発的に遭遇する魔物たちを退けながら歩くこと数時間、お日様が西の地平線へと沈みかけた頃のことだ。
「スホシ村で言われた通りでしたわね。これはもう休憩所云々どころか、建物としてすら機能しておりませんわ」
何やら道のすぐ側に黒々とした物体が見えたので急いで近付いてみたところ、それは半分以上潰れてしまった建物の残骸だった。
辛うじて這えば潜れそうな隙間から【光源】を飛ばして中を照らしてみたが、
「あー、床も完全に朽ちちゃってるね……」
空気は淀んで埃っぽい上にかび臭い。同じ地面の上で眠るのであれば、道端で寝る方が健康的にもよっぽどマシな気がする。
「このまま先に進みますか?」
「うん。熊おじさんたちから聞いた話だと、この辺りには夜の間だけ出現する物騒な魔物はいないみたいだし、いきなりの初挑戦だけど、今日はこのまま夜通しで歩くことにしようか」
幸いというか何というか、クンビーラ近くの地下遺跡だとか『土卿エリア』山中の地下施設などで、暗い場所を進んだ経験はある。多少勝手は違う部分はあっても何とかなるだろう。
<デスティニーテイマー>の影響か、先ほどの台詞でしっかりとフラグを立てることになってしまったことにボクが気付くのはもう少し後のこととなる。




