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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十六章 スホシ村と次の行き先
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536 仕事始め

 装備も新しくすることができたし、いよいよ例の迷宮に出発する時が近付いてきた、というタイミングで三度ボクたちの元へとカワセミ君がやってくることになった。

 まあ、ゲームだからね。こちらの状況に合わせてやって来てくれたということなのでしょう。


 「ほれ」と見せつけるように片足に結び付けられていた紙を見せつけてくるので、さっそくほどいて開いて読むことに。


 そこには何となんと、今のボクたちが喉から欲しい情報が記されていたのだった。


『拝啓。木々が青々と力強く成長していく季節となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。こちらは変わらずで、今日もシジューゴが大人たちから色々と言いつけられて悲鳴を上げております』


 いや待て。重要なのはそこじゃない。気になる一文がなかったとは言わないけれど。

 そんな調子で始まった手紙の続きを要約すると……。


 一、スホシ村の様子を探ってくれてありがとう。そうならないことを願ってはいるが、最悪の場合に備えて村の人たちが森に逃げ込んでこられるようにこちらでもあらかじめ準備を進めておくことにする。


 二、迷宮のことならば過去に調査を行ったこともあるので知っている。礼になるかは分からないが、当時の調査をまとめたものを添付しておく。ただし、それから長い年月が経っているので大幅に変化している可能性も否めないので十分注意して欲しい。


 三、森の魔物と戦うにはまだ力不足であるようなので、他の場所で力を付けてから挑戦することをお勧めする。


 そして『友たちの旅路が実り多きものであることを祈る』という台詞で締めくくられていた。

 三つ目は余計なお世話です。そりゃあ、力不足に関しては痛感したしその通りなのだけれどさ!

 しかし、それ以前にブラックリンクスと遭遇したのは森の外縁部というか、一歩踏み込んで直ぐという地点だったのだけれど、何で知っていたんだろう?


 もしかして見張られている?

 チラリとカワセミ君を見てみたが、それどころではないという様子で荒い息を吐いていた。やっぱりダイエットした方がいいんじゃないの。


 おっと、それどころではなかった。ああ、いや、別にカワセミ君のことをどうでもいいとか思っている訳じゃなくてですね。アイテム扱いで仕舞ったままだったとはいえ、ここしばらくずっと一緒にいたのでそれなりに愛着は湧いておりますですよ。

 って、なぜにボクはこんな言い訳をしているのでせうか?


 ……いけない。インパクトのある手紙の内容に、頭が錯乱しておりまするですわよ。

 ひとまず落ち着こう。こういう時には深呼吸なのです。


「すー……、はー……」


 ギャグコメディをやっている場合ではないので、定番であるラマーズ法――「ひっひっふー」ってやつね――のやり取りは省かせていただきます。


 よし、落ち着いた!

 改めて手紙を振り返ってみましょう。


 まず一点目だが、いざという時のために森の側でも応対しようと準備してくれているのは助かるね。ただし手紙にもあった通り、そうならないのが一番なのは間違いない。

 まあ、万が一の逃げる先があると分かっていれば心にも余裕が持てるというものだ。もっとも、あまり大々的に言いふらすべきではない――冒険者協会の職員たちや冒険者たちに知られると面倒事が起こりそうだし――だろうから、後でおばば様あたりにこっそりと話しておくことにしようと思う。


 そして二点目。ある意味これがボクたちにとっては最も重要な項目だと言えるだろう。

 村の調査のお礼代わりに迷宮についての資料が手紙に添えられていたことだ。

 いやはや、まさかこんな形でこれから行く迷宮の情報を得ることができると思いませんでしたよ。情けは人の為ならずってやつですかねえ。しみじみ。


 ちなみにその資料ですが、あっという間にミルファとネイトに強奪されてしまい、現在うちの子たちも一緒になって攻略のための研究会が行われていたりします。

 あの、ボクもその仲間に入れて欲しいんですけど……。


 三点目は既に突っ込みを入れたので省略。


 ふと視線を感じてそちらへと顔を向けると、ようやく落ち着いたらしいカワセミ君がつぶらな瞳でこちらを見ていた。


「手紙の配達ご苦労様」


 なんとなく労ってあげないといけない気持ちになりそう言うと、小鳥さんは片方の羽を広げて「ぴ!」と鳴いたのだった。


「……うん?カワセミってこんな鳴き声だったっけ?」


 調べたことがある訳ではないから詳しいことは分からないけれど、何かが根本的に違っているような……?

 まあ、でも、それを言い出したら真ん丸という体型からしておかしいのだから、難しいことを考えるだけ無駄なような気もする。


 ところでこの子、どうしていつまでもここにいるのだろう?


「えっと、手紙の返事がいるのかな?」

「ぴーよ」


 人間の言葉に当てはめるならば「ううん」だろうか。どうやら違うらしく、プルプルと首を横に振るカワセミ君です。

 でも、そうなると余計に理由が分からない


「まさかボクたちと一緒にいたいとか?」


 いやいや、そんなそんな。

 ちょっぴり自意識過剰な考えに自分のことながら苦笑して――、


「ぴ!」

「え?」


 一際大きく元気のいい鳴き声がしたかと思えば、カワセミ君はふよふよとその場で浮かんでは下がりを繰り返していた。


「ぴぴ!ぴぴぴ!」


 お、おおう!なんだかとっても荒ぶって、じゃないね。……うーん、これはもしかして嬉しそう?


「ぴっぴぴー」


 うん、何を言っているのかはさっぱり分からないけれど、とにかく楽しそうだということだけは分かったわ。


《ランダムイベント『宝石の子どもたち』が始まっています。大陸各地にいるという宝石の名前を持ったちびっ子たちとお友達になろう!》


 は?


 突如流れたインフォメーションに硬直してしまう。

 ま、まさかもう<デスティニーテイマー>さんが仕事を始めた、だと!?


 しかも「始まっています」って何さ。事後報告かい。

 まあ、これまでは終了した時点でようやくインフォメーションが流れていた訳だから、少しはマシということになる、と言えないこともないと思えなくもないようにそこはかとなく感じられるかもしれない。百万歩くらいは譲らないといけないけれど。


 それにしてもやけに可愛らしい解説だわね。新規プレイヤーとして女性や若年層を取り込む方針なのかもしれない。

 でも、できることならボクに関わりがないところでやって欲しかったなあ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 宝石······ カワセミは漢字にすると翡翠で、翡翠(ひすい)という宝石がある
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