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53 くるくると入れ替わる

ブックマーク数が200、総アクセス数も50000を超えていました。

読んで頂きありがとうございます。

 里っちゃんによると、物事が動く時というのは大抵が唐突で、しかも予想できないような形であることも多いのだそうだ。

 今回もその例にもれず、なかなかに急展開だったように思えた。


「うらあ!」


 おじさんがいきなり足元の土を蹴り上げたのだ。多分、目潰しとかそういうのを狙ってのことだったのだろう。

 残念ながら林の中だったせいなのか、湿った土は空中で散らばることなく一塊のままドサッと音を立てて地面に落ちてしまったけれど。


「…………」

「…………」


 気まずい沈黙が鎧の人とおじさんの間を支配している。ブレードラビットも命令がなくて動けないのか、じっとしたままだった。

 普段であればボクもエアリーディング能力を駆使して黙ったままでいただろう。しかし、今は敵対している相手が目の前にいるという非常事態だ。

 これから先をより有利なものにするためにも行動するべき時だった。


「【アクアボール】!!」


 叫びながら頭上へと両手を突き上げると、その先に残るMPのほとんどをつぎ込んだ巨大な水の球が生まれた。


「いっけえー!!」


 ブレードラビットが最も密集している場所の方へと両腕を振り下ろすと、直径が一メートルほどもある水の球が放り投げられたかのように飛んでいき、


「のわあっ!?」

「ブブブブー!?」


 数匹の巨大ウサギたちを巻き込んで破裂したのだった。

 元が大きかったこともあってその破裂した範囲も広く、ほぼ全てのブレードラビットたちにダメージを与えていた。着弾点にいた数匹に至っては既にHPがなくなっているし、想定していた最良の結果となったといえた。


 そして残りのものたちも、弾かれように飛び出していったエッ君によって、次々と倒されて……って、おいおい。いくら何でも〔瞬間超強化〕を併用した攻撃はオーバーキルが過ぎると思うよ……。


「んなっ!?て、てめえら卑怯だぞ!?」


 おじさんの言い分はもっともだと思うけど、先に不意打ち気味の目潰し攻撃を仕掛けたのはそっちだからね。失敗したけど。


「よそ見するなんて余裕だねー」

「しまっ!?」


 皮肉を込めたボクの言葉に気が付いた時にはもう遅い。おじさんの目の前には鎧の人の剣が迫っていた。


「くそが!」


 それでも往生際悪く大振りの短剣を引き抜いて応戦しようとしている。ボクを狙っていたことから察するに、間違いなく裏稼業な連中の関係者だろう。

 よって捕まろうが逃げ切ろうが、失敗した時点で碌な未来は訪れないことになる。

 つまり今この瞬間こそがおじさんにとって生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。周囲の目にどう映ろうが、格好がどうだろうがということを気にしている余裕なんてないのだろう。


 こういう状態の人は危険だ。火事場のバカ力に窮鼠猫を噛むといった言葉に代表されるように、容易に本来の力を超えたとんでもない力を発揮してくるからだ。

 里っちゃんも「ネタでも何でもなくて、本当に「やったか!?」って思った瞬間が一番危ないんだよ」と言っていたくらいなのだ。


 おじさんの場合、それは急所を見抜く観察眼だった。いや、その急所を的確に突いた運動神経か。はたまたその両方だったのかもしれない。


 これだけは断言しておくよ。鎧の人には油断も隙も存在していなかった。

 あの人は目前の敵対者を倒すということだけに、ただただ集中していた。もしも全てのコンディションが最良であったならば、おじさんが発揮したポテンシャル以上の力すらねじ伏せることになっていたはずだ。


 だけど、戦いに『もしも』はない、というのは定番の言い回しだ。

 そして定番となっている以上、それを回避するのは容易なことじゃない。だから、あの展開は起こるべくして起きたものだったのかもしれない。


 パキーン!


 甲高い音を立てて破壊されたのは、鎧の人が手にしていたボロボロの剣だった。


「こなくそっ!」


 そしてがら空きになった胴体に向けて蹴りを放つ。


 ゴッ!


 今度は鈍い音を立てて鎧の人が吹っ飛んでしまった。見た目からして立派な物のように思える鎧を着込んではいても、おじさんとの対格差は子どもと大人ほどもあるから、衝撃を受け止めることができなかったようだ。

 地面へと落ちた後もゴロゴロと転がって、一本の木に当たってようやく止まったのだった。


「大丈夫ですか!?」

「ははっ!これで形勢ぎゃく――」

「エッ君、足止めをお願い!」


 おじさんの言葉を遮るように指示を出し、ボク自身も倒れた鎧の人の元へと向かう。

 こういう時に大切なのは、相手に優勢になったという状況を認識させないことだ。特に理解へと繋がってしまう言葉には絶対に出させてはいけない。

 こちらにはまだ手がある、まだまだ押しているのはこちらの方だ、と思わせることで全力を引き出せないようにさせるのが重要なのだ。

 ほら、スポーツなどでもピンチになった時にはより大きな声で応援するようになるよね。あれにはこうした効果も含まれているという訳。


 うーん……。それにしても助けにきてくれたのなら、不安とか心配に感じる必要がないくらいきっちりと完勝してもらいたいものだよね。

 そりゃあ、元より回復などのサポートに回るつもりではあったけど、ここまでの危機的状況は想定していなかったですよ。


「しっかり!」


 駆け寄ってすぐさま回復薬を振りかける。値段は高いけれど効果も傷薬より高く、HPを五十も回復してくれる優れものだ。

 あ、ちなみに傷薬の回復量は三十です。三個しか購入していなかった貴重品の方を使ったのは、NPC扱いのためダメージ量やHPの残量などが分からなかったので出し惜しみは危険と判断したためだ。


 世界観重視のプレイスタイルと、必要に感じることがなかった――これまでの活動は街中ばかりだったもので……。NPCのHPを気にする必然性がなかったのですよ――のが災いした形だ。

 設定関連の項目は全て、一度は目を通しておいた方がいいのかもしれない。まあ、それもクンビーラに戻ってからの話だね。


 さて、序盤の強い味方である回復薬はさすがの性能だった。エッ君の時と同様キラキラエフェクトが発生した途端、鎧の人は飛び起きてくる。


「ふう。これで一安心」


 とは言ったものの、鎧の人の武器が破壊されてなくなってしまったのは問題だ。

 ボクは魔法の使い過ぎでMP枯渇寸前だし、エッ君も残っていたブレードラビットを一掃した後なので、おじさんの邪魔をするのが精々というところだろう。


 想定外の危機的状況は今もまだ続いているのでした。


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