525 畑の攻防戦 1
塀の外にある畑をどうすればいいのか。
これは村の人たち皆の頭を悩ませる問題であったらしい。
雑談混じりに話を振ってみると、女将さんはものすごい勢いで食い付いてきたかと思えば、あれよあれよという間に、とりあえずは畑周辺に出没している魔物を集中して退治して回ることで話が決まってしまっていたのだった。
「本当はもっと手伝って欲しいんだけど」
「仕方ないですよ。ボクたちは余所者で、その上皆から嫌われている冒険者なんですから」
「協会の連中がもっとしっかりやってくれていれば、こんなことにもならなかっただろうにさ!まったく、お偉いさんにばかりぺこぺこと頭を下げて、権力に取り入っているんだから話にならないよ!」
おおう!女将さんが荒ぶっておられる!
でもまあ、仕方がないか。協会職員たちは依頼料を吊り上げては中間マージンとしてポッケナイナイしてみたり、道具屋のお姉さんを始め若い女の子たちにセクハラを繰り返してみたりと碌なことをしていないようだしねえ。
そして職員の倫理がぶっ飛んでいれば、当然のようにそれは冒険者の方にも伝染していくもので。
そもそも現状では『火卿エリア』で冒険者になるような人物は、プレイヤーを除いて暴れん坊や鼻つまみ者といった嫌われ者と相場が決まっていた。
そんな連中が好き勝手をしている様を見て我慢ができるはずもなく、町以上の規模ともなれば住民との間でトラブルが発生しない日はない、と言われるほどに騒動を起こしているそうだ。
その上、それを権力者たちが黙認しているというのだから性質が悪い。
最初はどこかの貴族陣営に所属しては別陣営との戦いを繰り広げる、という活動が主だった『火卿エリア』のプレイヤーたちも、最近ではこの腐敗や荒廃度合いに嫌気がさして、レジスタンス系の組織に参加したり、自ら反抗勢力を作り上げたりしている人も増えているのだとか。
ちなみに、偶然かそれとも男性陣不在と関わりがあるのか、スホシ村に滞在している冒険者はボクたちだけだった。
だが、もしもNPC冒険者と鉢合わせをしていたならば、初日の時点で大げんかに発展していたかもしれない。
あ、でも、それならそれでボクたちが――『火卿エリア』での――一般的な傍迷惑冒険者とは違うとアピールすることに繋がったかもしれないね。
「スホシ村の人たちの信頼を得るには、冒険者協会の支部をぶっ潰すのが一番手っ取り早い気がしてきた」
「唐突に物騒なことを口走らないでください。まあ、気持ちは分からないではありませんが」
「もしも他の町や村から応援を派遣されたりしたら、数で劣るわたくしたちに勝ち目はなくってよ。そうなればかえって村にご迷惑をおかけすることになりかねないのですから、自重してくださいまし。まあ、潰してしまいたいという部分には同意したしますけれど」
ミルファもネイトも、この国の冒険者協会へのヘイト値が順調に溜まっているようです。
そんな不穏なやり取りをしている内に村の外、塀の外にある畑に到着です。
それと同時に、
《イベント『畑を荒らす害獣を屠れ!』が発生しました》
ピコンと視界にインフォメーションが表示される。
いや、屠れとはまた物騒な物言いだね。確かにその通りではあるのだけれどさ……。
と、ともかく、これから戦闘になるのだから、気を引き締めてかからないと。
討伐の対象となるのは、この数日で何度も倒してきたファットマウスにグラスフォックスという村の周囲に通常出現する魔物に加え、こうしたイベントやクエストで特別に登場するらしい、穴掘り猪と菜食モグラの二種類の魔物の計四種となる。
特にイベント用の魔物だけあって、ディグボアはフィジカルが高くて倒し難いだけでなく、土を掘り返しながら突進するという畑が壊滅しかねない特技を持っている。
ベジタリアンモールの方も地面の下を移動するというモグラならではの動きで、気が付かない間に畑の作物が食い荒らされていた、などという笑えない展開もあったらしい。
そして普通に戦うならばともかく、こうしたある意味防衛戦的な流れだとファットマウスは数が多いし、グラスフォックスも保護色的な見つけ辛さがある。
つまりはどの魔物も気を抜くことができない厄介な相手ということになるのだった。
「〔警戒〕技能は必須だから、ボクとネイト、リーネイを中心にした三つのグループに別れようか」
まず、ネイトの組には発見したと同時に攻撃ができるようにトレアと、接近を許してしまった際の盾役にリーヴを配置する。
リーネイの組にはミルファとチーミルという主従コンビだ。二人で上手く連携しながら攻撃と防御に対応してもらいたい。
そしてボクの組にはエッ君だ。基本的にその場から動かないネイト組、リーネイ組とは異なり、ボクたちは遊撃としてあちらこちらを走り回る予定です。
そのため防御を考えない攻め重視、移動速度重視の二人組ということになっていた。
「リュカリュカとエッ君の負担が大きくありませんか?」
「そうでもないよ。ボクたちが遊撃として動き回る分、残るみんなには広範囲をカバーしてもらわないといけないから」
畑の四方のうち一辺は村側なので無視できるせよ、残る三方を二組で抑えることになりますので。
もしかすると、こちらの方が苦しいかもしれないくらいだ。
「当然、そうならないようにボクたちも頑張るつもりだけどね」
ボクの台詞にエッ君が「その通りだ」と言うようにびょいんと飛び跳ねる。
そうして、ボクたちがそれぞれの配置に付くのを見計らったかのように魔物の接近が感じられた。
「さあさあ、それではうちの子たちの新装備のお披露目といきましょうか!」
特にエッ君は、素材が不足してすぐには作製をお願いできなかったこともあって、やる気も殺る気も十分といった調子だ。
他の子たちも新装備にどことなく浮かれ気味となっていた。これは普段以上のパフォーマンスだって期待できてしまうかもしれない。
「わたくしとネイトも負けませんわよ!」
それに、ボクたちの装備の方も耐久度の回復を終えて、思う存分振るうことができるようになっているからね。多少の不利くらい簡単に引っ繰り返してあげるよ。
一斉に近付いてくる多数の魔物の気配を前にしながらも、ボクは不敵な笑みを浮かべ続けていた。




