524 スホシ村にて
スホシ村に滞在してから早三日が経った。
リアルの方では次々とテストが返却されてきたが、全てほぼ自己採点通りの点数で無事にノルマを達成。年末年始を含めた冬休み中の『OAW』プレイ時間を確保することができて一安心といったところだ。
そのゲームのことですが、伝書鳥のカワセミ君にスホシ村の様子を書いた手紙を運んでもらった翌日には、森から「引き続き物々交換ができなくなった経緯を調べて欲しい」という内容の手紙が届けられることになった。
これについてはイベント完了のお知らせがなかったこともあって薄々予想もしていたので驚くことはなかったのだが、手紙を運んできた当のカワセミ君がゼイゼイ、ハアハアと息も絶え絶えの状態になっていたことについてはとってもビックリすることになった。
カワセミ君や、きみもっと痩せた方がいいんじゃないかしら?
スホシ村の方はというと、エッ君たちの装備品の素材集めやレベルアップ等を兼ねて周囲の魔物を退治して回っていたことで、村の人たちに態度も徐々に軟化しつつあるように思える。
どうやら、女性ばかりでは村の外――木塀の外という意味です。つまり麦や野菜の畑なども含まれるのよね……――のことまで手が届いていないようだ。
この数日気が付かれないようにこっそり観察していて分かったことなのだけれど、なんとこのスホシ村には現在男性がほとんどいないようなのだ。
いたとしてもリアルでいうところの小学生くらいまでの子どもか、逆にお年寄りばかりといった具合で、いわゆる壮年に該当するのは熊おじさんだけといった有様だった。
シジューゴ君たちから聞いていた話では、物々交換を行うために森へとやって来ていたのは青年から中年に当たる村の男性陣だった。よって、元々男性が極端に少ない村ということではないはずだ。
この原因を探ることが村で起きている異変を解明することに繋がるのは間違いないだろう。
そのためには、もっと村の人たちからの信頼を得る必要がありそうだわ。
後、余談ですが有力貴族たちによる内乱状態になって以降、『火卿帝国』内の『転移門』は全て撤去されてしまっているそうです。まあ、転移でいきなり自陣に敵が押し寄せてきた!?なんてことになりかねないから、当然の対処ではあるかな。
ボクたちがクンビーラやドワーフの里へと戻ることができるのはまだまだ先のことになりそう。
それはさておき、村人からの信頼を獲得する方法だ。
「手っ取り早く、という言い方をするとちょっとアレなんだけど、村の人たちから信用してもらうにはどうすればいいと思う?ボクとしてはすっかり放置状態になっている外の畑がとっても気になるんだけど」
ゲームの世界だからなのか、リアルに比べて栽培が容易になっているとはいえ、完全に放置では成り立たないのがこちらの農業だ。
魔物に食べられてしまう、という被害が発生することもある。これについてはボクたちが狩り始めたことでマシになっているかもしれないが、それでも根本的な解決にはなっていない。
どの程度の期間放置されていたことになるのかは分からないけれど、早急に一度手を入れてやる必要があるのではないだろうか。
「良いのではないでしょうか。数日間見ていた限り、塀の外へと出ている人はいなかったようですから。このまま手を掛けることができなければ、最悪全滅ということにもなりかねません」
「やるのは構いませんわ。ですが、わたくしたちは冒険者でしてよ。どのような形になるにせよ、依頼として引き受けるには『冒険者協会』を通す必要があるのではなくて?」
問題はそこだよねえ。向こうからの接触がないのをいいことに、ボクたちは村にある冒険者協会の支部には顔すら出してはいなかった。
が、ここ数日間、様々な魔物を狩っては素材を熊おじさんの店に持って行ったり、薬草類を採取しては道具屋などに売り払ったりしていたため、間違いなく目は付けられていることだろう。
「他所から来た冒険者だということは公言しているから、バレたところで痛くもかゆくもないけれど、のこのこと冒険者協会の支部を訪れたが最後、拘束されて貴族とか権力者の私的戦力として囲わちゃうだなんて展開になったら困りものだよ」
「クエストとしてではなく、単に知り合いからのお願いということにもできなくはないでしょうが……」
「協会を軽んじているとされて、かえってあちらが介入してくる口実を与えることになるかもしれませんわよ」
どちらにしても問題ありということね……。
「うーん……。どう動くにしても向こうの様子が分からないのでは手の打ちようがないね。とりあえず女将さんや熊おじさん、道具屋のお姉さんとかに冒険者協会の評判を聞いてみようか」
まあ、冒険者と出しただけで熊おじさんが不機嫌になったことから、期待はできないだろうけれどね。
「冒険者協会?あいつらは碌なもんじゃないよ!クエストを依頼しようとしても、やれ「こんな仕事を引き受けるような人間はいない」だの「こんな金額では仲介料にもならない」だのと難癖ばかり付けてきてまともに取り合おうとしないんだからね!」
というのがボクたちの泊まっている宿の女将さんの談でした。
「ああ!?冒険者協会だとお!あいつらは上前を撥ねていかに自分の懐を肥やすかばかりを考えているクズどもの集まりだ!二度とあの不愉快なやつらの話なんかするんじゃねえぞ!」
こちらは熊おじさんの言葉だね。
「業務を提携したいとか素材の安定供給についての話があるとか、それらしい話しを持ってきては二人きりになろうとするの。怖いから最近は会うことすらしていないわ。あなたたちも気を付けてね。何をされるか分かったものじゃないんだから」
以上が道具屋のお姉さんの被害報告となります。
「想像以上に酷かった……!」
「ジオグランドの冒険者協会の腐敗も酷かったですが、こちらも負けてはいませんね……」
はっきり言って完全に村の人たちにそっぽを向かれている状態だ。
それなのに存続できるのは、噂通り領主の貴族と密接な関係を持っているからなのだろう。
ともかく冒険者協会に出頭するのは止めておいた方が無難だろうね。ネギを背負ったカモさんにはなりたくないです。
「そうなりますと、やはり村の人たちに直接話を付ける必要がありますわね」
むむむ……。一部の接触の多い人とは仲良くなっていて、それなりに態度も軟化してきているとはいえ、まだまだ村全体からの信頼を得ているとは言い難いからなあ。
下手に距離感を見誤って踏み込み過ぎてしまうと、これまでの信用すら吹っ飛んでしまいかねないのだ。
冒険者協会からこれ以上睨まれないためにも、ここはひとまず慎重に事を進めるべきだろう。
差し当たっては、女将さんと熊おじさんにだけは話を通しておくとしましょうかね。




