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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十五章 森の中、森の外

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520 修復 or 購入

 飛び込みで入ってみた目抜き通り沿いの宿屋にはテイマー用の部屋があるとのことで、食堂などへ連れ出すのはダメだけれど、部屋の中であれば自由にさせてもいい――当然、物を壊したりしない範囲での話だが――という条件で、ボクたちはこの宿を村の調査の拠点とすることにした。

 まあ、多少どころではない割増料金を取られることになったけれどね。


 それにしてもテイマー用の部屋があるということは、以前はこの村にも相当数の冒険者が出入りしていたということなのだろうか?

 それとも基本的にはどの町や村でも休息ができるようにというプレイヤーへの配慮?

 どちらとも取れそうだから、現状では何とも言えないなあ。


 と、考えたところで答えの出ないことをいつまでも悩んでいても仕方がない。

 いつどこで唐突にイベントが進行してしまうかも分からないし、消耗品の補充や装備品の耐久値の回復など、やれることをやっておきましょう。


 あ、ちなみに村の名前はスホシ村というそうです。

 道具類を販売しているお店や武具店などを教えてもらうついでに宿のおかみさんに尋ねたら、ものすっごい訝し気な目で見られたけどね。

 仕方がないので魔法陣の暴走で転移させられたという事情を説明してみると、余計に怪しまれることになってしまった。本当のことなんだけれどねー。


 そんな一幕を挟みつつ、ボクたちは一件の鍛冶工房へと足を運んでいた。


「こいつはまた、随分と酷使したもんだ……」


 装備品を見せた途端、店主である隻眼のおじさんからそう言われてしまった。

 熊のセリアンスロープだそうで、ドワーフかと見紛うほどにがっしりとした筋肉質な体は剛毛に覆われており、頭の上にはピコンと丸いお耳が飛び出している。


 一応クンビーラの鍛冶工房兼武具店のゴードンさんやドワーフの里の皆さんから、出先でもできる簡単な手入れ方法は教わってはいた。が、しょせんは素人の付け焼き刃だったらしい。

 まあ、ゲーム的なことを言えば技能も何も持っていない状態だからね。やらないよりはマシ程度でも効果があったのならば御の字といったところだろう。


「余りこういう言い方はしたくはないんですけど、修繕費が高くつくようなら新しい装備に買い替えることも検討してます」

「ふん。当然の考えだな。命を預ける装備品を大切に扱えないやつは論外だが、それに固執して大怪我をしたり死んじまったりしちゃあ元も子もねえからな。……ただ、おまえたち、そろそろ上位職へのクラスチェンジが控えているんじゃないのか?」


 問われた瞬間、背後にいたミルファとネイトの視線が鋭くなったのを感じる。


 確かにその通りで、森の中でのハチェットディアー戦と、先ほどのファットマウスの群れとの戦いによって、ボクたちは三人共レベルが十九に上昇していた。

 加入時の初期レベルが最も高かったミルファに至っては、恐らくレベル二十がもうすぐのところまで来ていると思われます。


 ついでにうちの子たちのレベルにも言及しておこうか。エッ君とリーヴが十七レベルで、トレアは十五レベルにまで成長しています。

 チーミルとリーネイはそれぞれミルファとネイトの特別人形という扱いなので、レベルこそ彼女たちの半分の十レベル――端数は切り上げ――だ。が、プレイヤースキル的な内部経験値の積み重ねがあるためか、実際の戦闘能力はもっと高いという印象を受けるね。


「どうしてボクたちがクラスチェンジ間近だと?」


 スホシ村の人たちがボクたちを警戒しているように、ボクたちもまた村の人たちに注意を払っていた。そこにこちらの状態を言い当てるかのような台詞が飛び出してきたのだ。口調に多少の険が混じるのも仕方がないというところだろう。


「あん?これだけ使いこんでいるっていうのは、クラスチェンジに備えてのことじゃなかったのか?」


 熊おじさんの話によると、上位職になるとたまに得意武器や装備可能品目の追加や変更があるらしく、二度手間やお金の無駄遣いにならないよう買い控えをする人たちが多いのだとか。


「何だお前たち、もしかしてそんなことも知らなかったのか?」


 知りませんでした。

 最期に立ち寄った町となるドワーフの里では、上位職までもうすぐだという認識はあったが、同時にまだ先のことだという思いをぬぐい切れていなかった。

 そのため、上位職やクラスチェンジ関連の詳しい話を聞くのはまた今度でも大丈夫だろうと先延ばしにしてしまったのだ。


 常識とまではいかずとも、冒険者ならば知っておくべき知識だったのだろうね。

 熊おじさんの視線が冷ややかになっていくのを感じるよ……。


「はあ……。それで、どうするんだ?買い替えるのか?修復するのか?正直な話、ここまで傷んでいるとなると、値段的には似通ったものになるぞ」

「うーん……。教えて欲しいんですけど、この装備でこの辺りに生息している魔物と渡り合うことはできますか?」

「お前たちの力量次第ではあるが……、まあ、村の近くや街道沿いの場所なら問題ないだろう。だが、丘の奥や森に行くなら確実に力不足だな」


 総力戦の物量差で押し切ったとはいえ、よくハチェットディアーに勝てたものだわね……。

 それはともかく、しばらくはこの村から離れる予定はない。つまり当面はこれまでの装備のままでも問題はないということになる。


「修復でお願いします。クラスチェンジまでの中継ぎということなら、手や体に馴染んだ物の方が安心できるので」


 ファットマウスの群れとの戦いのような、ある意味極限に追い込まれるような戦闘はそうは発生しないだろうけれど、それでもほんの少しの違和感や感覚のズレが明暗を分けるようなことが起こらないとは言い切れない。

 危険の芽は小さくとも潰しておくのに限るのだ。


「ほう……。常識しらずかと思えば、そのあたりはしっかりしているようだな」

「これでも基本だけは先輩冒険者たちにしっかりと仕込まれましたので」


 クンビーラにいた間は、下手をすれば依頼で倒した魔物の数よりも、訓練と称して戦わされた魔物の数の方が多かったかもしれないくらいだからねえ。

 ところで、熊おじさんが苦虫を百匹くらいいっぺんに噛み潰したようなしかめっ面になっているのだけれど。


「どうかしました?」

「なんでもねえ。さっさと修復する装備を出せ!」


 話題に出たくらいで機嫌が悪くなるとは、スホシ村と冒険者とは相当こじれてしまっている可能性が高そうだ。

 これまでボクたちが邪険にされなかったのは、あまり冒険者らしく見えなかったから、なのだろうねえ。

 うーん……。ちょっと複雑。


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