519 避けられているみたい
みんなで話し合い、これ以上の詳しい事情を知るには村の中へと入り込むしかないという結論に至った。大きなリターンを得るためには多少のリスクは覚悟しないとね。
ただし、シジューゴ君たち森の住人たちの依頼であることは秘密にして、あくまで単なる旅の冒険者という体を装うことにした。
どこで誰が聞き耳を立てているのかも分からない以上、背負うリスクはできる限り小さくする努力をしないといけません。
最後に一通り周囲に魔物が潜んでいないかをチェックしてから、エッ君たちはしばし『ファーム』でお休みです。
「……いやいや、見張りもなしに入口が開いちゃうとかダメでしょう」
試しに押してみたところそのままに内側へと開いていく扉を見て、あまりの不用心さに思わず突っ込んでしまった。見張り役がいないのは遠目で既に確認していたが、まさか入口に鍵すらかかっていないとは思ってもみなかったわ。
ミルファやネイトたちもきっと、頬を引きつらせたり顔をしかめたりしていることだろう。
「もしかして、ボクたちが思っているよりも切迫した状況なのかな?」
「それをはっきりさせるためにも、情報収集をしっかりと行う必要がありそうです」
誰からの歓迎の言葉を受けることなく中へと入り込んだボクたちは、気を引き締め直して通りを歩き始めたのだった。
「セオリー通りにいくのであれば、情報収集には冒険者協会か酒場がよろしいのですわよね?この村に冒険者協会の支部はありまして?」
そこで酒場を選ばない辺り、ミルファはやっぱりお嬢様だよね。まあ、ボクとしても酔っ払いに絡まれたくはないから、行かなくちゃいけないとしてもできるだけ後回しにしたいところではあるけれど。
「この規模の村ならば、あってもおかしくはないでしょうが……。『三国戦争』以降、『火卿帝国』内の冒険者協会にはあまりよろしくない噂が付きまとっていますからね……」
例の貴族たちの私兵養成所となり果てている、というやつだね。本来であれば中立もしくは立場の弱い民の側に立たなくちゃいけないはずなのに、権力側の手先になっている支部も多いのだとか。
メイションや掲示板などでも同様の話を聞くことができることから、基本的に『火卿エリア』での冒険者協会は有力貴族と癒着した関係にあると言えそうだ。
「下手に接触してボクたちの情報が領主とか権力者に渡ると面倒だし、冒険者協会は後回しにして先に休める場所を確保しておこうか。その後、情報収集も兼ねて消耗品やらなにやらの補充にお店に向かうっていう流れでどうかな」
と方針を決めたまでは良かったのだけれど……。
「誰もいませんわね」
街道から続く村の目抜き通りで、看板から察するに様々なお店が建ち並んでいるはずなのに、人っ子一人見当たらなかったのだ。
丘の上から観察した時には、少ないながらも何人も人が行き交っているのが見えていたため、ゴーストタウンという線はあり得ない。
念のため〔警戒〕技能で人の気配を探ってみたところ、どうやら建物の中や物陰などから遠巻きにしてこちらを注視しているらしい。
「怖がられてる?」
「恐怖心もありますが、それよりも驚きだとか困惑の気持ちの方が強いようです」
驚きに困惑?ボクたちの何かが奇妙だということなのだろうか?
「冒険者協会の支部と貴族が繋がっているため、一般的な冒険者の数が少なくなっているのではないでしょうか」
街から町や村から村へと依頼を受けながら旅して回るというのは、行商人か実力のある冒険者というのが相場だ。そしてこの『火卿エリア』では、まともな冒険者の数自体が少なくなっているため、拠点を持たずに旅をして回るような腕の立つ存在となると、半ば物語の住人となってしまっている可能性すらある。
さて、ひるがえってボクたちだが、アイテムボックス持ちであることを踏まえても軽装で荷物らしい荷物も持っていないため、まず行商人には見えないだろう。
そうなると冒険者ということになるのだけれど、先にも述べたようにこの地域では冒険者が珍しい存在となり果ててしまっているようだ。
そして極めつけに若い女性ばかりということで、村の人たちからすれば正体不明の怪しい存在に見えているのかもしれない。
「なるほど。つまり、彼らからしてみればわたくしたちは得体のしれない相手ということになるのですわね」
お、おおう。ミルファ、ズバッと言っちゃいましたね。
まあ、恐らくはその通りなのだろうけれどさ。
しかし困った。これだけあからさまに警戒されては、下手に言い繕っても信用してもらえないどころか、逆に不信感を抱かれてしまうかもしれない。
一応、エルフお兄さんたちから預かった真ん丸カワセミ君を見せるという切り札がないではないのだけれど、これを出してしまうと完全に後戻りができなくなってしまう。
せめてもう少し村の状況が分かり、森に住む人たちに友好的な人が判明しない限りは切ることができないだろう。
「よし。もう面倒だから、聞かれたらある程度はボクたちの事情は話してしまおう」
唐突な宣言に「えっ?」と驚きの声を上げる二人に考えを説明する。
コソコソとする必要がなかったから、この時ばかりは村の人たちとの距離が離れていて良かったと思えたのだった。
「森関係のことは伏せておくとして、転移の魔法陣の暴走に巻き込まれて、この村の近くに飛ばされたことにするんだよ」
ほぼほぼそのままだが、いくら何でも『土卿王国』でのいざこざまでは話すことはできない。偶然発見した遺跡の調査中の出来事ということにして、その遺跡があった場所も『風卿エリア』のどこかということにするつもりです。
「確かに、それならば物珍しい冒険者がいても不思議ではない、かも?」
「ですが、こんな荒唐無稽な話を信じてもらえますかしら?」
「信じてもらえなかったら、その時にまた次の策を考えればいいよ。少なくとも魔法陣の暴走で転移されられたことは事実なんだから」
ふと周りを見回せば、ちょうど宿屋の看板が目に入る。
「まあ、まずは予定通り休める場所を確保しようよ」
さて、このお宿はうちの子たちを外に出してあげることはできるのかな?
できれば食事も一緒にできればいいのだけれど。扉を潜りながら、ボクはそんなのんきな事を考えていた。




