516 戦います
悩んだ末、ボクたちは戦うことを選択した。ミルファが挙げた逃げた先で別の魔物と遭遇して挟み撃ち、という展開になることを嫌ったためだ。
「先に魔物が隠れていることを感知できたのはラッキーだったけど、〔鑑定〕が届かないのは困ったね……。という訳で現状ボクたちが取れるだろう手は二つかな。一つはここから、もしくは発見されないギリギリの位置にまで近付いてから先制攻撃を与えて、敵が混乱しているところを叩くという方法。二つ目は距離と先制の有利を捨ててでも近付いて〔鑑定〕を行い、確実に魔物の情報を得てから戦うという方法」
メリットとデメリットについてはそのままだね。要は先手を取るのか、それともより多くの情報を取るのかの選択ということになる。
「先のこともありますし、できればより安全な方を選びたいところですわね」
場合によっては村に入ることができずに野宿という展開だってあり得るものね。消耗を少なくしておきたいというミルファの考えは納得のいくものだった。
「一概には比べられないけど、どちらかと言えば一つ目の方法かな」
幸いにもこちらは魔法に弓矢と遠距離攻撃が豊富だからね。牙や爪といった近距離直接攻撃しか持っていない魔物であれば、先制の一撃だけでなく近付いてくる間も一方的に攻撃を加えることができるかもしれない。
ただし、弱点や態勢などが不明のため、無駄となる攻撃が出るとか、多くの手数が必要となる可能性が残ることになるけれど。
「MPや矢を大量に消費してしまうかもしれないのですね」
「うん。極端な話、HPや回復薬を残すか、MPや矢を温存するのかの二択になるかもね」
どちらが良いのかと問われれば、正直どちらとも言えないというのが本音のところだ。どちらが先に尽きたところでジリ貧になってしまうのは目に見えているので。
「わたくしは先手を取ることを選びますわ」
「……そうですね。HPを回復するのに〔回復魔法〕を使うとなれば、MPを消費するのは変わりませんから。それならば少しでも早く敵を倒すことに注力する方が得策であるように思います」
「二人の意見は分かったよ。みんなはどうかな」
仲間なのだからうちの子たちにも聞いておかないとね。まあ、これまでの会話に割って入ってこなかったから、恐らくは反対意見はないのだろうけれど。
「わたくしとリーネイも同じ考えですの。エッ君たちは……、マスターたちの指示に従うつもりのようですわね」
やっぱりね。
「それじゃあ、基本は遠距離からの先制攻撃で魔物を炙り出して、近付いてくるまでの間にできるだけたくさんのダメージを与えるという方向でいこう」
「了解ですわ」
「あ、ボクは一応〔鑑定〕で魔物の弱点とかを探ってみることにするので、全体の指揮はネイトにお任せするね」
「え?そうなのですか?」
「少しでも消耗が減らすことができるのであれば、やれることはやっておいた方が良いと思って。まあ、それも余裕があればの話だけど」
その辺りの判断を含めて、ネイトには指揮をお願いしたいところだ。
「……分かりました。クシア高司祭からも周囲を見ろと言われた事ですし、精一杯今回の指示役を務めさせていただきます!」
少しの間迷った様子を見せた後、ぐっと拳を握り締めながら宣誓するネイトさんです。
いや、そこまで意気込まなくても……。まあ、いいか。やる気があるのは悪いことではないだろうし。
それにうちの子たちはみんな、指示がなければ一歩も動くことができないような子たちではない。例えネイトの指示が極端に間違っていたとしても、個々の判断で修正してくれるはずだ。
「ではでは、そろそろ始めるとしましょうかね」
方針が決まったところで行動開始。と言っても、約五十メートルとさすがに今のままでは攻撃をするにも目標までの距離が遠すぎる。
息を潜めながらじりじりと近付いていく。
「ここまでです」
ネイトの言葉で止まったのはおおよそ半分の距離にまで近付いた地点のことだった。
「ちょうど二十五メートルプール一個分くらいの距離だね」
「……よく分かりませんが、それは二十五メートルくらいと言えば良いだけなのでは?」
「ふっ。そうとも言う」
戦闘前に暢気すぎる?ノンノン。こういう会話を交わすことで緊張を取り除いているのですよ。多分ね。
ちなみに、距離が縮まったことで効果が表れるかもと〔鑑定〕技能を使ってみたが、残念ながら未だに範囲外だったもよう。
ぐぬぬ……。〔警戒〕でなら敵の居場所を察知できるようにはなっているというのに、こちらはなかなか苦戦中であります。
「魔物が潜んでいるのは、岩の手前側みたいね」
「はい。奥側にいたのであればもっと近くまで進んでも勘付かれなかったかもしれませんが、今はこの位置が限界です」
近付いてみるとなかなかに大きな岩だということが分かる。横幅は五から七メートル、高さも三メートルくらいはありそうだ。あれなら確かに身を隠しておくには都合がいい反面、意識的に岩陰となる方へと監視の目を光らせていなければ、意外と簡単に接近を許してしまうかもしれない。
「ですが、手前側にいるからこそ攻撃できるという面もありますわ」
「そうだね。悲観する必要はないでしょ」
トレアであれば曲射で障害物を避けて魔物のいそうな場所へと矢を撃ち込む、くらいのことはできそうな気がするけれど、ボクたちの魔法の腕前では到底無理な話だ。
射線が開けている――背の高い草むらのせいで、正確な位置となると微妙なところではあるが――こちら側にいるからこそ、今回の奇襲が成り立つと言えるのだった。
「目印を兼ねて初撃はトレアに射てもらいます。エッ君はそれを目標に草を刈るようにして【裂空衝】をお願いします。残る面々はそれぞれ魔法での攻撃をお願いします」
ネイトの指示に全員がコクリと頷くと、魔法組はさっそく準備に入る。
「始めます」
短い一言に続いてトレアが立ち上がると、流れるような動作で弓を引き絞り、放つ。さらにその矢を追いかけるようにしてエッ君の【裂空衝】が地を這いながら触れた草を散らして突き進んでいく。
「【アクアボール】!」
「【アースボール】!」
「【ライトボール】!」
そして間髪入れずに魔法で作られた三色のボールが矢が突き立っただろう場所へと殺到して、
「ヂュヂュウウウウウ!!!?」
可愛くない悲鳴が辺り一面に響き渡ったのだった。




