514 森の外へ
じっと見つめていると、エルフお兄さんは降参だと言わんばかりに軽く両手を上げてため息を吐いた。
「実際のところは君が察した通りだ。残念だが一部の者たちからは反対をされている」
「あの頑固ジジイ連中には何を言っても無駄だぜ」
猿兄貴の吐き捨てるような口調から、これはまた相当激しい調子でやり合ったのだろうと予想されます。
長老や指導者格と中堅と若手による世代間の対立というのはどこの世界でもあることらしい。
これって、一概にどちらが悪いと言い切れるものではないから厄介なのよね。
先人の知恵や経験は有用だけれど、それに固執し過ぎてしまうと新しい発想や手段を生み出す弊害となる。
逆に新しい発想や手段だけで物事を進めようとすると、思わぬところで足を掬われ大失敗となることだってある。
要はバランスが大切ということなのだ。が、人間若い頃は何かと反抗心が強くて、仕組みやルールには反発したくなるものであり、年を取ると年を取ったで、安定を求める傾向が強くなるのでこれまでの人生経験を簡単には捨てられなくなってしまうもの、らしい。
ちなみに今の言葉は、中学時代のいつだったかの全校集会で校長先生が話してくれた内容です。
ためになる話だったことは否定しないけれど、特に似通った問題なども起きていなかったので、「どうしてそんな内容なの?」と生徒全員――実は先生たちもそうだったらしい――が頭を捻ることになった、といういわくつきのものだったりする。
おっと、話しが脱線してしまいそうになっているのでこの辺りで修正を。
「まあ、ちゃんと話し合いが行われていたようなので良しとしますか」
「どうして上から目線な発言なのかは気にかからないではないが……、それで構わないのか?」
細かいことを気にしちゃダメです。と言うのは冗談で、あくまでも対等な立場であることを強調するため、エルフお兄さんが指摘した通りわざと偉そうな調子で喋ったという部分はあります。
ボクたちだけでは森から出ることができない。そしてあちらも彼らだけでは村の様子を探ることはできない。だからこそ「お互いに協力することで目的を果たしましょう」と暗に言っていたという訳だ。
「ええ。たった一つに意見をまとめるなんて、よっぽど特別な事情がなければできませんから」
そんなことができるとすれば、とてつもなく強いリーダーシップを発揮できる人がいるか、もしくはある人物に全依存している集団なのか、それとも独裁的な社会態勢のどれかくらいなものだろう。
彼らの場合、ここにいる三人だけ見てもエルフお兄さんに猿兄貴、そして猫先輩と多種族の集まりだろうということは簡単に見て取れるから、異常のどれにも当てはまり難いと思われます。
そしてシジューゴ君に一旦彼の提案を持ち帰らせたのは、彼ら全員にこの問題を知らしめさせるためだった。理由は以前にも述べた通りで、要はいざ問題が発生してしまった時に「知らなかった」だの「聞いていない」だのと責任逃れをさせないためだ。
よって、話し合いが行われた時点でボクの目的は達成されたも同然と言えるのだった。
「それじゃあ、これからの段取りや内容を詳しく決めていきましょうか」
「あ、ああ。分かった」
エルフお兄さんたちはどこか釈然としない様子だったが、せっかく場の主導権を取れたのだから、このままサクサクとこちらのペースで進めていきますよー。
《イベント『森の外の村の様子を探れ』が発生しました》
そんなこんなで細かい部分を詰め始めてからおよそ三十分後、ようやく話をまとめることができたボクたちは、エルフお兄さんたち三人に案内されながら森の中を歩いていた。
「まず、少し離れた場所から村の様子を伺って、問題ないと判断できてから中に入るという手順でいいですね?で、分かったことは紙に書いてこの小鳥さんに運んでもらう、と」
視線の先にいたのは緑色が綺麗な伝書鳩ならぬ伝書カワセミだ。ただね、やけに真ん丸なんですけど、この子……。
最初に見た瞬間「飛べるの?」と思ってしまったのは、当然の反応だったはず。
ちなみにこの子はアイテム扱いらしく、アイテムボックスへと収納可能です。
「そうだ。できれば村の中にまでは入り込んでもらいたいが……」
「お前たちが言うように、兵士なんかが入口を封鎖しているかもしれないからな」
「物理的に入り込めないのであれば致し方ない」
村の状況うんぬんよりも前に、敵対勢力がいるのかどうかすら分かっていない状態ですからね。慎重に行動するのに越したことはないでしょう。
盗賊とかいかにもな悪い連中に乗っ取られている、とかなら解放すれば終わりで簡単なのだけれどねえ。前回の物々交換の時にあちらの村人がこうなる未来を予見するような台詞を口にしていたようだし、単純な話では終わらない可能性も高そうだ。
そんな打ち合わせじみた会話をしている内に前方が明るくなってくる。
どうやら無事に森の外れにまでやってくることができたようだ。
「一体の魔物にも遭遇することがないなんて……」
「まあ、これくらいはやれねえと案内役なんて務まらねえからな」
そう言ってニカッと笑う猿兄貴。ううむ……。彼がやるとどうにも爽やかさよりも暑苦しさの方が勝ってしまう。
エルフお兄さんならば全く逆の印象になっただろうに。
え?猫先輩?ニヒルでクールを気取っている節があるので、よほどでなければそんな仕草はしないでしょうね。
余談だけど、一口に森の案内役と言っても最初からこの不帰の森に住んでいたのはエルフたちだけなのだそうだ。猿と猫系のセリアンスロープの人たちは過去に色々あって、命からがら森に逃げ込んだところをエルフたちに助けられて一緒に住むようになったという歴史があるのだとか。
「この辺りでお別れですかね。ありがとうございました。皆さんのおかげで無事に森を抜けることができました」
「礼には及ばない。その代わり、村の調査をよろしく頼む」
「もちろん。恩には恩で返すのが信条なので」
そんな話は聞いたこともない!という顔で見ているであろうミルファとネイトを無視しつつ、話を進める
「あ、シジューゴ君にもよろしく伝えておいてください。くれぐれもうかつな行動は控えるようにって」
「それなら今頃身をもって思い知っていることだろうよ。昨日勝手にお前たちに会ったことへの罰として、皆の雑用や力仕事を押し付けられているからな」
あらら……。猫先輩たちと一緒に現れなかったから、もしや?とか思っていたのだけれど、見事に予感が的中してしまったようだね。




