512 やって来たのは誰?
リアルの翌日、さっそく返され始めたテストの結果にまあまあ満足しつつ、今日もまたログインです。
昨日は結局ハチェットホーンを撃退して以降は小屋のすぐ近くでコソコソと採取に励み、その収穫物をアイテムに仕上げるという行為で一日が終わってしまった。
いや、まあ、そういう準備も大事なのだけれどね。ほら、戦果の八割方は戦いを始めるまでに決まっているとか何とか言いますので。
それに新たな発見があったので、決して単調な作業という訳ではなかった。
まず採取ではオオナルア草というより効果の高い回復薬素材に、さらにはドクリ草にマヒシ草、ネムタ草といった単体では状態異常を与える素材を発見したのだ。
そして〔調薬〕技能によるアイテム作成では、高級傷薬だけでなく念願だった?まともな割合回復アイテムの液状薬の作製に成功していた。
まあ、ボクの技能熟練度が低いことに加えて作成器具も初心者用ということで、効果量のほどはお察しレベル――具体的な数字を出せ?……十パーセントです――だったのだけれど。
後、ドクリ草などの状態異常素材とポイポイ草と掛け合わせることで反対の効果の状態異常回復効果のあるアイテムを作成できたのだった。
「シジューゴ君は無事にやって来られるかしらねえ」
「その心配をするより先に、リュカリュカはあのゴミの山を何とかするべきですわ」
半眼のミルファが指さした先に鎮座ましましていたのは、一抱えほどもある謎の物体の数々だった。
「ひ、酷いよ、ミルファ。あんな得体のしれない物の処理を押し付けようとするだなんて!」
「そもそもあなたが作り出したものですわ!」
「聞きたくない。そんな正論は聞きたくなかったよ!ミルファの意地悪。この縦巻きロール!お嬢様!美少女!」
「……それ、悪口じゃなくて単に事実を述べているだけですよね。しかも最後は誉め言葉になっていますし」
ぎゃいぎゃいと言い合うボクたちのやり取りにネイトは呆れたような目を向けていた。が、しっかりと突っ込みを入れている時点で、もう逃れようもなく同じ穴の狢になっているのよね。
まあ、引きずり込んだのは間違いなくボクなのですが。
来客を驚かすのは本意ではないので、ゴミの塊は一旦ボクのアイテムボックスの中に放り込むことにしまして、と。
「外の様子はどう?何か変わったところはないかな?」
窓や扉の隙間から小屋の外を探っていたうちの子たちに声を掛けてみる。
「今のところは平穏そのものですわね」
「はい。ただ、こんな深い森の中で暮らしているような人たちですから、本気で気配を消されてしまうと、わたしたちでは察知することですら非常に困難だと思われます」
種族の適性や特性が発揮されているにしても、ローティーンのシジューゴ君ですらあの動きだったものね。本職の狩人やレンジャーたちをボクたちで何とかできるとは到底思えない。
「対立するような流れになることだけは避けたいところかな」
「前回彼が呼びかけに応じなかったからと言って、トレアに矢を射かけさせたのはリュカリュカでしたわよね」
そんな昔のことは忘れました。というのは冗談にしても、シジューゴ君以外の人がやってくるならば確実にボクたちよりも格上だろう。
だから、今度はどちらかと言えば奇襲をされたり不意討ちを受けたりすることへの用心が基本になるのではないかな。
「いずれにしても、シジューゴ君たちの協力がなければ森を抜けるのは難しいでしょう。大柄だったという点を考慮しても雑食のハチェットホーン相手にあそこまで苦戦しましたからね。肉食の魔物とはまともにやり合える気がしませんよ」
お陰で食料、お肉だけはたんまり確保できたのだけれどね。あれから逃げ回りながら森を走破できる自信はないです。
しかし、外部の協力がないと身動きすら取れないなんて、今のボクたちって割と本気で詰んでいるよね。昨日は「歩いていればそのうち出られるでしょう」なんて気楽に考えていたのに、まるで遠い昔の出来事のようだよ。
そんなどことなく緊迫感の漂う時間を過ごすこと数分。
事態は思わぬ形で進行していくことになる。
突然、森の中から数人の人影が現れたかと思うと、何の躊躇もなしにスタスタと小屋に向かって歩いてきたのだ。
「彼ら以外に人の気配は感じられませんね。多分、あの三名で全員かと」
現れたのは三人の男性。年の頃は二十代といったくらいか。
ただし、一人は尖った耳で少年と見間違いそうなくらい線の細い美男子、一人は筋骨たくましい赤ら顔の偉丈夫、そして最後の一人は頭上にピョコンと三角の耳を乗せたしなやかな体躯の青年と、なかなかに個性豊かな姿をしていたのだった。
「そうきたかあ……」
姿を見せたのはボクたちに余計な警戒心をもたせないため、ではなく、どんな抵抗をしたところで如何様にでも対処できるという自信の表れだろう。
まあ、これについては仕方がないところだ。何せこっそりと彼らを〔鑑定〕してみても何一つ情報を得られなかったのだから。
レベル差もさることながら、隠蔽する術を持っているのだろう。
「どうしますか?」
周囲を探る〔警戒〕の技能を解除したのか、一つ大きく息を吐いてからネイトが問うてくる。
「友好的だと知らせるためにも、外に出て出迎えようか」
間違いなく力量が上の彼らに対立するなんて百害あって一利なしだ。
急いで軽く身だしなみを整えてから、外へと向かう。当然うちの子たちも一緒です。
ただ、エッ君とチーミルあんどミルファのちびっ子三人はボクたちの背後に控えていてもらう。もしもの時のための保険というやつです。
仲間たちよりもさらに一歩前に出て、ぺこりと頭を下げてご挨拶。
「あれ?この場合、「いらっしゃいませ」と言うべきなのか、それとも「お邪魔しています」と言う方が適当なのかな?」
あっ!?と思った時にはもう遅く、ふと頭をよぎった疑問を口に出してしまっていた。
「俺はどちらでも構わないと思うが」
「いやいや、そこは後者一択だろう」
「ああ。頭の固い年寄り連中なら怒り出しかねないんじゃないか」
強者の余裕からか、ボクの失言にも気を悪くすることもなく雑談を始める男性三人。
その雰囲気から、少なくともすぐに敵対しそうな様子はなさそうだ。




