508 依頼を受ける前に
連続更新は今日までとなります。
次回からはいつも通り、月曜日~金曜日の週五回更新予定です。
改めまして、今年も本作をよろしくお願いします。
ポイントを入れてくれると作者が喜びます。 アリガトー、アリガトー。
「いいよ。……と言ってあげたいところだけれど、その内容を聞いてからでないと判断はできないかな。ボクたちは冒険者だから、身の丈に余る難しい依頼を受けるつもりはないから」
自分たちの力量に合わない依頼は身を亡ぼす。これはおじいちゃんたち先輩冒険者から何度も口酸っぱく言われたことだ。
ミルファやネイトというNPCたちを仲間に加えているボクとしても、全滅は絶対に避けたい事象であり、彼の要望に対して安直に首を縦に振ることはできなかった。
そんなボクからの答えにガクリと肩を落とすお猿少年。
……自分で振っておいてなんだけれど、ちょっと失礼じゃないですかね。だって、彼の態度はそのまま「こいつらでは無理」だと言っているようなものだ。つまりそれだけ低く見られているということになる。
そりゃあゲーム内時間ですら二カ月以上が経つというのに、レベルが二十にも届いていないヘッポコプレイヤーですともさ。
余談だけれど、『勇者様』のような特殊な初期設定でもなければ、NPCの協力によるパワーレベリングは不可となるため、よほど高効率に進めてもレベル二十の一次上位職になるまでに、ゲーム内時間で半月から一月は掛かるとされている。
だから、うん、まあ、ボクはかなりのんびりな部類には入ってしまうだろうね。
そ、それでも知恵と勇気と時には他人任せで、それなりに危険な場面ならば何度も潜り抜けてきたという自負があるのだ。初対面の子どもに侮られてはイラッときてしまう。
それはミルファやネイトも同じだったらしい。怒りの波動を感じたような気がして首を回してみれば、明らかにムッとしたお顔で少年のことを睨みつけていた。
項垂れて下を向いていたのは彼にとって幸いだったかもしれないね。目が合っていたらお姉さんたちからその態度について厳しく追及されることになっていたかもしれない。
そしてこのまま放置しておけば、近い未来に現実のこととなってしまう可能性が大であります。
「だからさ、まずは話してみてよ」
心の中で「貸し一つだよー」と呟きながら、お猿少年に話しかける。
ただで情報が手に入る?シツレイナー。そんな事、ちょびっとだけしか考えていないですよ?
「少なくとも、ボクたちのできる限りでは力になってあげるから」
その範囲が彼の望んでいる所にまで届いているかどうかは不明だが、少なくとも嘘は言っていないですよ。
まあ、子ども相手にそんな悪辣な屁理屈をこねるつもりは元よりないけれどさ。
実際、俯いていた顔が上がって、ようやく灯ったのだろう小さな希望の明かりに縋るしかないという表情をされれば、やれるだけのことはやってあげたいと思ってしまう。
「あ、その前に名前を教えて。いつまでもお猿少年とか君とかだと呼び辛いし」
シリアス寄りどころか暗くすらなりかけていた雰囲気を一変させるため、わざと明るい口調で言う。
しっかりと話を聞く必要はあっても、重苦しい空気のままではマイナス思考に陥りがちになりかねないからね。深刻な顔をして悩んでいるばかりではダメな場合だってあるのだ。
問題に直面してしまうと、当事者は視野狭窄になりがちで意外とこういう単純なことすら頭の中から消え去ってしまうものだ。
そのため解決策が見出せない、だから余計に暗くなるという負のスパイラルが発生することもある。
あの里っちゃんが会長を務めていた中学の生徒会の会議ですら、そういうことが度々起きていたほどだ。定期的に換気をしていかないとね。
余談だけど、ボクは生徒会役員ではなく半分部外者だったこともあり、淀んで硬直しそうな空気になる度に混ぜっ返していたものだ。
……あれ?改めて考えてみると、どうして部外者のボクが会議に参加させられていたのでせうかね?
「おいらの名前はシジューゴ。前にも言ったけど猿のセリアンスロープだからな!猿じゃないからな!」
リアルの過去へと意識を小旅行させている間に、自己紹介が始まっていた。
それにしてもシジューゴ君、ここまでしっかり念押ししてくるとは、よほど『お猿少年』呼びが嫌だったみたい。悪いことをしちゃったかな。
「それじゃあ、こっちの番だね。ボクはリュカリュカ。冒険者で<テイマー>だよ。そちらの二人は仲間のミルファとネイト」
ボクの紹介に合わせて二人も小さく頭を下げたり「よろしく」と小声で呟いたりして見せるも、未だ警戒する気持ちが強いのか、シジューゴ君はほとんど反応を示すことがなかった。
ところがその後、エッ君たちボクのテイムモンスターを紹介する段になるとその無反応が一変することになった。なんとその目を白黒させたりキラキラさせたり丸くさせたりと忙しなく表情を変えてみせたのだ。
「うぬぬ……。うちの子たちを歓迎してくれるのは嬉しいけれど、こんな美人のお姉さんを三人も前にして無反応だったというのは納得いかない……!」
「何を妙なことに対抗意識を持っているのですか。限定的ではありますが、彼が心を開いてくれたのだから、それで良しとするべきですよ」
「むう。その通りなんだけどさ」
「それよりも自分で「美人のお姉さん」と言い切ったことに戦慄を覚えますわ」
いやいや、ミルファさん。そこは客観的に見ても事実だからね。事実は事実としてしっかり認識しておきませんと、ナンパ程度ならまだしも、人さらいのような思わぬ事件に巻き込まれてしまうかもしれないので。
そう。ボクは鈍感系主人公ではないのです!
「自己紹介が終わったところで、お互いの事情について説明しようか。……と言っても、これまでに話したこと以外にボクたちの方からは特に語ることはないのよね」
ミルファがクンビーラの現領主にほど近い血筋だとか、ネイトが有名な『放浪の洗礼者』であるクシア高司祭の孫弟子に当たるだとか、重要なことはいくつか存在するけれど、それを知らせたところで今の状況で何かの役に立つものでもない。
むしろせっかくなくなりかけた壁が、再度生み出されることにもなりかねない。
よって冒険者であることや、この地にやって来たいきさつさえ伝えられていれば問題ないと判断したのだった。
「という訳で、依頼したい内容を聞かせてちょうだい。あ、シジューゴ君や仲間のことについては適当にぼかして話してくれればいいから」
「う、うん。分かった」
リアルのローティーンの子どもにとっては難しい注文でも、NPCである彼にならば問題ない。
所々でつっかえながらも続いていくシジューゴ君の話をボクたちは興味深く聞くことになった。
リュカリュカ「鈍感系主人公じゃないもん!」
作者 「えっ!?」
シジューゴ君の名前の由来が分かった人はいますかね?
案外どころではなく単純なので、バレバレな気もする。




