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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十五章 森の中、森の外
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504 対応策を練ろう

 最初にそれに気が付いたのは、入口で見張りを続けてくれていたリーヴだった。コツンと地面を剣先で叩くという、何かを感じた時に知らせる用のあらかじめ決めておいた動作を行ったのだ。

 それが見えた瞬間、ボクとネイトは直ちに〔警戒〕技能を使用して周囲を探り始める。


「入り口側の小屋の外に正体不明の存在が一つ、かな。でもなんだか変」

「距離はおよそ十メートルといったところでしょうか。しかし、これは……。どうやら地面の上という訳ではないようですね。リュカリュカの違和感の正体はこれでしょう。高さがありますから、恐らくは木に登っているのではないかと」


 ボクよりも技能熟練度が高いネイトが、より正確な位置を割り出す。

 うにゅにゅ。もっと精進せねば……!。


「木に登っている?魔物ですの?」

「いえ、一概にそうとも言えません。何せこの小屋の周辺にはこれまで魔物も動物も近寄ろうとはしなかったのですから」

「森に()む獣の類ではないとすると、もしかして?」

「リュカリュカが予想した、手間暇をかけてこの小屋を維持している者たちの可能性がありますね」


 おおう!?別に口から出まかせを言った訳ではないけれど、証拠も何もない本当にただの仮説だったから、当たりかもしれないとなると、ちょっぴり驚きますです。


「……動く様子もなければ、仲間が増える気配もありませんね」


 とはいえ、土地勘も何もない場所だ。ボクだけでなくネイトの〔警戒〕技能であっても絶対とは言い切れない。裏をかかれているかもしれないという用心だけは常にしておくべきだろう。


「こちらを監視しているのかな?あちらからすればボクたちは突然どこからともなく現れた正体不明の存在だものね」


 しかもいきなり自分たちの所有物を使用されていたとなれば、警戒心増し増しで監視を始めてもおかしくはない。


「どうしますか?」

「あちらが一体だけの今のうちに行動を起こすべきですわ」


 尋ねるネイトに、ミルファが鼻息荒く言い切る。

 確かにそれも一つの手、というか有効な対策ではあるのだよね。敵対するにしても友好的にするにしても、数で勝っていればそれだけ容易に対応しやすいためだ。

 一人が交渉している最中にも、残りの者が監視をしたり見張りをしたりできる、といった具合だね。


 まあ、これも絶対とは言えないのだけれど。

 特に『OAW』はゲームの世界ということで、質が量を覆すことが比較的簡単にできるようになっている。一番簡単なのがレベルを上げて能力値を底上げすることだ。

 例えば、リーヴと出会うきっかけとなった、怪しいおじさんに操られていたブレードラビットの大群だけれど、レベル十八の今のボクならば蹴散らすことができるだろう。ウサギ肉美味しいです。


 そうした懸念を伝えてみたところ、


「その心配はごもっともですが、隠れているようなのにわたしたちの感知に引っ掛かったくらいです。極端にあちらのレベルが高いということはないはずですよ」


 ネイトからやんわりと裏を読み過ぎではないかと言われてしまった。


「慎重と臆病は似て非なるものでしてよ」


 その通りではあるのだけれど、ミルファはもう少し自重しようね。

 ほら、今にも飛び出していきそうな調子だから、エッ君まで釣られて体をうずうずとさせ始めちゃったよ。


「あちらから敵対の意思のようなものは感じられる?」


 とにかく、どう動くにしても向こうの様子を見極めないと始まらないかな。

 元々敵対するつもりであればいくら、友好的な態度を取ったところで付け入る隙を与えるだけということになる。

 また、反対に好意的で受け入れてくれるつもりであったなら、攻撃を仕掛けてしまえば目も当てられない惨状となる。


「読心術の心得がある訳ではないのではっきりは分かりませんが、困惑している、というのが一番近いでしょうか」


 さらりと答えられてしまったが、〔警戒〕の技能だけで、しかも壁越しにそこまでのことが読み取れるというのは十分以上に凄いことだからね。

 密かに上位技能にランクアップしているのではないかと疑ってしまいたくなるほどですよ。


 まあ、味方が有能になっていくのはありがたいことだし、損になる訳でもないので一旦この件は横に置いておくとして。


「困惑ということは、この小屋の事情を知っているのかもしれない」

「知っているからこそ、居るはずのない人の気配がして驚いているということですわね?」

「うん。そこまで高望みするのはどうかとも思うけど、もしかすると小屋の維持管理をしていた人なのかも」


 こればっかりは聞いてみないと分からないことだから、今の段階であまり深く考えても意味はないだろう。先にも述べた通り、ボクたちの目的には直接関係のないことでもあるしね。


「今のところ相手の様子が一番分かっているのはネイトなんだけど、それを踏まえてどう対応するべきだと思う?友好的にかな?それとも敵対的に動く?」

「基本的には友好的で良いかと。土地勘も何もない場所ですから、今は少しでも情報を仕入れることができるように動くべきだと思います」


 ふむふむ。納得のいく内容だね。

 それじゃあ、ミルファはどう考えているのかな?


「ネイトに同意しますわ。ただ、わたくしたちが決して無能ではないことをアピールするためにも、あちらのいる場所や人数に当たりが付いていることは知らしめておくべきだと提案いたしますの」


 侮られることがないように保険をかけておけ、ということだね。

 相手は初見でどのような価値や判断の基準を持っているのかも不明だ。友好的な関係を結ぶにしても、あくまで対等な立場にするべき、できることなら上手を取っておきたいと考えたのだろう。


「さすがはミルファ。クンビーラ公主家の血筋は伊達じゃないね」

「……なぜですかしら、あまり褒められているような気がしませんわね」


 いやいや、ちゃんと褒めてますってば。

 先ほどの考えは個人同士のやり取りよりも、多対多や組織同士の交渉の時の方がより重要になってくるものだからね。生まれながらにして人の上に立つことが求められていた彼女だからこそ、すぐに思い付けたことだと言える。


「ええ。わたしも言われてみてその通りだと目から鱗が落ちる思いです」

「そ、それほどでもなくてよ」


 ネイトからの追撃もあり、ミルファはあからさまに赤くした顔でそっぽを向くのだった。


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