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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十四章 リアルの平凡かもしれない日常
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488 見たら固まる

 ふくれっ面になった里っちゃんの頬っぺたをプスプス突きながら宥めていると、クスクスと笑い声が聞こえてくる。


「あはは。三峰さんたちは相変わらず仲がいいんだねー」

「でも、できれば私たちの相手もして欲しいかな」


 と、にこやかな笑顔で話しかけてきたのは、里っちゃんとお喋りをしていた二人組だった。ボクとも顔見知りな同じ中学校出身の子たちです。


「ごめんごめん。改めておはよう……?こんにちは?」


 十時過ぎくらいって、どう挨拶すればいいのか迷う微妙な時間帯だと思うのよね。


「そこはどっちでも良いんじゃないかな」

「そうだね。それならフィーリングで、おはようということで」

「フィーリングなんだ……」


 いえす。つまりは割とノリと勢いだけで言っているので、深く考えないでくれるとありがたいです。まあ、そうしなくてはいけない理由というものもちゃんと存在するのだけれど、それについてはまた後で機会があれば説明するということで。


「せっかく来たんだし、三峰さんも私らのクラスの出し物を見ていかない?」


 話を聞いてみると、彼女たちのクラスは手作り石けんの販売と体験教室の二本立てであるらしい。

 よく見てみると、入り口脇には『手作り石けん販売中』のカラフルな看板が立てかけられていた。


「体験の方は、石けんの材料にこちらで準備しておいた香料のどれかを混ぜ合わせるっていう作業になるけどね」

「へえ……。十種類以上も香料があるんだね。石けんの材料もそうだけど、準備が大変だったでしょう?」


 ネットなどがあるから買うだけならばどうとでもなるが、「ある程度まとまった量を安く」という条件が付くと、途端に難易度が急上昇してしまうものなのだ。


「そこは化学部所属のクラスメイトが居てね。その人が手配してくれたのよ。教室じゃなくてここを使っているのもそのためね」


 なるほど。どうして化学室で?と疑問に思っていたけれど、そういう理由だったとは。

 その代わりに化学部と合同という形での出し物と相成ったのだとか。化学部は規定人数ギリギリの弱小部だったこともあって、部単独では出し物を出す力がなかったようで、どちらにとっても渡りに船の展開だったみたいだ。


「ちなみに、化学部の発表はあちらね」


 指さされた先の黒板には、『石けんの効果を小難しく解説してみた』というタイトルが銘打たれており、文章や数式、化学式などがびっしりと書き込まれていたのだった。


「という訳で、二人とも一体験いかが?」


 そんな勧誘の言葉に心惹かれるものを感じながらも、ぐるりと周りを見渡したところで平静さを取り戻す。


「残念だけど里っちゃんを回収して一旦教室に戻るよ。このままだと目立ち過ぎて本当に騒ぎになりそうだから」


 視線で周囲を見るように促すと、里っちゃんたちもようやく周りの異様な様子に気が付いたようだ。

 香り付きの石けんというどちらかと言えば女性向けの出し物であるにもかかわらず、ボクたちを遠目に取り巻くようにしていた人垣の大半が男子学生だったのだ。


「あちゃー……。三峰会長目当てでいつの間にかこんなに男どもが集まって来ていたとは……」


 今さらながらだけれど、未だに中学時代の印象が強いのか、里っちゃんのことを当時の役職である会長と呼ぶ子たちは男女問わず多かったりします。


「このまま遠目に見ているだけで終わる、なんてことはないわよねえ……」


 お祭りの陽気に当てられて、テンションが高くなっている人や気が大きくなっている人もいるだろうからね。

 最悪、里っちゃんへの告白大会やナンパ大会が始まってしまってもおかしくはない。

 まあ、そうなるよりも前に先生たちの介入があるはずだけど、そうなると今度は文化祭にいられなくなってしまう確率が高くなる。


「ごめんね、ゆっくりしていられなくて」

「三峰会長のせいじゃないから。残念だけど今は諦める」

「でも、校内を回る時にはぜひ寄ってよね」

「それはもちろん」


 名残惜しそうにする二人を残して、ボクは里っちゃんの手を引いて男子学生たちの包囲を強硬に突破すると、その後は校舎のすぐ外や生垣や植栽の影を縫うようにして、人目を避けながら移動していく。

 大勢を相手に鬼ごっこでもしているような気分だわ。

 無事に元の教室へと帰還することができた時には心底ホッとしましたですよ。


「ただいま。あー、疲れた」

「どうも、お邪魔します」


 里っちゃん共々、入口からは中を覗き込まないと見えない場所に置かれた椅子へと座り込む。

 ちょうど一段落したところだったのか、教室内にはクラスメイトたちの姿しか見えなかった。


「いらっしゃい、里香。優もお疲れ様。でも随分と時間がかかったわね」


 雪っちゃんから差し出されたお茶を受け取り、教室を飛び出してからのことを簡単に説明していく。

 化学室の石けん販売の出し物の宣伝もしておいた。里っちゃんを連れてきてしまったという負い目もあったが、それ以上に興味を持つ子が多そうだと思ったからです。ボク自身実は本気で気になっているしね。


「まさか、特別教室の前にいたとはね……」


 雪っちゃんを始め、クラスメイトたちが呆れたような、それでいて驚いた顔になるのも無理はないというものです。

 何せ化学室などの特別教室が並んでいる一画は、ボクたちの教室とは階どころか棟すらも違っているのだから。

 渡り廊下などで繋がっているとはいえ、それなりに離れた場所にあることに変わりはない。そんな場所での騒ぎが聞こえていたのだ。いくら予想はしていてもやっぱり驚いてしまうというものでしょう。


「多分、後十分くらい遅かったら、学生会か先生たちのどちらかが様子を見に来ていたと思う。まあ、それはついつい長話をしてしまった私にも原因があることだけど」

「いきなり割り込んで、話している相手を連れ去るなんて真似、普通はできないから仕方がないわよ。ギリギリではあっても、先生たちが介入してくるような騒ぎに至らなかっただけでも御の字だったと考えましょう」


 それもそうかと考えを改める。

 里っちゃんに会いたいと思っていたのはボクたちだけではないだろうし、逆に里っちゃんもボクたち以外にも会って話がしたい人たちは多いだろう。

 彼女を連れて校内を回る時には、その辺りのことも念頭に置きながら動くべきかもしれない。


 ところで、男子クラスメイト諸君。

 いくら里っちゃんが超の付く美少女だとしても、いい加減に硬直状態から立ち直るべきではないかね?


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