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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十三章 暗い地面の下で
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477 感情の暴走、想いの奔流

「は?」

「え?」


 顔を突き合わせたまま、ボクたちは間が抜けた声をだしていた。五分以上も歩いてようやく明るい場所に出たと思ったら、大勢の兵士たちに囲まれていたのだからそうした反応になっても仕方がなかったと思う。


「あ、怪しいやつ!?おとなしくしろ!」

「うわあ!みんな、逃げるよ!」


 慌ててきた道を引き返すことになるボクたち。

 お陰で二人を残してきた後悔だとかしんみりした気持ちだとか全部どこかへ行ってしまったよ!


「おじいちゃんの嘘つき!どこが離れた場所なのよ、出口のすぐ近くにいるじゃない。むしろ出口を塞ぐようにしてたよ!?」


 復活リポップしてきた魔物たちを蹴散らす……、ことなく追いかけてくる兵士たちに押し付けながら、曲がりくねった一本道をひた走る。

 後ろの方から「うわあ!?」とか「ひぎい!?」とか聞こえてきているようだけれど気にしてはいられません。


「そんなことを言っている場合ではありませんわよ!?」

「このままだとさっきの部屋に逆戻りになってしまいます!?」


 兵士二人はともかく、あのローブの人物は上級の攻撃魔法を扱える凄腕魔法使いだ。一等級冒険者のおじいちゃんたちが手強いと公言するくらいだから、戻ったところでボクたちでは手も足も出ない可能性が高い。


 残るへっぴり王子は論外、と言いたいところなのだけれど、こういう身分の高い人って護身用の強力なアイテムを持っている場合もあるからねえ……。

 使いこなせなかったり暴走させてしまったりという展開もある種定番だし、一応は要警戒枠に入れておくべきなのかもしれない。


 つまり、このままでは詰みになることが確定している訳で。

 走りながらも打開策になり得るものはないかと、あちらこちらを〔鑑定〕でチェックしていく。


 その結果によれば、奥の非常用通路とは異なりこちら側は元々何かを採掘するための坑道であったらしい。土を押し固めたようなものではなく、壁や天井そして床に至るまで頑丈な地盤を掘り進んだような形跡をしていた。

 どうやらこの坑道を掘り進めていく内に、あの作業用スペースとなっていた空間を掘り当てた、という流れだったみたいね。

 くねくねと曲がっているのは、方々へと広がった道を整理、要するに潰して一本の(みち)に仕立て上げたためのようだ。


「って、そんな歴史背景的なことばかり分かっても、今のボクたちがピンチなことに変わりないし!」


 塞ぎきれていない横道とか、せめてこの窮地から脱することができるような情報が欲しいのですが!?

 しかし、いつもいつも都合良く発見できるなどということもなく。


「まずいですわよ!本格的にあの部屋に戻ってしまいそうですの!」


 ミルファの言う通り、視界の隅に表示されている簡易マップにも作業用スペースが近づいていることが表示されていた。

 ふと、そのミニマップに敵を表す赤い光点が出現する。


「二人とも止まって!」


 両腕を広げて急ブレーキをかける。シックスセンスとか第六感的なものを刺激されて、ではなくローブの人物との初遭遇時と同じ悪寒混じりの重圧を感じたからだ。

 ……そして、この時のボクはそれが何を意味しているのか、全く理解できていなかった。


「きゃう!?」

「ひゃん!?」


 左手には厚手の布越しに柔らかくて幸せな感触が!いやはや、結構なものをお持ちのようで。へっへっへ。

 一方の右手には堅い皮鎧がぶつかってちょっぴり痛いです。大きさ的には左手側と同じかそれ以上のはずなのだけれどねえ。


「うーん、残念」

「何をおバカなことを言っていますの!突然止まったりしてどういうおつもり!?」


 ミルファが抗議してきた次の瞬間にボクたちの目の前、くの字を描く通路の内側の壁を抉るようにして赤い光が通り過ぎて行った。お互いにまだ目視できない位置にいるはずなのに、魔法による狙撃を行ったらしい。

 何が起きたのかを理解したのも束の間、悲鳴も驚愕の声も発する暇なく背後で爆発の轟音と衝撃が細い通路に響き渡る。

 爆風に煽られてたたらを踏みながらも、身体が前に出過ぎないように懸命に足を踏ん張る。


 たっぷり数十秒が経過した後、一体何事がと起きたのかと振り返ってみれば、そこにはぽっかりと口を開いた横穴が。


「あの穴に逃げ込もう!」


 冷静に考えてみればご都合主義的でタイミングが良過ぎる展開だと言える。

 が、前門には虎こと魔法使いがいて、そして後門には狼こと大勢の兵士たちが控えている。どちらと戦っても無事ではすまない以上、第三の道を選択するしかない。


 もっとも、そうやって問題を先送りしようとしたのがいけなかったのかもしれないね。

 新たに開かれた道は百メートルもいかない内に行き止まりとなっていた。しかも、十メートル四方ほどの空間の片隅には、赤い宝石のような鉱物が小山を作っていたのだ。


「おおう、なんてこったい。緋晶玉がこんなにたくさん残されているなんて……」


 うちの子たちを総動員してアイテムボックスにお片付けしようにも数が多過ぎる。

 恐らく容量的にも時間的にも足りないと思われます。


「ほう……。良い所に逃げ込んでくれたな。お陰で探す手間が省けた」


 暗闇の中から這い出して来たかのような寒気を覚える声に慌てて振り向くと、いつの間にか追いついてきたらしいローブの人物が立っていた。


 その姿を見た途端、ある重要な事柄が頭をよぎる。


「……おじいちゃんとおばあちゃん、あの二人はどうしたの!?」

「私がこの場に立っていることこそが、その答えになるのではないかな」


 最初にその言葉の意味を理解したのはネイトだった。どさりと腰が抜けたようにその場に尻もちをつくと、真っ青な顔で小刻みに震え始めたのだった。

 それを見て悟ってしまったのだろう、ミルファが膝から崩れ落ちるようにして跪く。その顔からは一切の表情というものが失われていた。


 ボクはと言えば、目に映る映像が様々な色に明滅しているように感じていた。

 だからそれはきっと感情の暴走、想いの奔流。

 正常な思考と対を成すような衝動的な行動だった。


「ああああああああああああああああ!!!!」

「狂ったか。……なっ!?やめ――」


 ボクから漏れだす不穏な空気を察したのか、ローブの人物が制止の言葉を口にしようとしたが、もう遅い。


うぃんどお、ぼおおる(【ウィンドボール】)!!」


 くるりと体を反転させて両腕を突き出す。両手の先に生み出された極小の嵐は、一拍の後に緋晶玉の小山に向かって突っ込んでいった。


 ドウン!


 重苦しい音が鳴り視界が真っ白に染まっていく。

 床に幾筋もの線が走っていくのがかすかに見えたところで、ボクの意識は途切れた。


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