47 初めての……?
結局ボクが選んだ依頼は、クンビーラの街のすぐ外、それこそ壁のすぐ側にでも自生しているコナルア草の採取をすることだった。
このコナルア草は、道具屋で買いこんだ傷薬や回復薬といったアイテムの原料になるものだ。そのため、たくさんの冒険者たちが訪れる『迷宮』を有する街などでは、安定供給できるように専用の薬草園で大量に育てられていることもあるそうだ。
「まあ、街から離れなければ安全か」
「それでもトゥースラットやブレードラビットは生息しているからね。周囲の警戒だけは怠らないように」
おじいちゃんたちのありがたいお言葉を背中に受けながら、受付のお姉さんから受領の判子を押してもらうのだった。
ちなみに、トゥースラットというのは短剣のような鋭い歯が特徴の体長が五十センチにもなるネズミの魔物で、ブレードラビットというのは耳の縁が刃物のように鋭くなったウサギの魔物だ。こちらは一回り大きく七十センチほどにもなる。
どちらもいわゆる雑魚敵に相当する、ゲーム内では屈指の弱さを誇る魔物だけど、実戦経験がない今のボクには強敵になってしまうかもしれない。十分に気を付けよう。
冒険者協会の建物を出て、中央広場から西門へと向かって進んで行く。西門から外に出てからは、壁の近くを反時計回りでコナルア草を探していく予定。
初見だけど〔鑑定〕技能があるので、少なくとも名前くらいは分かると思う。
もちろん頻繁に〔警戒〕を使って危険がないか探っていくつもり。可能なら〔気配遮断〕も併用していきたいけれど、これは状況次第というところかな。
「さて、それではコナルア草の採取に出発!」
ボクの掛け声にエッ君がぴょんとジャンプして応えてくれる。さあ、採取しまくりますよ!
……おっと、その前に『OAW』の採取のシステムについて説明しておくね。まず、採取できるポイントだけど、ランダムで発生または復活するようになっていて、〔採取〕や〔採掘〕といった技能を持っていれば、はっきり見えるようになるのだそうだ。
ボクの場合はご存知の通り所持していないので、「何となくこの辺がポイントのような気がそこはかとなくしないでもない!」くらいにしか分からないらしい。
そして重要なのがこの後。この設定はボクにのみ適用されているので、例えポイント内全てのアイテムを取り尽くしたとしてもNPCたちに迷惑が掛かることはないようになっている。
ただし、イベントの関係で最初の一人にしか取ることができない物もあるし、悪者ロールプレイでNPCにわざと迷惑を掛けることもできるようになっているので、絶対ではないけれど。
後、一部採取せずに残しておくと、復活までの時間が早くなるかもしれないという噂もあるそうだけど、これについてはしっかりと検証できた人がいないので、デマだったんじゃないかという見方が現在の主流となっている。
まあ、何が言いたいのかというと、採取ポイントらしき場所を発見したら、迷わず取り尽くせ!ということです。
そんなこんなで西門を出て五分、さっそく採取ポイントらしき場所を見つけたような気がしていた。
「うわー……。もっと、ここ!と分かるようなすっきりとした感じなのかと思ったら、すっごくもやもやした重たい気分になってきたよ……」
もう少し爽快な感知方法はなかったのだろうか。これについては運営のセンスを疑ってしまうわ。
「ともかく、どんな種類のものがあるのか調べないとね。エッ君、〔鑑定〕を使っている間の周囲の警戒はよろしくね」
「了解!」と尻尾で器用に敬礼のようなポーズをとるエッ君。可愛いんだけど、そんな仕草どこで覚えてくるの?そんな疑問を抱えつつ、ポイントに生えている草を〔鑑定〕で確認していく。
「コナルア草発見!、あ、これもそうだね。こっちは解毒薬になる……、ポイポイ草?何だこの名前?」
結局、このポイントにあったのは五本のコナルア草と、三本のポイポイ草、後は普通であれば使い道のない雑草が十本ほどだった。
だけど実はこの雑草、HP最大値の一パーセントを回復することのできる超低級ポーションを作ることができるのだ。
ちなみに小数点以下は切り上げとなるので、最低でも一はHPを回復することができる。まあ、上手く成分の抽出ができれば、という但し書きが付くんだけどね。〔調薬〕の練習に使うのであれば、ちょうど良い材料になりそうなので、全て採取しておくことにした。
「ふう……。初採取完了!」
しゃがみ込んでいたためか。強張ってしまった体をほぐすようにぐっと背伸びをする。
うん。草の上を渡ってくる風がいい匂いだ。
上手く採取ができたことに気分を良くしていたボクの元へ、近くでチョウチョっぽいのを追いかけたりして遊んでいたエッ君が慌てて戻って来たのはそんな時だった。
「どうしたの?って聞くまでもなかったね」
エッ君が走って来た方を見てみると、十メートルほど先で灰色の塊が三つほど動いているのが見えた。残念ながら〔鑑定〕を使うには距離が離れすぎていたけど、大きさ的にトゥースラットだと思われる。
初めての採取に続いて、ついに魔物との初エンカウントということになりそうだ。
え?ブラックドラゴン?あれはイベントだったからノーカウントで。
「三匹かあ……。遠距離からの魔法で一匹、襲ってきたところをボクとエッ君が一匹ずつやっつける、というのが理想かな」
もちろん、そう上手くはいかないだろうことは分かっている。
最悪、魔法は避けられ、一度に三匹に集られるという可能性だってあるだろう。
「とはいえ、やってみるしかないよね。あちらもボクたちがいることには気が付いているみたいだし」
身を低くしているところから、すでに臨戦態勢に入っていると考えた方が良さそうだ。
「エッ君、魔法で先制攻撃をするから、その後で近寄ってくるやつをお願い……。え?こっちから攻撃を仕掛けるの?」
先ほどイメージした展開を伝えると、プルプルと体を振って拒否するエッ君。魔法を受けることで混乱するとみたのか、こちらから攻撃を仕掛けるべきだと主張していた。
「初戦闘だし、それくらいの勢いがあった方がいいのかな?」
ちょっぴり不安でもあったけど、それは待ち構える場合でも同じだ。ここはエッ君の主張に従った方がいい気がする。
なにせクンビーラのNPC冒険者たちと訓練では対等に戦い合えているからね。戦いのセンスという点では、きっとボクでは足元にも及ばないと思う。




