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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十二章 山高く谷深い場所で
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462 幼い頃に誰もが一度は抱いただろう憧れ

 ひとしきりエッ君を構い倒してから、灰の積もった一角について話を戻しますです。


「台所じゃないなら、ここには何があったのかな?」


 お風呂とか?いやでも、確かドワーフの里などもクンビーラのお城と同様に湯浴み場にお湯を運んでくる形式で、リアルニポンの昔のように風呂釜を直接温めるというものではなかったはずだよね。


「他の場所より材の跡が残っていますから、それだけ頑丈に作られていたように思えますわ」

「頑丈。……さすがにドワーフだから鍛冶場っていうのは短絡的過ぎるかな?」

「この規模であれば、鍛冶場というよりは精々が何らかの作業のための火種というところですわね」


 ミルファによると鍛冶場の炉は金属を精錬しなくてはいけないため、魔法によって灰すら燃え尽きてしまう程に高温となっているのだとか。


「ですが……、作業場であれば頻繁に灰の除去を行っているでしょうし、屋敷などに据えられている暖炉だと仮定した方がしっくりくるような気がしますわ」


 暖炉!?


「暖炉って言うと煙突に繋がっているあの暖炉ですか!?」


 突然のボクの剣幕に圧倒されたのか、ミルファだけでなく足下にいたエッ君も一歩後退っていた。


「え?ま、まあ、基本的にはそういう構造になっているのではなくて」


 お、おおう!

 ということは、これがあわてんぼうで有名なあの方が落っこちて灰まみれになったという暖炉!

 いや、ここがあの童謡の元になった場所という訳じゃないことは理解しているけれどね。


 リアルニポンに住む人ならば、幼少期に一度は考えたことがあるのではないだろうか。「うちには煙突がないから某おじいさんは入って来られなくて、プレゼントを貰えないかもしれない」と。

 御多分に漏れずボクもその一人で、人が通れるほどの広い隙間のある煙突がある家に憧れめいたものを持っているのです。


「毎回のことながら、リュカリュカの反応するポイントは本当に読めませんわね……。まあ、これまでの旅の最中にも幾度も目にしてきましたから、暖炉や煙突がある家ばかりではないというのは理解していますけれど」


 なんだかんだ言ってもミルファはクンビーラ公主様の従姉妹に当たるやんごとない血筋だからね。婚約者のバルバロイさんも、臣下の中では最も高い公爵の嫡男で、彼らが治めている東の町はクンビーラ領内では二番目の大きさとなる。

 ついでに、騎士団に混じって剣の特訓をしていた時にも、村への遠征などには参加させて貰えていなかったそうだ。

 そのため彼女が目にしたことがある家というのは、基本的に石造りやレンガ造りのそこそこ大きなお家ということになり、そうしたお家には煙突や暖炉が標準装備されていた、という訳です。


「大きな煙突のある家っていうのは、ボクの地元ではちょっとした憧れだったんだよ。煙突掃除がどんなに大変で危険な重労働なのかを知ってからは、その気持ちも微妙に薄れたけど……」


 身体の小ささを利用されて、時代や場所によってはそれこそ孤児など貧乏な子どもが強制的に働かされていた、なんていうこともあったそうだから。

 うう……、思い出しただけで心が痛む。エッ君を撫でて癒されましょう、そうしましょう。


 おっと、暗い話はこのくらいにしまして。


「ちょっとここを掘ってみようか」

「また、いきなりですわね。〔鑑定〕で何か分かりでもしたのかしら?」

「ううん。今のところはまだ反応なしだよ」


 技能を用いてみても、ただの灰だとか元住居に使用されていた石材だとかしか表示されず、この場所が暖炉だったかもしれないことすら分からなかったからね。


 ただ、ゲームの世界で果たして何の意味もないものをわざわざ置いておくだろうか?という疑問が湧いてくる。

 推理もののゲームであれば、ミスリードを誘うためだとかその他にも色々な理由からあり得るとは思う。『OAW』は自由度が高いから、それに似通った設定で楽しんでいるプレイヤーも中にはいるだろう。


 だけど、ボクのプレイスタイル的には、謎解きや推理は世界観深めてゲームをより楽しむためのエッセンスでしかない。

 それはこれまでのプレイ傾向から運営も理解しているはずで、今さらガチに頭を捻らなくてはいけないような超難問をぶつけてくるとは考え難い。


 以上のことから、この場所は『次』に繋がる重要ポイントだと推測されます。


「ですが、掘ると言っても道具がありませんわよ?」

「ふっふっふー。こんなこともあろうかと!」


 そう言ってアイテムボックスから大振りのスコップを取り出す。


「どうしてこんなものを持っていますの!?」

「ふふん。できる女は色々な事態を想定して準備しておくものだよ」


 驚く彼女に自慢げに答えると、「すごいすごい!」と感心したのかエッ君が飛び跳ねている。

 う……、その無邪気で純粋な視線?が痛い……。


 種明かしをすると、ドワーフの里で準備を手伝ってくれたおじさんが「万が一ということもあるかもしれないから、一応持っておけ」と、ツルハシと一緒に持たせてくれたものだった。

 ドワーフなだけあってと言うべきか、坑道や洞窟の崩落に対する準備は万全に、ということみたいね。


 いずれにしても言ってみ(「こんなことも)たい台詞(あろうかと!」)が言えたので、ボク的には大満足ですな。その後のミルファたちもいい反応を見せてくれたし。

 ちょっとだけ心にダメージを負うことになったけれど……。


 ミルファと交代で元暖炉カッコ予想だった場所を掘り進めていく。一応の用心のためという意味合いが強かったので、スコップは一本しか持ってきていなかったのですよ。


 エッ君は残念ながら体格的にスコップを持つことができないので応援を担当してもらってます。

 でも、本人的にはそれだけでは退屈だったようで、時々ボクたちが掘りだした土山を移動させようと突撃をしていた。

 こらこら、想像もつかないような所にまで散らばってしまいそうだから、闘技で土山を吹き飛ばそうとするのは止めなさい。


 そうして二人でえっちらおっちら掘り進めること数分、ついに待望の変化が起きる。

 ガツン!という音と共に、スコップの先が固い物に突き当たった衝撃が腕に伝わってきたのだ。


「痛たたたた……」


 衝撃で痺れた両腕をプルプル振りながら、予想が当たったことに内心でホッと安堵の息を吐く。

 外れていたら今度はこの穴を埋めるという、虚無な作業をしなくちゃいけなくなるところだったからね。


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