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46 採取依頼を受けたい

「こんにちはー」


 元気よく挨拶をしながら冒険者協会の扉をくぐる。


「さよならー」


 そして、そこにいた二人の男性の姿が見えた瞬間、回れ右して外へと出ようとした。


「おいおい、顔を見て早々に逃げ出すっていうのはないんじゃないか?」

「せっかく来たんだから、ゆっくりしていくといいよ」


 しかし敵もさる者、一等級冒険者に支部長の肩書を持つだけあって、振り返って扉に手を伸ばす一瞬の内にボクの肩をしっかりと両側から掴んでいたのだった。


「うええ!?ちょっ!こんな所でボク相手に本気出すとか、アホですか二人とも!?」

「あっはっは。アホとは酷いなあ。これは一度しっかりと話し合いをすべきかもしれないねえ。という訳で私の部屋にお茶を頼むよ」

「は、はあ。分かりました……」


 お姉さん、分からないで!


「いーやー!はーなーしーてー!誰か、へーるーぷー!!」


 こうしてボクはディランデュランの二人に捕まって、支部長室へと連行されることになったのでした。

 誰も助けてくれなかったことはボクの心の中にあるブラックな手帳にしっかりと記載させていただきましたのであしからず。

 いつか絶対、仕返ししちゃるからね!


 ちなみに、エッ君は新しい遊びと勘違いしたらしく、喜々としてボクたちの後をついてきましたとさ……。


「それで、いたいけな十等級初心者冒険者のボクを支部長室なんて他の人の目がない場所に連れ込んだ理由は何ですか?」

「凄まじく人聞きの悪い言い方だね……」

「しかも、あながち間違ってはいないところが厄介だな」


 毒満載というか、むしろ毒そのものなボクの台詞に苦笑いを浮かべる二人。

 くうー……!余裕しゃくしゃくな様子がムカつく!


「用がないなら帰りますよ?今日は採取依頼を受けて、初めて街の外へ向かう予定なんですから。のんびりとはしていられないんです」

「ほう、街の外に出るつもりだったのか。それならちょうどいい。俺とパーティーを組んで――」

「拒否させて頂きます!」


 被せるようにして放たれたボクの否定の言葉に、おじいちゃんは今度こそ苦々しい表情になった。


「……せめて最後まで言わせてくれよ」

「嫌ですよ。最後まで聞いちゃったら断れなくなりそうだもん」


 ボクの勘が厄介ごとの匂いを感じ取って、最大出力で警報を鳴らしていた。

 里っちゃんも「勘には従うべきだよ」と言っていた。もっともその後には、「もし間違っていても、自分で選択したことなら諦めがつくからね。あはは」という言葉が続くのだけど。


「ボクはゆっくりとでも真っ当に経験を積んでいきたいんです!」


 そのために準備に二週間もかけたのだから。

 それに、『帰還の首飾り』の効果にも不安が残っている。こればっかりはどんなに誰から丁寧な説明をされようとも、完全に安心する事はできないだろうと思う。

 だからできるだけ死に戻りをしてしまいそうな危険なことには頭を突っ込みたくはないのです!


「レベル一でブラックドラゴンをやり込めた時点で、真っ当からはほど遠いと思うんだが?それにゾイの爺さまから過剰積み込み(オーバーロード)した魔法のやり方も習っているんだろう。思いっきり一足飛ばしじゃないか」


 うぐっ!だ、だからおじいちゃんが言ったブラックドラゴンとのそれがあるからこそ、着実に順序よく依頼をこなしていきたいんだってば!

 そしてゾイさん……。やっぱりあの技は魔法の奥義的なものだったようだ。

 道理でプレイ報告に書いたら運営から「公開できない項目に抵触しましたので、若干変更しました」という連絡が送られてきたはずだよ。


「私としては、今は冒険者協会の運営側だから、着実な成長を見据えているリュカリュカ君の考えは支持したいものであるのだけどね」

「でも、「けれど」なんですよね?」

「残念ながら能力がある者を自由にさせていられるほど、余裕がある訳じゃないんだよ」


 レベル一を捕まえて能力が高いとか何の冗談かと。


「デュランが言う能力は目に見えるステータスのことじゃねえ。強敵を前にしても臆することのない胆力や、苦境に陥っても諦めない意志。そして常に勝利を掴むために働かせ続けることのできる思考。そういう部分のことだ」


 そんなものはございません。……と言いたいところだけれど、幼い頃から里っちゃんの真似をして、そして中学の時には彼女のお手伝いをしていたこともあってか、当てはまる部分は確かに存在していた。


「まあ、諦めが悪いところがあるとは自覚しています」

「おや?あっさりと認めるんだね」

「それを否定するというのは、これまでのボクの努力や人生を否定するということと同じだから。それだけは絶対にできません」


 ボク自身のためにも、そして一緒に苦労してきた里っちゃんのためにも、ね。


「でも、それはそれ、これはこれです。依頼は受けませんからね」

「なかなか手強いね。……ディランならこれまでの会話で三回は首を縦に振っていただろうに」

「そこで俺を引き合いに出すんじぇねえよ!……チッ!これだから腹黒は信用ならねえんだ」


 デュランさんの軽口に、おじいちゃんが不貞腐れてしまう。

 その様子から今の会話の内容が真実であることが覗えた。まあ、何というか口八丁で上手く使われていたんだろうね……。

 だけど、デュランさんも他人にばかり苦労させることを良しとはできなさそうだから、きっと押し付けた以上の面倒事をこなしていたのだろう。

 それが分かっているから、おじいちゃんも文句を言いきれないでいるのだと思う。


「仕方がない。無理強いして怪我でもされたらことだから、今回は諦めるとするよ」

「いいのか?」

「この間の一件で、公主様方から苦言を頂いてしまっているからね。以後気を付けますと言った舌の根が乾かない内に、強制依頼でリュカリュカ君に怪我でもさせたとあっては、私の首だけで事態を収拾することができなくなってしまうよ」


 大袈裟だと思われるかもしれないけど、ボクが怪我をするイコール、エッ君も怪我をする可能性が高い、ということだからね。

 そうなると帰省先から戻って来たブラックドラゴンが黙っていないかもしれないのだから、この都市を治める者としてはそのくらい強く釘を刺すのも当然なのかも。


「その代わり、情報だけは伝えさせてもらうよ。街の北東にあるマッシュの森で、ここ数日の間に不審な人影が複数回目撃されている。できれば近付かないようにしてもらいたい」

「了解しました。でも、元々そんなに遠くまで行く予定はありませんでしたけどね」


 食用キノコの一種であるマッシュが年中取れることからマッシュの森と呼ばれているそこは、薬草類の宝庫でもあった。

 しかし、クンビーラの街からは少々離れていることもあって、歩きだと必ず一泊する必要が出てくるので、今日のボクの選択肢からは最初から除外されていたのでした。


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