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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十二章 山高く谷深い場所で
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455 油断と反撃

 何としても目の前の一体を先に倒して、苦戦気味となっているミルファたちの救援に駆け付ける。

 そう決意したところまでは良かったのだけれど、そんなボクたちの態度が(しゃく)に障ったのか、それとも矮小だと思っていた相手に良いようにやられたことに腹を立てたのか、はたまた単にHPが規定値を下回ったことで新たな行動が追加されただけなのか。

 恐らくはどれもが全て影響した結果、マーダーグリズリーはボクたちが近づくことができないように二本の後足で立つと、四本の前足をやたらめったらに振り回すという行動に出ていた。


「まるで癇癪を起した駄々っ子だね……。でも、近づけないなら魔法で――」


 攻撃すればいいと考えた瞬間、ボクの目の前に熊の巨体が迫っていた。


「きゃうっ!?」


 とっさに牙龍槌杖を持ち上げることができたのは、間違いなくこれまでの訓練や実戦の賜物だと言えるだろうね。

 とはいえ、鋭い爪付きの強靭な前足一対の二回攻撃をどちらもそれで受けることができたのは、多分に運が絡んでいたことは間違いない。同じことをもう一度やれと言われても、できる自信はないもの。


 しかし攻撃自体は受けられても、その衝撃まではなくせるものではなかった。剛腕の一撃――二撃?――に突進の勢いも加わっていたそれによって、なすすべもなく後方へと弾き飛ばされることになったのだった。


「あぐっ!く、う……」


 背中から叩きつけられて、そのまま地面をゴロゴロと転がる。

 ようやく止まったところで何とか体を起こすと、リーヴがマーダーグリズリーからの猛攻に耐えている様子が目に飛び込んでくる。

 あ、あれはもしかして伝説の大技、熊くまラッシュなのでは!?


 四本という普通の倍の数の前足による連続攻撃にさらされているその姿は、荒れ狂う嵐の大海原に翻弄されている小舟のようだ。

 あ、別にリーヴが小さいとかそういう意味じゃないから、気にしちゃダメだよ。


 少しでも気を逸らそうとしてのことだろう、時折トレアから放たれる矢が命中していたが、怒り状態の熊さんは意にも介していない。

 決して少なくないダメージなのだけれど、それを無視してでもリーヴを倒すことに心血を注いでいるようだ。

 盾役の彼の存在はボクたちの要でもあるから、その判断は決して間違ったものではないね。

 が、まるでボクたちの存在など眼中にないという態度はいただけないかな。


「ふにゅにゅ……!」


 弾き飛ばされた衝撃で落としてしまった牙龍槌杖の代わりに、もう一本の相棒である龍爪剣斧を取り出し、それを支えにして立ち上がる。

 HPを見ればごっそりと半分近くを持っていかれたようだ。でも、うちの子たちがあれだけ頑張っているのだ。このくらいのダメージで音を上げている場合じゃないのだよ、ボクの足!

 震える膝をピシャリと叩いて気合いを入れ直して前を向く。


 【ハイブロック】を発動させているというのに、リーヴのHPは徐々に削られており、現在七割を割り込むほどまで減少していた。

 このままだと危険だ。早急にあの動きを止めないと。


「ちまちまと攻撃してもダメ!トレア、【弩弓】で頭を狙って!」


 あわよくばヘッドショットで即死という展開を期待しつつも、そこまで簡単には終わらせてくれないだろうと予想する。

 それでも立ち上がっているという体勢上、頭部という分かり易い弱点が晒されているのだから、狙わない手はないというものでしょう。

 もちろんトレアに任せきりにするつもりはなく、ボクはボクで魔法を使って頭への攻撃を行うつもりだ。


 選択肢は二つ。風属性かそれとも水属性を用いるか。発射速度や視認性が悪く不意打ちに向いているのは前者だけれど、ここはあえて水属性でいこうか。

 マーダーグリズリーは目の前のリーヴを倒すことに躍起になっており、視界の外からの攻撃であればそれだけで十分不意を突けると判断したためです。

 さらに水なら命中すれば一時的に呼吸の邪魔をするといった、数値外の効果も期待ができそうだからね。


 すぐさま側面へと移動して魔法の準備に入る。使用するのは威力も高く一点に狙いを定めやすい【アクアドリル】だ。


 相も変わらずひたすら四本の前足で熊くまラッシュによる攻撃を繰り返すマーダーグリズリー。その正面で泣き言の一つも言わずに耐え続けているリーヴを見ると涙が出そうになってしまう。

 だから、絶対にこれで流れを変えてみせる!


「ゴア!?」


 ぶれるようにその頭部が揺れたかと思うと、額に矢が突き立っていた。トレアが【弩弓】で言葉通り一矢を報いたのだ。

 これまでのダメージから一旦放置しておくことを選んでいたのだろうけれど、それがいかに失策だったのかを痛感する羽目になっただろう。

 ただ……、熊さんの頭に矢が刺さっているというのは、動物虐待のようで非常によろしくない絵面となってしまうことが難点だわね。


「しかし、当然のように続くのです。どかーんといっちゃえ!【アクアドリル】!」


 痛みと衝撃から立ち直るよりも先に畳みかけるよ!ほとんど棒立ちとなっていたので目標の頭部に命中させるのはビックリするくらいに簡単だった。

 しかし、今回はここからが本番だ。


「そのまま、捻じ込んじゃえ!」


 思い描いていたイメージを更に強化するために叫ぶと、それに合わせるかのように人間でいうところのこめかみ辺りに突き刺さっていた円錐形の水に螺旋(らせん)が描かれ始める。


「グギャゴオオオオオオオ!!!?」


 うん、いきなり頭にドリルが捻じ込まれたらそれは痛いよね。

 というか、絵面がえぐくて酷いわ。止めたら反撃でそれこそボクたちが壊滅してしまいそうなので、止めるつもりはないけど。


 ここが勝負どころと見極めたのか、リーヴも攻撃に転じていた。でも、【ディフェンスブレイク】で防御力を低下させてからの【クロススラッシュ】は、やり過ぎだと思うなあ……。

 一方のトレアは【弩弓】による強攻撃を最高頻度で淡々と繰り返している。その全てが両目に口内、喉といった急所へと吸い込まれるように命中している。

 ホーミング機能でも付いているんじゃないかと疑いたくなるような正確さでしたよ。


 そして、ようやく込めた魔力がなくなり【アクアドリル】が消えた頃には、マーダーグリズリーは満身創痍の状態となっていた。


「これでお終い。お眠り」

「ギュオオウウ……」


 首を落とすように最後の一撃を加えると、悲痛な鳴き声を残して強敵マーダーグリズリーは息絶えたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ミルファ「倒せたの!? だったら早く、こちらを手伝いなさい!! 一息ついてる場合じゃありませんわーっ!」 こうですか? それともほぼ同タイミングでトウバツ完了?
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