441 説明しますです!
掃討戦は基本的にはボクたちの側の一方的な攻勢で終始することになった。
ん?どうして「基本的には」なのかって?
実は魔物たちの群れの中核となっていたオーガ並びにケンタウロスの中に、極々少数ながらリーダー格の存在が残っており、そいつとその周辺の数体だけやたらと強いという事態になってしまっていたためだ。
イベントの補正が働いたのか、それとも種族としての大元の性能の違いなのか、まだ完全に『リーダー』へと変貌していた訳でもないのに、『風卿エリア』で戦ったダークゴブリンリーダーたちよりもよほど強かった。
これからも遭遇する可能性があることを考えると、前者であって欲しいと願わずにはいられないリュカリュカちゃんなのでした。
余談だけど、その他の魔物たちは見ず知らずのドラゴンさんの咆哮がダメ押しとなり錯乱状態に陥っていたため、まともな反撃もできずにサクサクと狩られていったそうです。
そんな微妙に苦労のあった戦いだけれど、ボクたちとしても実になる部分はあった。
経験値や戦闘系技能の熟練度の加算はもちろんのこと、敵味方が入り乱れた本格的な乱戦状態にあって、うちの子たちを含めたパーティー全体としての連携や動きを確認できたのは良い経験になったと思う。
戦いに勝利できた上に得るものも大きかったとなれば、気持ちも朗らかになるというものです。
意気揚々とドワーフの街へと帰還したボクたちは、残っていた住民たちの歓声を受けながら凱旋……、とはならず、なぜか街の広場でボク一人が十重二十重に囲まれるという状態に陥っていた。
「え?何この罪人とまではいかないけど、明らかに何かを問い詰めようとしているこの流れ?」
「おう、ちゃんと理解できているようで何よりだ。さて、リュカリュカの嬢ちゃんよ。あのドラゴンはお前さんの仕込みだったんだろう?伝手を頼ってくると言って出て行った先で一体何をやらかしたのか、きびきびと吐いてもらうぜ」
ベルドグさんのそのお顔でその台詞はちょっとどころじゃない犯罪臭がして危険じゃないかなー、などと茶化す間もなく集まっていた人たちがコクコクと首を縦に振る。
いつの間にやらミルファとネイトの二人もそちら側へと回っていることに「うらぎりものー……」と内心で思いつつ、そう言えば時間がなかったので誰にも詳しいことを説明していなかったな、と思い出す。
……それは事情の一つも説明しろと言いたくもなるわよね。
「えーと、『風卿』の北部にあるクンビーラという街はご存知ですか?」
「自由交易都市だな。『風卿』の中だけでなく、大陸全土から物が集まると言われている街だろう」
うにゅ?何やらボクが知っているあの街よりも五割増し程パワーアップしているような……?
情報が古く『三国戦争』以前がそうであったのか、またはボクがスタート地点として選択したことで補正が入ってしまったのか。考えられる理由はいくつかあるけれど、今はその点についてはあまり関係なので一旦置いておきます。
「旅に出る前のボクたちはそこを拠点にしていたんですけど、実はクンビーラは今では自由交易都市である以上に、黒龍に守護されている街として有名になっているんですよ」
ボクの解説に集まった人たちの顔へ一様に驚きの色が浮かぶ。
ジオグランドの中央側ならともかく、そこから人や物の動きを制限されてしまっているドワーフの里にまでは伝わっていなかったようだね。
行商人トリオも足を延ばしたとしても迷宮都市のシャンディラまでだっただろうし、例え耳に入っていたとしても真贋不確かな噂話という扱いになっていた可能性は高い。
「こ、黒龍だと!?……まさかあのドラゴンは!?」
「え?いやだなあ、都市を守護しているドラゴンがそう簡単に出歩けるはずがないじゃないですかー」
「はあ?それじゃあ、さっきのは何のための説明――」
「あれはきっと偶然でたまたま通りかかっただけの見ず知らずのドラゴンさんなんですよ」
ベルドグさんの台詞を食い気味に遮って、本日二度目となるニッコリ笑ってからのウインクが炸裂です。少しだけ小首を傾げて悪戯っぽさを演出するのが密かなポイントだったりして。
リアルだと狙い過ぎでわざとらし過ぎる仕草も、超絶美少女なリュカリュカちゃんなら様になるのです。
案の定というべきか正面に近いボクの顔が見えていた人たちは男女問わず皆、顔を赤くしておりましたですよ。
おっと、ボクの魅了技についてはともかくとしまして、長年この街の冒険者協会の長を務めてきたベルドグさんや、長老格の人たちには言わんとしたことが無事に伝わったもよう。
「つまり何だ、リュカリュカの嬢ちゃんがクンビーラに行ったのは間違いないが、そこに居るドラゴンと結果的に俺たちを助けてくれることになったドラゴンは、全く関係ない別物ってことなんだな?」
「その通りです。」
嘘だあ!と言わんばかりの視線がいくつも飛んできたけれど、意図的に無視しますですよ。
「さっき怖がることなくドラゴンに話しかけることができたのは、あの街でブラックドラゴンと会話しているところを何度も目撃していたからでしょうね」
「ど、ドラゴンと会話……」
そんなに驚くことでもないと思うけどね。最近ではボクたち以外に騎士団や衛兵隊の人たちだけでなく、一般市民の皆様も普通に挨拶をしていたくらいだ。
「結構子ども好きだし、孤児院の名誉院長に就任してもらおうか、なんて話もあったはずですよ。その後どうなったのかまでは知らないけれど」
攫われたエッ君を単身で追いかけてくるほどだから、子ども好きの気があるのは分かっていたけれど、まさか異種族の子どもにまでそれが適用されるとは思わなかったよ。
まあ、彼が受け入れられているようで何より、なのかな?
「しかし、それでは何故リュカリュカの嬢ちゃんはその街に行ってきたんだ?」
「あれ?ベルドグさん、知りませんでした?あの街の冒険者協会の支部長はデュランさんですよ」
「は?……はあああああ!?」
「あらま。本当に知らなかったんだ。デュランさんがいるから誰か助太刀に来ることができる人がいるかもしれない、と考えて思い切って行ってみたんですよ。まあ、結果としては外れでしたけどね」
残念ながらゾイさんもサイティーさんも土卿王国には足を延ばしたことがなく、他にも即戦力になれるような人の中には、ドワーフの里へと転移できる人はいなかったのだった。




