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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四章 城壁の中の平穏な毎日
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44 『休肝日』での噂話(雑談回)

 『異次元都市メイション』はプレイヤーの交流の場ではあるが、だからといってNPCがいない訳ではない。

 屋台はともかく、しっかりとした店を構えている場合、店員としてサポートNPCを雇い入れていることが多いのである。


 多彩な種類の料理や酒をウリにしている酒場、『休肝日』もそうした例にもれず、何人ものNPCを店員としていた。

 いや、厨房スタッフの半数までもがNPCであることを考えると、他のプレイヤーの店よりもNPC率は高いくらいである。


 これには当然訳がある。


 オーナーのフローレンス・T・オトロは『OAW』における様々な情報を売る、通称『情報屋』という裏の顔を持っている。

 そしてその主な情報源となっているのが、自身の店である『休肝日』なのであった。

 ゲームの世界であっても、酒は財布の紐と口元を緩める絶好のアイテムであることに変わりはないらしい。


 しかし反対に言えば、情報の確度と鮮度を保つためには店を開けていなければならない、ということになる。

 だがプレイヤーの場合、リアルの都合でログインできないことがあったり、それぞれの世界で冒険へと旅立ったりと、常に店に出て来られる訳ではない。

 そうした不都合を回避するためにも、フローレンスは他よりも多くのNPCを雇うことにしたのであった。


 さて、『異次元都市メイション』は本編の世界とは異なり、リアルの時間と同期させている。

 昼も食事処としてたくさんのプレイヤーを受け入れている『休肝日』ではあるが、やはり酒場としての本領を発揮できる夜の時間帯の方が、大勢のプレイヤーがやって来ることになる。

 単純にログインしているプレイヤーが多くなる時間帯でもある、というのも大きな理由ではあるのだが。



「いらっしゃいませー!何名様でしょうか?」


「今は三人なんだけど、後から二人合流してくる予定だから五人になる」


「はい。テーブル席、お座敷席共に空いていますが、どちらになさいますか?」


「あ、私お座敷が良い」


「ん。じゃあ座敷席で」


「かしこまりました。こちらにどうぞ」



 そして今日も客たちの話声の合間に、フローレンスが扮する給仕のフローラの声が『休肝日』の中に響き渡っていたのだった。



「ぷはあー!こうやってキンキンに冷えたビールをいつでも飲めるのはVR様々だな!」


「別にVRじゃなくてもできるだろ」


「いやいや。リアルじゃ北国に住んでいるから無理!店の中はともかく、一歩外に出た瞬間に体が冷え切るどころか凍りそうになるんだからな!」


「へえ、そんなもんなのか」


「そういうお前は南の方の出身なのか?」


「自称南国暮らしだ。とはいっても冬はやっぱり寒いんだけどな。特に俺の家があるのは山の方だから、結構雪が降るんだよなあ」


「うへえ……。聞いてるだけで寒くなってきた気がするぜ。あ、フローラちゃん、何かあったかい酒でオススメってある?」


「ホットワインとかどうですか?このまえ試してみたら予想以上に美味しかったですよ」


「じゃあそれで」


「分かりました。これを運んだらすぐにお持ちしますね」


「頼むよー」



 そして別のテーブルへと持っていた料理を運ぶ。



「お待たせしました。『シェフは気まぐれ、肉肉しいセット』になりまーす」


「お、待ってました!ってマンガ肉!?」


「うっはー……。まさかマンガ肉を実際に食べられる日が来るとは思わなかったわ……」


「VRのゲームの世界で、だけどね」


「そういう突っ込みは野暮ってものよ。こういう時は素直に驚いておけばいいの」


「まあまあ、二人とも。せっかくの祝いの席なんだから仲良くいこうぜ」


「はいはい。分かりました」


「それじゃ、改めて……。全員の中間テスト赤点補習完了を記念して、カンパーイ!」


「かんぱーい!」


「はあ……。お前たち、頼むから期末ではせめて赤点回避できるくらいには頑張ってくれよ」


「はっはっは!善処はするとだけ言っておく!」


「威張るなよ!くっそー……、なんで担任を持たされた初年度からこんな問題児どもが集まってくるんだよ」


「それはセンセ、類友ってやつでしょ」


「そうそう。同じゲーム仲間としてこれからもよろしくねー」


「よろしくしたくねえよ!」


「あはははははは!」


「おっと!?後ろ失礼しまーす」


「あ、ごめんなさい」


「大丈夫ですよー。でもお客さんたち、リアルの身バレの危険はどこにでもありますから会話の内容には気を付けた方がいいですよ」


「あっ!すみません。ご忠告ありがとうございます」


「いえいえ。仲間内で気楽に話したいのであれば、防音の付いた個室もありますからお気軽に相談くださいね」


「うわ、商売上手だ」


「ふっふっふ。伊達に看板娘はやっていませんよ。それでは失礼しますね。……お待たせしました!『シェフが気まぐれ、魚魚(ギョギョ)っとセット』になります」



 そして彼女は別のテーブルへ料理を運ぶ。ちなみに、個室に関しては本当に完全防音であり、持ち主のフローレンスであっても盗み聞きをすることはできなくなっている。



「お、フローラちゃんサンキュー。後、悪いんだけどこの辺の空いた皿下げてもらえるかな」


「はいはい。この辺のですね。あら、ごめんなさい。飲み物も空になっているようですね。何をお持ちしましょうか?」


「じゃあ、エールを」


「あ、俺も同じので。他にいるやつは?……二人?全部でエールを四つお願い」


「エール四つですね。すぐにお持ちします」


「そういえば、あのテイマーちゃんのプレイ報告って最近どうなっているんだ?ここのところ変わり映えがしないから見てないんだよ」


「表面上は至って平穏そのものって感じかな。クンビーラから一歩も外に出てないし」


「それが一番すごいことかも。街中の依頼だけで毎日遊べるっていうのはある意味才能だと思うわ」


「生産系のプレイヤーなら街からほとんどでなくても、おかしくないんじゃないか?」


「いやいや。あの子の場合お使いのクエストとか、探し物や迷子のクエストとかをやっているだけだから」


「しかも喜々としてやっているよね。手間ばかりで報酬も大したことないのに」


「後は冒険者協会での訓練か。この辺は基本的なことばかりだから、今さら報告されてもっていう内容ばかりなんだよなあ……」


「完全初心者へのガイドとしてなら使えるかもしれないよ」


「何にしてもこのままだと見る人間がいなくなって、打ち切りになってしまいそうだな」



 客の一人が発した「表面上」という言葉に引っ掛かりを覚えながら、打ち切りになるのは寂しいかもと思うフローレンスなのだった。


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