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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十一章 ドワーフの里で
437/933

437 思想の違い

 ドワーフの里を拠点にして冒険者としての依頼を熟しながらも、その合間をみてはボクたちの旅の目的である浮遊島の情報がないか聞き込みを行っていた。

 そして直接ではないものの、浮遊島に関連するあるもの(・・・・)がジオグランド中央とドワーフの里の諍いの原因になったことを突き止めたのだった。


 その確信に至った時の会話がこちらとなります。


「首都の貴族のやつらときたら、『空を征く船』を再現するから、技術者は一人残らずその仕事に従事しろと無茶苦茶なことを言ってきおったのじゃ」

「空を征く船!?」


 うん?いくらなんでも要点部分だけをピックアップし過ぎていて、意味が分からない?

 おっと失礼。それでは順を追って説明するね。


「こんにちはー。冒険者協会の依頼で来ましたー!」


 掃除など主に雑用系の依頼を受けて向かった先の建物に居たのは、先日も挨拶した長老格の一人だった。ちなみに、依頼が多過ぎて片付かないのでこの日はそれぞれ別行動中です。


「おお!グロウアームズの嬢ちゃんか。よう来たのう」

「その武器が本体みたいな呼び方は止めてもらえせんかね!?」


 知能ある武器インテリジェンス・ウェポンに進化するフラグになりそうだから、本気で止めてもらいたいです。


 え?そんな顔合わせの部分や余計な感想は要らない?

 ……もう、我が儘だなあ。と言っても、この後掃除をしながら長老さんに、「どうして国の中央から目の敵にされているんですか?」と尋ねてみたところ、先の答えが返ってきたという流れとなる。

 ちょっとした雑談のつもりだったところに、イベント的にも情勢的にも割と重要な情報を投下されてしまい、密かに焦ってしまったのはここだけの話。


 話を『空を征く船』のことに戻しまして。


「空を征く船っちゅうのは、水の上ではなくわしらの頭の上の空を走る船でな。大陸統一国家時代には実用化されておった、今では遺失してしまったとされる技術の一つじゃ」


 長老さんの言葉に、ほうほうと頷くボク。都市一つを丸々島にして浮かべるなんてことができていた時代だ。空飛ぶ船が実用化されていたとしても何ら不思議ではない。

 ただ、空を飛ぶ技術が失われているのに、それよりもよっぽど難しそうな瞬間移動が、限定的ではあっても『転移門』として残っていることに違和感を覚えてしまうけれど。


 まあ、これに関しては「ゲームだ」という部分が影響しているのだろうね。毎度毎度移動に時間と手間がかかってしまうようだと、ゲームとしてはだらけてしまいそうだもの。

 ひたすらリアリティを追及するようなプレイヤーからは反論されそうだけれど、そこは個々人の楽しみ方次第ということで。


「失われていた技術を復活させるとなると、国家の一大プロジェクトですよね?高圧的に無茶な要求をしてきたあちらの態度は問題かもしれないですけど、その分見返りも大きかったんじゃないですか?」

「そこはほれ、わしらとやつらではそもそもの考え方というか価値観が違っておったのじゃよ。確かに失われていた技術を復活させるということは、わしらにとっても利があることじゃし、興味をそそられることではある。しかし、だ。失われたということはそれなりの理由があるはずなのじゃ。中央の連中はそこに目を向けようとはしておらんのじゃよ」


 えー、少し分かり難いだろうから補足説明をば。

 実はジオグランド国内には空を征く船の伝承が各地に残されており、人々にとっては――お伽噺の題材的な感じで――馴染みの深いものになっていた。

 さらには定期的とまでは言わないにしてもそれなりの頻度でその設計図だという触れ込みの代物が登場し、その度に大小の差はあれど騒動へと発展してきたという歴史があった。


 こうしたことが繰り返されていく中でドワーフの里の住民を中心としたドワーフたちは、「真贋が定かではない情報に振り回されるくらいであれば、少しでも早く追いつけるように技を磨くことを第一にするべきだ」という考えに辿り着くことになる。


「彼の時代が優れておったことは認めるが、どう言い繕おうとも滅びてしまっていることもまた事実なのじゃよ。何がその原因となったのか不明である以上、うかつに手を出すべきではないというのがわしらの立場じゃ」


 しかし国の中央はというと、従来の方針と行動を変えることはなかった。

 分かり易く極端に言ってしまうと、「技術を高めて一から全て自分たちの手で作り上げるべき」というドワーフの里派と、「設計図だろうが何だろうが使える物は全て利用して少しでも早く復活させるべき」というジオグランド中央派に分裂してしまっているという訳だね。


 うーむ……。ドワーフの里側からの言い分を聞いているためか、中央の考え方は相当危険なものであるように思えてしまうなあ。


 リアルで例えるならば、原理も何も知らない素人が3Dプリンターで部品を作って自動車を組み上げてしまうようなものだ。

 極一部の表面的なものを除いて、大半は不具合が起きてもその理由を理解することはできないのではないかな。そもそも、不具合が発生したことに気が付けるかどうかすら疑問だよね。


「あれ?そういう考え方の違いがあるって分かっているはずなのに、王国中央はあんな無茶苦茶な要求をしてきたんだろう?」


 現状を見て貰えれば分かるように、ドワーフの里の大半が技術者であり、その全員を借り出すとなれば街が立ち行かなくなってしまうだろう。

 拒否されて当然というか、受け入れられると思っていたのだとすれば、「頭大丈夫?」と提案者のことを心配しなくてはいけないレベルだと思う。


「まさか拒否させることが目的だったなんてことはない、だろう、し……?」


 本当にそうだろうか?

 例えば、拒否されたことを理由に難癖をつけることが可能になり、実際今もドワーフの里には兵力の撤退や物流停止という制裁が行われている。


「それがさらに進んで、武力で制圧しようとする可能性はありませんか?」

「それをやっちまえば土卿王国内どころか、大陸中のドワーフを敵に回すことになる。中央のバカどもがいくら馬鹿だとしても、そこまでの考えなしの連中じゃねえさ」


 思想の対立の歴史は古いので、強引な力押しで解決するつもりであればとうの昔に起きているはずだ、というのが長老さんの意見だった。


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