417 何かが起きているのかも?
昨日は入国の際の検問という最後の最後で思わぬ時間を取られてしまった。
そんな訳でリアルでは開けて翌日です。と言ってもゲーム内時間では直後となるけれどね。
そうそう、値上がりしていた入国料及び通行料については、人が変わったように丁寧になった検問官の説明によっておじいちゃんも一応は納得することができていた。
何でも十年ほど前にこの辺り一帯を大きな自然災害が襲ったのだそうだ。それによってジオグランド側、シャンディラ側ともに国境の街が大きな被害を受けてしまった。
その復興のための資金調達先として入国料や通行料に目が付けられ、結果大幅に値上がりされることになったのとか。
現在では十二分に復興を果たしているのだけれど、同様の災害が発生した際に使用するための積立金という名目で値上がりしたままとなっているようだ。
リアルでなら裏金やら何やらに思いっきり流用されていそうな話ですが、別に世直しの旅をしている訳でもないので華麗にスルーを決め込むことにいたしましたとさ。
「リュカリュカたちはこのままそっちの兄ちゃんたちの護衛として、南方にあるドワーフの里を目指す予定だったか?」
食堂で揃って夕食を食べながら、今後についての相談開始だ。
ちなみに、お値段よりも安全性や信頼性を重視して決定した、そこそこには上等な格のお宿となっております。
「うん。国境沿いにある道を南下してウーの街に入って、そこから山越えでドワーフの里に行くつもりだよ」
おじいちゃんの問い掛けに頭の中に地図を浮かび上がらせながら答える。
もっとも道順に関してはアッシュさんたちから教わったものです。
「ちょっと待て。どうしてわざわざ危険な山越えをする必要があるんだ?ウーの街からだと地下道を抜ければドワーフの里の目と鼻の先の位置まで安全に行けるだろう?」
「それが、落盤があったとかでドワーフの里付近の地下道は全て通行禁止になってしまっているんですよ」
山間部に作られた巨大な地下道とか、とってもファンタジーっぽい!
是非とも行ってみたいと思っていたので、その返しは凄く残念です……。
「なんだと?それじゃあ、サスの街側の地下道も封鎖されているのか?」
「はい。そっちはケンタウロスたちの動きが活発になっているとかで、山間の街道の方も往来が制限されているそうです」
ちなみに、アッシュさんたちでは明らかに力量が足りないので、そちらには足を延ばしたことがないとのこと。
単純に魔物が強くなるばかりではなく道の方も危険度が増し増しで、荷馬車一台がギリギリで通れるだけの幅の通路が崖沿いに延々と続いているのだとか。
「賢明な判断だと思います。何事も『いのちだいじに』。これ基本」
至言を口にしたはずなのに、なぜだか皆から胡乱げな目付きで見られてしまう。
「言いたいことは理解できるんだけど、常に危険と隣り合わせな生活の冒険者に言われても説得力はないよなあ……」
そういえば世間一般からすると、冒険者といえばお金や名誉と引き換えに率先して危険に飛び込んでいくスリル渇望症な人種という扱いだったっけ。
話を戻すと、ケンタウロス云々はあくまでも伝聞のみの話ということになるようだ。
「蛮族じみたやつらだから、暴れ回っていること自体はおかしくもなんともないが……」
「何か引っかかることがあるのでしょうか?」
「ケンタウロスたちはジオグランド国内でも南西にある荒野を根城にしていたはずだ。なぜならそこが連中にとって一番力を発揮しやすい場所だからだ」
下半身がお馬さんになっているため、起伏が少ない場所の方が機動力という最大の強みを生かしきることができる、ということであるのだそうだ。
「もしかすると、何か大掛かり事件でもあったのかもしれん。あの荒野の開発はジオグランドの歴代の王たちにとって悲願でもあったようだからな……」
おじいちゃんの台詞にきゅぴーんと閃きが走る。
かき集められた冒険者たちはその作戦に従事させられているのではないだろうか?
さらに言えば代々の王様が執着する土地ともなれば、大陸統一国家やそれ以前の『古代魔法文明期』の遺物が残されているという可能性も大いにありそうだ。
それこそボクたちの旅の目的である浮遊島への転移装置が隠されているかもしれない。
最重要ポイントの一つとして、メモ機能を使って書き込んでおきましょう。
「おじいちゃんはこのまま首都グランディオに向かうの?」
「ああ。入国の時の一件があったから、今頃は首都にまで俺がやってきたことは伝わっているはずだからな。場合によっちゃあ迎えと一緒にそのまま『転移門』で直行することになるかもしれん」
根無し草の冒険者ではあっても国難級の災いを退けた英雄であることに違いはない。
そんなおじいちゃんが久しぶりに現れたのだから、王家としても歓迎の意を示してみせるくらいは必要になりそうよね。
まあ、内心ではどう思っているのか分からないけれど。
「連絡事項があるなら冒険者協会の支部で伝言を託せ。宛先を『おじいちゃん』にしておけば怪しまれることもないだろう。俺の方からは、そうだな……、『バカ孫ども』とでもしておくか。それと、分かっているとは思うが、緊急の事態となった時にはすぐにデュランのやつを頼れるように」
「了解だよ。……でも、『バカ孫ども』っていうのはちょっと酷くない?せめて『可愛い孫たち』くらいにして欲しいんだけど」
「…………却下だ」
むう……。偏屈じいちゃんめ。
まあ、少し間があったから多少は心が揺さぶられるくらいはしたようだし、今日のところはこのくらいで勘弁しておいてあげようじゃないの。
「あの、聞いてもいいのか分かりませんが、ディランさんとリュカリュカちゃんはもしかして……」
「血縁関係は全くありませんよ。おじいちゃん呼びしているのは出会った時の名残ですね」
「そういえば初対面の時からそう言われていたな」
「そっちは『嬢ちゃん』扱いしてきたけどね。しかも余波とはいえ問答無用で威圧されたし」
いやあ、あれは怖かった。前日にブラックドラゴンとの騒動がなければ、間違いなく泣き出していたように思われます。
「でぃ、ディラン様から威圧された?」
「おいおい、よく無事でいられたな」
「それ以前に何をやったらそんなことになるんだよ……」
唖然とした顔で口々に呟く行商人トリオです。
気持ちは分からないでもない。改めて思い返してみると、ボクとしてもツッコミどころ満載な展開だったもの。
「余波も何も、リュカリュカだって完全に〔威圧〕の範囲に入っていたはずなんだがな……」
おじいちゃんの呟きは、ついぞ誰の耳に入ることなく食堂の喧騒にかき消されていったのだった。




