415 レアアイテムが出た!
「用心棒の先生、お願いします!」
「どぉれ……、って、おい!このくらいの魔物ならお前たちだけでも問題なく倒せるだろうが!」
ナイス乗り突っ込み!
と言う暇もなく現れた世紀末風なウシ型の魔物、モヒカンバッファロー三体を迎えうちます。
「モ゛ッ!?」
おおう……。さっそく先頭で突撃を掛けてきていた一頭が空中へとかち上げられておりますよ……。
それをやったのは「お肉ー!」と歓喜の叫びを上げんばかりの勢いで真っ先に飛び出して行ったエッ君だった。
闘技の【昇竜撃】でバチコーンと弾き飛ばした訳ですが、お人形サイズのエッ君がリアルの牛さながらの大きさを持つ魔物を吹っ飛ばすというのは、何度見ても目を疑いたくなる光景だ。
質量差とか重量差とか運動エネルギーとかエントロピーの法則とかエンゲル係数とかは一体どうなっておるのか。
「リュカリュカ!ぼうっとしていないで。次が来ますよ!」
「はいはい。了解ですよ」
テコテコとエクスカリオン君の前に出て、あらかじめスタンバイしていたリーヴと並ぶ。
「右側はボクが受け持つから、左側の一体はお願いね」
コクリと頷いたのを確認して、アイテムボックスから牙龍槌杖を取り出した。
「今回は【クレバーウォール】は使わずにやるよ。ボクとリーヴで一当たりして順番に後ろに抜けさせるから止めは二人でお願い」
「了解しました」
「任せろですの!」
何とも頼もしいお言葉。
……だけどミルファさんや、最近あなたの口調が微妙におかしな方向に崩れてきていませんかね?
そんな疑問を持つもこれまた口に出す間もなく、突進してくるお肉、もとい暴走魔物の一体へと狙いを定める。
偶然かそれともゲームによる補正なのか、魔物の方もそれぞれボクとリーヴに分かれて狙いを定めたもよう。
体を捩じるようにして切っ先を背後に回す。タイミングを間違えば先ほどエッ君にやられたモヒカンバッファローよろしく空中へと跳ね飛ばされてしまうことになる。
「集中しろ」と心の中で念じた瞬間、近付いてくるモヒカンバッファロー以外の周囲の景色が消え失せて、同時に時間の流れが遅くなっているのを感じる。
要するに極度の集中によって、脳が最低限必要な部分以外の全ての情報を遮断したために起きた現象、だと思われます。
リアルでは何度か経験のある感覚だが、ゲーム内ではお初となる。
というか、こっちでも発生するのかと驚きですよ。
それとこれ、効果は絶大だけどその分反動も大きいので、できればやりたくはなかったりするのだよね。
リアルでも頭痛がしたり、すっごく空腹になったり、とてつもなく眠くなったりと碌なことがなかった。
まあ、できてしまったものは仕方がない。
きっちり危険を撃退するとしましょうか。
魔物の勢いを殺して、さらには荷馬車や行商人チームに被害を出さずに後方へと抜けさせるために最適な一撃を脳内でシミュレートする。
これさえできてしまえば、後はその通りに体を動かすだけの簡単なお仕事となりまする。
逆に言えば、これを明確に思い浮かべることができなければ成功することはないのだけれど、幸いにも今回はすぐに理想的な動きを描くことができていた。
「ふっ!」
彼我との間が残り数メートルとなったところで、地面を右足で強く蹴って左へと体を流す。
とはいえ、まだ正面衝突の位置からほんの少し軸をずらしただけでしかない。十分に致命傷を与えられると判断したのか、モヒカンバッファローもあえて進路を変更しようとはせず、そのまま突っ込んでくる。
この時点で最後まで居座っていたボクの懸念は払しょくされていた。
さようならモヒカンバッファロー君。そしてこんにちわお肉さん。
特大のサーロインステーキを思い浮かべながら、残る一手を繰り出す。
「【スウィング】!」
捩じられていた体を元に戻す動きに合わせて、両腕で手にしていた牙龍槌杖を思いっきり振り回す。ボクの身体能力だけでは厳しいそんな動きも、闘技のアシスト機能があれば難なくこなすことができた。
「モボフォッ!?」
斧刃に代わり取り付けられていたドラゴンの尻尾を模した鈍器部分でしこたま横っ面を張り倒されて、わずかながらに進行方向を変えるモヒカンバッファロー。
白目をむいたようにも見えたので、一瞬意識が飛んでしまっていたのかもしれない。
これによってボクにも、荷馬車にもぶつかることなく後方へと抜けていく事になった。
そしてそこで待つのは双剣を手にしたミルファだ。
しかもネイトの〔強化魔法〕によって攻撃力を増すというオマケ付きです。
思いっきり頭を揺らされて突進速度が落ちてしまった魔物など良い的にしかならなかったようで、サクサクッと首筋へと入れられた攻撃で事切れたのか横倒しになってしまったのだった。
一方、リーヴへと向かったもう一体だが、【ハイブロック】によって御自慢の突撃を止められた上にズバズバと反撃を喰らい、慌てて逃げた先でこちらもミルファになます切りにされてお肉と化したのでありました。
「まあ、ここいらの魔物相手ならそんなもんだろう。って聞いちゃいねえな、おい……」
おじいちゃんが何か言っていたようだが、お肉の確保が最優先です。
プスリプスリと初心者用ナイフを刺して解体していく。
「ふおおおおおお!!!?」
「なんだ、どうした!?」
「レアアイテムの『極上牛焼肉セット』が取れた!?」
運営の遊び心満載なこれですが、極上と名がつくレアアイテムらしくとてつもなく美味しい――ちなみに調理済みです――とプレイヤー間では評判の品なのだった。
なんでも、一流ホテルのシェフ監修のお味なのだとか。
あくまで噂だけどね。
「何だそんなことか。何が起きたのかと焦ってしまったじゃないか」
「何だとはなんですか!そんな失敬な事を言うおじいちゃんには分けてあげないよ!」
「おい待て!それは横暴だろうが!?」
「働かざる者食うべからずというありがたい格言がありましてー」
「ここに連れてこられている時点で十分働かされているだろうが。老人をこき使いやがって、先人には敬意を払え」
「なにをー!」
そんな風におじいちゃんとやいのやいのと言い合っている側では、
「あのディランさんをおじいちゃん呼ばわりするだけでなく、文句をつけるとか普通あり得ないだろ。リュカリュカちゃんは一体何者なんだよ……」
「少し前の自分を見ているようで不思議な気持ちになりますわね……」
「そうですね」
行商人トリオが呆然としてしまい、そんな彼らをミルファとネイトが生温かい目で見ていたのだった。




