408 旅は道連れ
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昨日は国境の街である『ボーダータウン』に到着した直後にログアウトしたので、現在は町に入るための列に並んでいる真っ最中だったりします。
ボクたちの前に並んでいるのは二頭引きの比較的大きめの馬車が一台と、一頭引きの馬車が三台、そして大きな荷物を背負った人が六人に冒険者らしい人が三人といったところ。
大国であるジオグランドと『風卿エリア』を結ぶほぼ唯一の道沿いにある町としては、少ないような気がする。
街から出てくる方に至っては、馬よりも小さいポニーかロバのような動物に引かせている小さな荷馬車が二台とすれ違ったきりだ。
そういえばシャンディラからの道中でも行商人らしい姿を見かけたのは宿場町ばかりで、日中の街道ではほとんど出会わなかった気がする。
同じ交易の要衝であるクンビーラとは随分な違いだわね。
もっともあちらは自由交易都市と銘打って人や物を多く集めているから、一概には比較できないのかもしれないけれど。
「ほら、ジオグランドの首都の方で人をかき集めているだろう。それに冒険者もたくさん参加してしまったから護衛が少なくなっているんだ」
「街の先にある国境の検問からジオグランド側の検問の間は両国ともに非干渉地帯となっていて、まともに魔物退治なんかができないから特に物騒なんだよ」
「もしかして盗賊とかも居ちゃったりするんですか?」
「さすがに人間種の盗賊はいないさ。その代わりさっきのダークゴブリンや魔物がうようよしてるんだ。だから冒険者の護衛は必須って訳なんだよ」
それなのに多くの冒険者がグランディオへと向かってしまったために護衛の数が足りておらず、結果として両国をまたにかけて活動する商人たちの数も激減してしまっているのだとか。
「なんだか変な話だね。シャンディラの迷宮産の色々な素材は、ジオグランドでも有用な物だと思えるんだけど」
「そいつはアレだよ。シャンディラの素材のほとんどはドワーフの里に運ばれているからだな。俺たちも良くは知らないんだが、ジオグランドのお偉いさん方、特に首都のお人たちはそれが気に入らないらしいぜ」
アッシュさんたちの話によると、このグランディオとドワーフの里との対立は昔から続いているもので、どうやらかなり根が深いものであるらしい。
シャンディラの鍛冶屋の親方だったドワーフさんも材料が手に入らないことが不満でドワーフの里を飛び出したと言っていたから、今回のような嫌がらせじみたことが過去に何度もあったのかもしれない。
そしてこのままだとアッシュさんたちもまた、そのとばっちりを受けることになるのでは?
「皆さんはどうするつもりだったんですの?」
同じく疑問に思ったのだろう、ミルファが尋ねる。
「一応当てがあるからその連中に頼むことになるだろうな……」
答えてくれたのはいいけれど、微妙にしかめっ面になっているヴァイさんです。
詳しく話を聞いてみると、冒険者の中には『ボーダータウン』とジオグランド側の国境の街――シャンディラ側とは違って、検問所のある砦と一体化しているそうだ――との間の護衛を専門にする人たちがいるのだそうだ。
が、現在他の冒険者がいない、つまり競争相手が少なくなっているためにかなり護衛の値段を吊り上げてきているとのこと。
「前回も足元を見られて思いっきりぼったくられたからなあ。あの頃よりも一段と行き来している冒険者の数が減っているようだし、今回も相当吹っ掛けてくるだろうな……」
そう言ってため息を吐くインゴさん。
いわゆる頭痛が痛い状態なようです。
そして御者台に座る彼らのさらに後ろの荷台から、こちらを見つめる二対の目が。
はいはい、了解ですよ。ボクとしてもここで放置するのは気がかりに感じられてしまうだろうから。
とはいえ、確認は必要だ。
「ところでアッシュさんたちは、ジオグランドのどこに向かうつもりなの?」
これまでの会話の流れからすると、あそこになるのだろうけれど。
「そういえば言ってなかったな。俺たちはドワーフの里に向かう予定だよ」
やっぱり。再度荷台にいる二人へと視線を向けると、コクコクと頷いております。
ネイトさんや、最近のあなたはミルファに毒されてきてはいませんかね?動きがそっくりになってきているんですけど……。
「えーと……、アッシュさんたちが良ければこのままドワーフの里に着くまで、ボクたちを護衛に雇いませんか?」
「え?そりゃあこっちは願ったり叶ったりだが、リュカリュカちゃんたちはそれで構わないのか?」
「構わないも何も、絶対に行かなくちゃいけない場所がある訳でもないし、そもそも見聞を広げるのが目的の旅ですから」
一番の目的って訳ではないだけで、別に嘘は言っていないです。
行き先についても特に当てがある訳でもないからね。強いて挙げるならジオグランド国内に入り込むこと、それ自体が目的だということになるかな。
「あ、できれば『ボーダータウン』から先は、冒険者協会を通した正式な依頼ということにしてもらいたいんですけど」
口約束であることを理由に、強引に割り込んでくるやからがいるかもしれないし。
さらに言えば、もしも国境の街にある冒険者協会の支部がジオグランド側についていた場合、半強制的に首都グランディオへと向かわされるかもしれない。
ダークゴブリンの件も含めて、どのような反応をするのかで見極めていくしかないだろう。
「それはこちらからもお願いしようと思っていたところだよ。依頼なしに長期の護衛をさせていると、冒険者を騙しているんじゃないかとか、禁制品を運んでいるんじゃないかと同業者から怪しまれることがあるから」
アッシュさんの話は単純な理屈で、非正規の依頼イコール後ろ暗いところがある、という具合に捉えられるためだ。
身の潔白を主張するためにも、冒険者への護衛依頼は冒険者協会を通した正式なものであるべきだとされているらしい。
この辺は『冒険者協会』と『商業組合』との間で、お互いに利になるように何かしらの取り決めがあったのかもしれないね。
そうこうしている間にボクたちの番になり、門番さんたちのとの簡単なやり取りと通行料を納めた後、無事に街の中へと進むことができたのだった。




