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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十八章 土卿王国へ1 迷宮都市シャンディラ
396/933

396 ヒントが出たかも

 宿を出て食堂などが集まっている区画へと向かう。

 前にも説明した通り、シャンディラは街全体が一個の巨大建造物であるため、常に食べ物を提供できる場所が限られているためだ。


 そういう場所には自然と人が集まって来るようになるため、情報収集にはもってこいな所でもあるのだよね。

 玉石混淆(ぎょくせきこんこう)どころか、明らかに嘘だという噂話も普通に混じっているので、その辺りは注意が必要です。

 まあ、リアルのネット情報に比べれば、まだまだかわいいものかもしれないけれど。


 目に付いた屋台で買った串焼き肉――迷宮産の魔物肉らしい。食べられなくなると困るので、詳しいことは聞かなかったけど――は、あらかじめ用意していたパンに挟んで食べると絶品でした。

 ただ、珍しい食べ方だったらしく注目されてしまい、落ち着く間もなく移動する羽目になってしまったのは予想外だった。

 プレイヤーが活躍しやすい状況を作るためなのか、相変わらず食文化に関しては微妙にちぐはぐなことになっているようだ。


 そんなこんなで少し早い昼食を終えて、一応は空腹度を下げることができたボクたちは、昨日立ち寄った武器屋さんへと到着していた。

 時刻は丁度お昼になったばかりと約束の時間よりは早い。が、昨日の見ることができなかった武器などを眺めていれば、すぐに時間は過ぎてしまうことだろう。


 ……そんな風に考えていたのですが。


「こんにちは」

「やあ、嬢ちゃんたちか。預かっていた装備品の修復は終わっているぞ」


 なんとまさかの完了済みで納品待ちの状態でした。


「は、早いですね……」

「ふんっ!あんな代物を持ち込まれたら、他の仕事に手が付くはずがなかろうが」


 驚きの余り呟いたボクの一言を拾ったのは、店員さんと向かい合って座っていた見慣れた姿のおじさんだ。

 とはいえ、その人物を見知っていたという訳ではなく、初顔合わせなのは間違いない。


 それでも彼の醸し出す大雑把でありながら繊細という相反した雰囲気や、髭に覆われた顔や背は低くても筋肉の塊のような体つきと言ったドワーフ男性特有の容姿が、ボクに懐かしい顔を思い出させてくれていたのだった。


 ゴードンさんたち『石の金床』の職人さんたちは元気に……、しているだろうね。

 うん、間違いないと思う。


「それにしても、もうクンビーラを懐かしく思い出すようになるなんてね……。ゲーム内だと出発してからまだ一週間も経っていないのになあ」


 そういえば、先日は『猟犬のあくび亭』の美味しいご飯のことを思い出すことになっていたね。

 リアルでは実家住まいな上に長期間親元を離れたこともなかったので良く分からなかったが、これがホームシックというやつなのかもしれない。


 そんな風にちょっとばかりしんみりしていたボクとは裏腹に、目の前では店員さんとおじさんが気さくな感じで言い争いを繰り広げていた。


「だからって、他の仕事を放り出さないでくれよ……」

「なんじゃと?あんな無茶苦茶な納期で仕事を持ってきおってからに、それが寝る間も惜しんで仕上げてやった相手に対する態度か」

「納期が三日だろうが一週間だろうが、親方のことだからどうせ徹夜したに決まってるさ。だいたい、顔を合わせるたびに、やれ「もっと面白い仕事を持ってこい」だの、「もっとやりがいのある仕事はないのか」って文句を言っていたのはそっちじゃないか」

「やりがいのある仕事と美味い酒を求めるのはドワーフの本能じゃからな!」

「それなら今回の仕事に問題はないだろ。何といっても頼んだのはグロウアームズの修復なんだから」

「ふん!修復だけということに不満はあるがな!だが、昨日この街にやってきたばかりだというなら仕方のない話じゃ」


 そこで話を区切ると、親方と呼ばれたそのドワーフ男性は唐突にボクの方へと向き直った。


「……ふむ。どうやらお前さんがあの二振りの持ち主だというのは間違いないようじゃな」

「えーと……、そういうのって分かるもの、なんですか?」

「並み程度の腕のやつでは無理じゃな。一部の天才と呼ばれるような連中か、もしくは長年武具に(たずさ)わって見る目を鍛えてきた者くらいなもんじゃろう。ワシや……、こいつのようにな」


 親方の言葉に目を丸くして驚いている店員さん。

 これは、あれですかね?今まで褒めてくれたことなんてなかったから、突然のことにビックリしてしまっているのではないでしょうか。


「なんだよ、親方が俺のことを誉めるだなんて、明日は雪でも降るんじゃないのか!?」


 やっぱり。それにしても雨を飛び越えていきなり雪になるとは……。

 褒められて伸びるタイプのボクとしてはもっと常日頃から誉めてあげるべきだと思うんだけどね。


「ふん!せっかく褒めてやったんだからありがたく受け取らんか!」

「なんで褒められるのに、怒鳴られなくちゃいけないんだよ……」

「何か言ったか?」

「いえいえ。ありがたく頂戴しますよ」

「最初からそう言っておけばいいんじゃ」


 無事に?話がまとまったようで何よりです。

 仕事を依頼した身としては、受けてくれた人たちの関係が険悪になるとか勘弁してほしいので。


「ミルファもネイトも、もっとボクのことを誉めていいんだよ?」

「いきなり何を言い出しますのやら……」

「それ以前にリュカリュカは私たちに叱られないよう心がけるべきですね」


 ううむ、手強い。

 ついでにボクのパーティー内での待遇(たいぐう)改善になればと持ちかけてみたが、ミルファにはあっさり流され、ネイトからは逆に反撃を受けてしまいましたとさ。


「おっと、こいつのことよりもお前さんじゃ。修復をしてみた限り、この二振りを使い始めてからまだそれほど経っていないように見えるんじゃが、当たっておるか?」

「そんなことまで分かるんですか!?」


 鍛冶師凄い!職人凄い!

 果たしてこれはNPC特有の能力になるのか、それともプレイヤーでも発動する類のものなのか。

 リアルでも神業的な技術を持つ職人さんはいくらでもいるから、それを再現したのであれば、いずれプレイヤーでもその域へと足を踏み入れる人たちが出てきそうな気もする。


 ちなみに、店員さんはそこまでは見抜けていなかったらしく、悔しそうな、それでいて嬉しそうな複雑な表情をしていました。

 道が険しいほど燃えるタイプですか。

 厄介な性格だね。まあ、嫌いじゃないけど。


「そこで、だ。もしもジオグランドへ行くつもりならドワーフの里を訪ねてみてはどうじゃ」


 そしてボクの反応に気を良くしたのか、親方さんはそんな提案をしてくれたのだった。


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