391 さっそく装備するかい
特定の食材や商品に対して否定的な見解がありますが、あくまでも個人の感想であり、貶めるような意図はありません。
あしからずご了承ください。
「こんな閉鎖された空間で食べ物、特に匂いの強いものを調理したりすれば大変なことになってしまうでしょう。だからシャンディラでは特定の場所でしか食べ物関係の店を開いてはいけないことになっているのですよ」
なるほど。そういうことだったのか。
ちなみに香りの少ない生鮮食品、例えば野菜や果物くらいであれば良いのではないかと思えたのだけど、どうやら『OAW』にもドリアン的な強烈な臭いのフルーツが存在しているらしい。
「ある意味不幸なことに、シャンディラには迷宮がありますからね。珍しい物であっても入手できてしまったのです」
異臭騒ぎどころか、謎の侵略者が派遣した潜入部隊による工作かという憶測まで生まれ、あわや粛清や暴動の大惨事を巻き起こすところだったのだとか。
「そのようなことがあったために、シャンディラでは食べ物や匂いの強い物への管理が徹底して行われるようになっているのです」
「それはまた、大変なことがあったんだね……」
あの臭いは本気で強烈だから。
朧気になりつつある記憶が、連想してしまったことで一気に鮮明さを取り戻していき、思わず両手で口元を抑えてしまう。
「どうかしましたの?」
「もしかして、騒動の元になったフルーツを見たことがあるんですか?」
「同じ物かどうかは分からないけど、リア……、じゃなくてメイションで似たようなフルーツを加工したものを食べたことがあるよ」
知り合いのそのまた知り合いが海外旅行に行った際のお土産だったかな。
乾燥させたドリアンを貰ったことがあったのだ。
「どんな味でしたの?」
「一言で言うなら、埃の塊を食べている気分になった」
興味津々といった雰囲気だったミルファとエッ君が途端に表情をなくしてしまう。
小さく切って個包装されていたから食べるまでは全くおかしなところがなかったのだが、いざ口の中へと放り込んでみれば、喉や鼻へと広がっていく異臭ばかりが感じられて、正直味なんて全く分からなかったです……。
「最初に話を聞いた時には怪しんで用心していたんだけどね。包装が上手くできていたのか全く変な臭いもしなかったことで気が緩んでしまっていたのかも」
「油断させておいてから奇襲を行うだなんて、えげつない作戦ですわ……」
いや、ミルファさんや。別にお客を騙すためだとか嵌めるためにやっている訳じゃないから。
きっと商品を購入しやすいようにという涙ぐましい努力の現れ、なのだと思う。多分……。
結局、目的のお店へと到着するまで、ボクたちはこの微妙な空気を吹き飛ばすことはできずにいたのだった。
「いらっしゃい!ってなんだおい!?随分暗い雰囲気じゃないか!?どうしたお嬢ちゃんたち?迷宮で大失敗でもやらかしたのか?」
と、店員さんに驚かれて心配されるほどだったのだから相当なものだったのだろう。
「あー、いえ。そういう訳ではなくてですね。ちょっぴり旅の疲れが出てきたのかもしれないです」
とりあえず誤魔化して、お目当ての品が置かれている場所を尋ねる。
「頭用の防具はそっちの棚で、アクセサリー関連はこっちだな。御覧の通り他に客もいないから、ゆっくり見ていってくれや」
その台詞に気になるものを感じながらも、とりあえずは目的を果たすことを優先させる。
そこには帽子っぽい物から始まり、これぞ兜!と言わんばかりの立派な物まで多種多様なものが並べられていた。
中には変わり種として運動会で使用するようなハチマキにしか見えないものや、リアルでバイクに乗っている人が被っているようなフルフェイスヘルメット、果ては某有名武将が被っていたとされているド派手なニポン風の兜――ただし額の立物として書かれている文字は『LOVE』……――なども置かれていたけどね。
「こんなの買う人がいるの?」
外国人観光客向けのパチモノにすらないような胡散臭い装丁に呆れてしまう。
「お!良い物に目を付けたな。見ての通り変わった形の上にド派手だから、魔物から優先的に狙われるという効果があるんだよ。盾役をこなすやつらに人気の品だぜ」
「まさかの有用装備だった!?」
そんなボクの呟きを拾っては自慢げに語り始めた店員さんの言葉に、半ば脊髄反射で驚きの声を発してしまいましたよ。
恐るべし、『LOVE兜』……。
まあ、ボクたちのメンバーでは装備できる人はいないだろうけどね。なにせ一番の盾役であるリーヴは御覧の通り自前の立派なヘルムがある訳で。
同じ前衛でも遊撃役のエッ君が目立ち過ぎるのは論外だし、ミルファの場合は両手に持つ剣を巧みに使って敵の攻撃をいなしたり流したりするのが基本の動きとなる。
よって軽快な動きの邪魔になりそうな大きな飾りの付いた兜では不適当となってしまうのだ。
え?ボク?
ボクはあんな変な兜――個人の感想です――被りたくないです。
という訳で真面目に良さげな商品を探していく事に。
そしてああでもない、こうでもないと話し合いながら選んだのがこちらとなります。
まずはボクから。
頭には『魔法銀の円環』、アクセサリー枠に『アイアンビートルの籠手』と『アラクネ糸のインナーシャツ』を購入。
物理防御と魔法力の両方を上げることにした。
ミルファは前衛ということでより物理防御力重視とするため、頭を『魔鉄鋼の額宛て』に、残るアクセサリーの二枠はボクと同じということになった。
「アイアンビートルの外骨格で作った兜の方が軽いし丈夫だぜ?」
「いくら加工してあるとはいっても、虫素材を被るのは遠慮したいですわ……」
対してネイトは後衛なので魔法力特化となる。
頭には『アウラウネバンド』を、アクセサリー枠の三つに『魔法銀のネックレス』と『アラクネ糸の外套』そして『アラクネ糸のインナーシャツ』選択していた。
さらに彼女は左手の枠も開いていたので『魔法銀の腕輪』も購入です。
「帽子タイプの方が性能は良かったみたいだけどね」
「耳が隠れてしまいますから、仕方がありませんよ」
いくら装備品の性能が良くなったとしても、ネイト自身の能力が低下してしまっては本末転倒になってしまうからこれで良かったのだろう。
後、せっかくなのでエッ君とリーヴにも何か装備できるものはないかと探してみたところ、エッ君には『赤組のハチマキ』が、リーヴには『アラクネ糸のマント』がアクセサリー枠で装備することができることが判明。
もちろん即決で購入させて頂きましたとも。




