表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十七章 事件です
382/933

382 健全な関係

 今さらながらだけれど、いくら被害者だからといって、一プレイヤーであるボクにそこまで事情を話してしまって良かったのだろうか?

 まあ、協力者としての立場でありたいボクとしては願ったりかなったりな状況だと言えるのだけど。


「このままどこの誰とも分からない相手にしてやられたとするよりは、後手には回っていますが最悪を回避することはできていると主張する方へと、社内の意見が傾いているようですね。……見事リュカリュカさんの提案通りに進み始めているという訳です」


 えーと……。なんだかネコさんの言葉に棘あるような?


「あくまで個人の考えではありますが、運営とプレイヤーとの間には確固たる境界を定めておくべきだと思っているのです」


 今さらだけど独立した自我をもって思考を行うAIとか、実はとんでもない技術なのではないだろうか。

 あり得ない超技術とまではいかないとしても、レアケースであることに間違いはないだろう。もしかすると、歴史の転換点に立ち会っているのかも!?


 と、アウラロウラさんの高性能さについては一旦置いておくとしまして。

 彼女が語った内容の方へと意識を向けることにしましょうか。運営とプレイヤーの間にしっかりとした線引きが必要だと言われれば、確かにその通りのようにも思える。


 なぜなら運営はサービスの提供側であり、プレイヤーはその顧客側に分類されるからだ。

 もっと極端に言えば、VRゲームという商品を介して、前者は利益を得る側、後者は利益を与える側ということになるだろうね。


 その距離が近くなればなるほど、不正の温床になる可能性は高くなり、またそうした事実はなくとも疑惑の目を向けられやすくなると思われます。

 ボクだって一部のプレイヤーからは『冒険日記』を連載する見返りとして、ゲームを優位に進めることができるように様々な便宜を図ってもらっているのではないかと思われているくらいだ。


 実際にはただいま絶賛製作中の「AR技術を用いたテイムモンスターとの触れ合い機能」が実装された時に先行無料配布してくれることになっているだけで、ゲーム内では全く役に立たなかったりするのだけれど。

 ちなみに色々と問題が発生してしまっているらしく、実装の詳しい日程などは未だに不明のままだったりしている。


 いっそのこと、この辺のことも公表してしまった方が文句も付けられなくなるかも?

 状況が落ち着いたら里っちゃんやアウラロウラさんに相談してみるのもアリかもしれないね。


「通常であれば倫理意識が高いのは歓迎すべきことだと思うんですけどね。今はちょっぴり普通じゃないということでお目こぼしを願えたらなー、なんて……」


 こちらとしても毎度毎度無茶を通そうだなどとは思ってはいない。あくまでも今回一度限りのことで、しかもそうしなくてはいけないくらいの非常事態なのだと強調しておきます。

 まあ、彼女の方もそれは十分に承知していたようだけど。それでもあえてボクのことを思って苦言を呈してくれた、というところなのだと思う。


「アウラロウラさんのお心遣いはありがたく思っているんですよ」

「嘘だと断じるつもりはありませんが、それならばそれらしい行動を取って頂きたいものです」


 あうち。間違いなく本心からの言葉だったのだけれど、どうにもタイミングが悪かったようで、ぐっさりと太い釘を刺されることになったのでした。


「そ、それにつきましては善処しますということで……。ところで、少し考えてみたんですが、もしかするとメイションで襲撃してきたことそれ自体に何か意味があったんじゃないでしょうか」


 あからさまな話題転換に「こいつ、懲りてないな」と言わんばかりの呆れた表情を浮かべていたアウラロウラさんだったが、すぐにそれを真剣なものへと変化させていた。

 どうやらボクの言葉に感じるところがあったらしい。


「先ほどもご説明しました通り、メイションでは暴力行為に限りそのプロテクトは非常に高くなっています。そのため、あえてそこを襲撃現場に選んでいることにワタクシどもも違和感を覚えてはおりました」


 ふむふむ。本職の運営の人たちと同じであるなら、素人考えではあっても完全な見当違いの的外れということでもなさそうだね。


「そこで一番に思い付いたのが、あえて高いプロテクトを突破してみせることで、自分たちの力量を見せつけようとしたのではないか、というものでした。しかし、直後にこの説には大きな欠点があると判明することになりました」

「犯行声明とか、自分たちの仕業だとほのめかす主張が一切ないんですね?」

「その通りです。警察からの報告によりますと、現行犯として捕らえられた人物も心神喪失のような状態でそれどころではないようです」


 演技をしているだけなのかはともかくとして、力量を見せつけたいのであれば、犯行者側から何らかのアクションはあってしかるべきだろうと思う。


 そうなると、やっぱり見当違いの考えだった?

 いやいや、たった一つ仮説に上手く説明が付けられなかったからといって、外れだと決めつけるのは早過ぎるはずだ。

 ここは違う視点から見てみることにしようか。


「逆に『OAW』運営からすると、高めていたはずのプロテクトを乗り越えられてしまったのだから、大きな失態となったと考えても問題ありませんか?」

「……残念ながらリュカリュカさんの指摘の通りかと」


 答えるまでのちょっとだけあった間に、アウラロウラさんたち運営の認めたくはない気持ちが見え隠れしているように思えた。


「もう一つ質問です。メイション内に張り巡らされている強力なプロテクトのことは、プレイヤーにはどのくらい知られていますか?」

「はっきりした数は申し上げられませんが、初期の騒動を体験した人、並びにそれらについての話題を聞いたことがある人、それに『笑顔』も一緒にプレイしている人であれば、知っていると思われます。後、ヘルプ機能内のメイションの項目にも記載されているので、そうしたものによく目を通している人であれば、当然知っていたことでしょう」


 これは相当数が知っていると考えて良さそうだね。

 ここでアウラロウラさんに一言断りを入れて『OAW』管轄内の掲示板を覗いてみることにする。


「プレイヤーの間では既に「『OAW』のセキュリティーやプロテクトは脆弱なのでは?」という不安が広がりつつあるようですね」


 覗き込むような仕草はしていないが、彼女にはボクが目を通している文字が見えているようだ。

 まあ、AIな上に高位の管理者権限を持っているのだから、それくらいはできて当たり前なのだけどね。


 それはさておき、犯人たちの狙いが見えた!

 ……かもしれないです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ