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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション
370/933

370 へにょんな垂れ耳

 翌日のこと。勉強の合間に『OAW』のシステムを起動して、ミザリーさんとヤマト君から送られてきていたメールを読んでいた。


「同じエリアからスタートしているっていうのはある意味予想通りだったんだけど、まさか『土卿エリア』からだったとはね……」


 特にミザリーさんは種族をエルフにしていた。そのためドワーフが多いとされている『土卿エリア』は避けているのではないかと勝手に想像していたから、まさかまさかでビックリ大仰天でしたよ。

 まあ、外見の方は褐色肌のダークエルフさんなので、あえて狙ってやったのかもしれない。


 冷静で大人しそうな雰囲気で、親切そうなだけではなく実際に親切な彼女だけれど、お茶目なところもあるからね。

 他人の意表を突くのはなかなかに得意であったりするのです。


 話題をメールの内容に戻そうか。

 既にお分かりだともうけれど、彼女たちからのメールはボクがプレイヤーの人たちに聞いて回っているゲーム開始直後の初期エリアの様子についてのことだった。

 幸いにも通常通りの設定で始めていたので問題なく参考にできるというのもありがたいところだ。

 後でお礼の返信を入れておかないと。


「それにしても、二人のところと同じようにボクのワールドの事情も進んでいるとなると、行き先の順番を根本的に見直す必要がありそうだね……」


 二人がスタート地点に選んでいたのは『土卿王国ジオグランド』の首都グランディオだったのだけれど、なんと初っ端(しょっぱな)から軍備を拡張しているらしいのだ。

 そのため冒険者になるルート以外にも、兵士として士官するという進め方をするプレイヤーも多いのだそうだ。


 それというのも、兵士となればクエストを選んだりすることができなくなる半面、衣食住が完備されている上に装備品に消耗品などのアイテム類も支給してくれるからだ。

 しかも安いながらもお給料も貰えるし、魔物との戦闘も兵士仲間と一緒になって行うので安定してレベルアップが行えるのだとか。


 夢も希望もあったものじゃない!とまでは言わないが、なんだかリアルの世知辛さや不安定さの表れのようで、ちょっぴり心が痛くなってくる話だよね……。


 それはともかくとして、これらは単純にプレイヤーに複数のルートを選べる選択肢を用意してある、と考えるのが妥当なところだと思う。

 が、いくつか疑問に感じることも存在していた。

 特に何のために軍備を拡張しているのか、その目的が分からないことが問題だ。


 これまではエリア間移動ができなかったこともあってなのか、この点が明らかにされることはなかったらしい。

 これってつまり、エリアを超えた先の場所に侵攻しようとしているということに他ならないのではないでせうか?


 仮にこの予想が正しかったとなると、ボクのワールド、結構危険な状況になっているかもしれなくない?


 ミルファたちが集めているだろう情報と、すり合わせて確認しておかなくちゃいけない最重要項目の一つだわね。

 そんなことを考えながら勉強を再開するのだった。


 そして夜になり、ゲームの時間だとばかりに『OAW』を起動させたボクがやってきたのは、ここしばらくですっかりおなじみとなったメイションだった。


「今日も他国の情報を集めますの?」


 チーミルの問い掛けに「ううん」と首を横に振る。

 そう、今日は昨日に引き続き別件の用事が入っていたのだ。さっそくそのお相手に連絡を取ってみると、珍しいことにいつも露店を開いている路地裏ではなく、あるお店を指定されたのだった。


 添付されていた地図を頼りに目的地へと向かうと、何だか見覚えのある景色が。

 と言っても、あの合同イベントの前の数日間でメイション内のほとんどを歩き尽くしていたから、大抵の場所には見覚えがあったりするのだけれどね。


「えーと、『雑貨屋ミセレニアス』。……うん、この店に間違いなさそう。みんな、入るよー」


 先頭に立ってうちの子たちと店の中へと進んで行く。

 と、そこには連絡を取り合っていた相手であるスミスさん以外に想定もしていなかった人が待っていた。


「ケイミーさんじゃないですか!お久しぶりですね!」


 なんとお店に居たのはチーミルとリーネイ――の元になった人形――の制作者のケイミーさんだったのだ。

 ……道理で見覚えがあるというか印象に残っていたはずだ。彼女と出会ったのがこの店の軒先であったのだから。

 いやあ、随分と久しぶりな気がするけれど、実際はまだ一カ月も経っていないのだよね。


 しかし、ニコニコと挨拶するボクとは対照的に、ケイミーさんはなぜだかばつが悪そうな顔をしていた。

 彼女の不安定な感情を反映しているのか、瞳は時折弱々しく明滅しているし、頭の上の猫耳もへにょんと力なく垂れてしまっている。

 事情はよく分からないけれど、どうやらケイミーさんはボクに罪悪感を覚えてしまっているようだ。


 こういう時の対処法はというと……。里っちゃんは基本的には待ちに徹することにしていたかな。

 罪悪感、つまり罪の意識を抱くというのはなかなかに心身共に負担となってしまう。気が付かない間に精神的に一杯いっぱいになってしまっている、なんてこともよくあるらしい。


 そんな時に状況を良く知りもしないで声をかけてしまうと、暴発させてしまうかもしれない。

 例えるなら、爆弾の正確な解除方法も知らないのに、ぶちぶちとコードを引っこ抜いて回るようなものなのだとか。


 うん。おっかないどころかシャレになってないよね。

 そのため設置した本人に解除をお任せするのが一番安全で安心な方法なのだそうだ。


 ただし!世の中には何事にも例外というものが存在しているものでして。罪悪感にはもれなく後悔というものがセットで付いて回ることが多いものだったりする。

 大抵の人には経験があると思うのだけど、この後悔君、デデンと大きくなって人を押し潰してはその場から身動きを取れなくさせるという、(おっそ)ろしい特殊能力を持っていたりするのだよねえ。


 この特殊能力が発動してしまうと、忍法影縛りや麻痺の状態異常もビックリなくらい行動に制限が掛かってしまうことになる。

 しかも厄介なことに自力での脱出が極めて難しいというオマケまで付いている。


 そして早い話、ケイミーさんもこの特殊能力に捕らわれてしまっているようなのだ。

 ちらりとスミスさんへと視線を向かわせると、彼もまたどうしていいのやらわからずに困惑した顔付きとなっていた。

 この状況に一枚噛んではいるけれど、この展開は予想外だったというところかな。


 仕方がない。ここはボクの方から動いてみるとしますか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 強烈な罪悪感? なんだ? リュカリュカのプレイヤーネームをどこかでポロった? それ以外っつーと、人形関連で不義理? それ以外っつーと全くピンと来ませんです。
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